当日
次の日、今日はずっと晴れていたので、夕方には、昨日のじめじめとした空気はとっくに空に消えていました。女の子が雨宿りをしていた桜の木の、芽吹いたばかりの葉と薄いピンクの花びらが柔らかく揺れています。頬を撫でるほどの優しい風にも、雨に打たれた花びらたちは最後の力が尽きて、はらり、はらりと落ちていきました。
今日も小さな神社に来客です。といっても、昨日と同じ女の子でした。スニーカーまでぐっしょり濡れていたので、頭からつま先まで昨日とは違って、眩しい白いTシャツに、ジーンズとラフな格好でした。雨に濡れるなら明らかにこちらの服装が適していますが、女の子はそんなことを考えていないのでしょう、今日も同じ桜の木の下に立っていました。時計も昨日と違っています。
今度は特にきょろきょろと人の顔を見ることもなく、木にもたれかかって、目をつむっていました。
きっかり三十分、そうしていたかと思うと、急に覚醒して目をぱっちり開け、神社への階段を駆け上がって行きました。もちろん、鳥居への礼は忘れません。
参拝方法に従って、神様に手を合わせていました。
「神様、聞いていた話と違います」
そんなことを言っています。昨日の女子高生の変わった子、という評価はおよそ大多数の評価になるのでしょう。
「いつですか」
そんなことをつぶやいていました。
「……ごめんなさい」
謝りました。
それから、振り返って、参道を戻っていきます。
では、そろそろでしょうか。
階段の下には、昨日、自転車で通り過ぎていった青年がいました。青年は今日は制服で、下校中に、昨日変なものを見たところで足を止めたようでした。
「あ、桜が……」
風が強くなって、花びらが絶えず舞っています。女の子が階段の途中で落ちてくる花びらに手を伸ばしたとき、私は女の子の背中を押しました。
「えっ?」
あと五、六段のところで、女の子はバランスを崩して倒れました。
「はっ?」
それに偶然気づいた青年は、女の子を抱きとめました。お互いに何が起こったのかわからないまま、見つめ合っていました。
「は? そういうこと?」
女の子だけは先に全てを理解して、半笑いになっています。
「あ、あぶない……」
青年は絞り出したような声でそう言って、ため息をついた。
じゃあ、がんばってね。
私は女の子の後ろから手を振って、神社の中に帰りました。
うまくいくといいね。
中にいた他の子に声をかけます。
そうだね。私たちの声を聞こうとする貴重な子だもんね。
その子から返って来ます。
たぶんこれからも来るだろうから、そのたびに助けてあげましょうか。
そうだね。
私たちは頷き合って、笑いました。
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