願いを叶えることになりました。
ちょうわ
桜の下で、雨宿り
あと一日
桜の季節がやってきました。今年も多くの蕾が開き、その淡く薄い花びらが風に揺れ、多くは飛ばされていきます。
その花を散らす雨が降り出しました。昨日今日、いいえ、もっと前から、花を散らす雨、桜雨やら桜流しやらとかいう雨が予報され、ついさっきの土日には桜の咲く公園に食べ物や酒を持った人々が大勢やってきました。
その雨予報を見ていなかったのでしょうか、傘を持たない女の子が困り果てたように空を仰いでいます。春らしい淡い暖色で統一された服を着た女の子は、風変わりも風変わり、神社に登る石階段の途中、張り出した桜の木の下で雨を避けているのです。もちろん、葉よりも頼りない薄い花びらは雨を受け止めることなどできません。
女の子の髪はたちまちびしょ濡れになり、まつげは細かい雫を纏いました。それでも女の子はその場所から離れて屋根の下に向かおうとはしません。いったい何があったのでしょう。少し、見守っていましょうか。
衣替えを終えたのか半袖の人も時々見かけますが、まだ雨に濡れて平気でいられるほど暖かいわけではないのです。女の子は腕を擦って、寒がっていました。雨に耐えられるから濡れているのではなく、雨に耐えられないけれど濡れているのでした。
女の子はしきりに腕時計を確認し、通り過ぎる人に過敏に反応しています。待ち合わせでしょうか。
「えーあの子どうしたの?」
通りすがりの女子高生が女の子をちらちら見ながら通り過ぎていきます。
「同中じゃん。昔からね、あんなやつだったよ」
互いの傘が凹むほど近づいていて、笑いながら遠ざかっていきます。話題はあっという間に別のことに変わっていました。
自転車で傘もささずに慌ただしく走る青年がやってきました。まだ服に斑点模様が付いたくらいで、それほど濡れていません。すれ違う瞬間、同じく傘をさしていない女の子に目をやりましたが、急ぎの用があるのでしょうか、何事もなかったように通り過ぎていきました。
雨が和らいだとき、女の子はそれまでより長い間、時計を見つめていました。明らかに落胆したようなため息をついて、神社の階段を登っていきました。鳥居に礼をし、既に濡れている手を清め、口を清め、参道の端を歩いていきます。参拝のきまりを守っていますが、やはり、この現代、しかも日本で、傘を持たずに体の芯まで濡れた女の子がお参りをしているのは異様な光景でした。
雨の日の小さな神社には、誰もいません。お願いを、声に出していました。
「まだですか……?」
声はとても小さいのですが、声には力がこもっていました。
ずいぶん長い間手を合わせていました。顔を上げたとき、雨はほとんど降っていませんでした。
女の子は回れ右をして、階段を降りて、どこかに行ってしまいました。
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