新しい世界(四)

「失礼します」

 笑顔で迎え入れられ、それほど広くはない室内を見渡す。

 床には木目のある樹脂製のカーペットが敷かれ、土足で出入りできるようになっている。茶色の二人掛けソファーが左右に二つにガラスの長テーブル、その奥に机と回転椅子が二つずつ。奥からの窓の光が少し眩しい。

 角やテーブルの上に観葉植物や花が飾られ、壁にも風景画と、来客の心を和やかにさせる工夫が凝らされていた。そんなに特徴的な部屋ではないけど、なぜか既視感を覚える。

 いや、最大の既視感はそういう部分じゃなくて、机の向こうで背中を向けて回転椅子に座っている後ろ姿にあったのかもしれない。

 黒いコートを着て黒いシルクハットを小ぶりにしたような帽子を被った小柄な人物は、こちらをゆったりと振り返る。

「ようこそ、佐々良さん」

 笑みの色が短い間に変わった気がした。一瞬性別不詳に見えたものの、声からすると多分若い男性だ。彼は最後には苦笑にも見えるほほ笑みを浮かべ、椅子を立って机の前で立ち止まる。

 わたしはしばらく、茫然とその姿を見ていた。その姿も笑顔も、どこかで会ったことがあるような……? たぶん、夢の中で。

「僕は蒼井恵人。ここの調整役の一人だ。大体の話は聞いているから、細かい部分を詰めようか」

 言われて我に返る。他人の空似にしては似過ぎている気がするけれど、彼の対応も初対面そのもの。

 それにしても彼も含むこの場にいる誰もが、ほかの一般人とは違う気配を持っているように感じられた。能力者だから?

 ソファーに座るよう案内され、四人でガラスのテーブルに向かいながら仕事の話をする。

 まずは登録を、と言われ書類に名前と能力を書く。佐々良ひさめ、〈投擲〉〈飛行能力〉〈透明化〉。そして手に持つタイプのバーコード読み取り機に似たものを手のひらにかざされ、登録終了。

「これであなたが〈第五世界の二重線〉のプレイヤー、つまり能力者であることが証明されるの」

 なるほど、便利な技術。まあ超技術ならこの〈第五世界の二重線〉というゲームを成り立たせているものもそうだし、コビーもそうなのだから、今さら驚くまでもないけれど。

 当初の予定どおり、わたしが引き受けるのは連絡役と監視、そして可能なときにお手紙、ということになった。

 旅を続けることにこだわらなければもっと別の世界や安定した収入が得られるのかもしれないけど、どうやら自分でも驚くほど今の自由奔放な生活が気に入ったらしい。〈飛行能力〉と〈透明化〉を有効に使えば、女ひとり旅も大した危険とも思わないし。それに、空を飛べるということそのものに、旅への誘惑がある気がする。

 細かい仕事の規定についてのメモを取り、それを大事にコートの内ポケットにしまう。必ずしも一週間ほど滞在する必要があるわけではなく、特に人口が一万人を切る町村は、一週間の間のニュースなどを調べて報告するだけでいいらしい。小さな町でも一週間滞在しなければならないなら、旅が遅々として進まないなんてことも有り得るかも……という心配はしなくても良かった。

 さらに、一週間の滞在になる場合は滞在費はお給金とは別に出る。そりゃ、月三万円で街中に一週間泊まるとなるとかなりきついものな。

 話がつくと、いつの間にか出されていたお茶を一口。なんだろう、この味も覚えがあるような気がする。こうしてテーブルを囲むのも初めてではないような。なんだか、家に帰ってきたような気さえしていた。

「何かあれば、すぐに電話か、もしくは僕に連絡するといいよ。コビーを呼べば僕には伝わるからね。こちらからはそのまま呼び掛けられる。僕は〈テレパシー〉持ちだから」

 と、恵人さんが気軽に言う。

 そう、能力者支援なんてやっているんだから、ここの皆さんもスキルや特殊能力持ちだ。みんな、どんなスキルを持っているんだろう――と気になったものの、それを質問するのははばかられた。もしかしたら、これを訊くのは物凄く他人のプライバシーを侵すことになるんじゃなかろうか。

 よく考えるとわたしのスキルはみんなにバレているんだから、気を使う必要はないのかもしれないけど……ま、いいや。

「これからも、ひとりで旅を続けるの?」

「ええ、当面は」

 短く答えると、彼は少しの間だけ考えてうなずく。

「まあ、〈透明化〉があれば大体は大丈夫か。人目につかない場所をねぐらにすればね。僕も〈飛行能力〉を持っているけれど、〈透明化〉は取らなかったから使い処が難しいんだよ。大体夜に飛んだり、何かに擬態したりして飛ぶね」

 確かに、人目のある場所で使うのは難しいスキルだ。普通に真昼間に空を飛んでいたら、未知の飛行体だ、フライングヒューマノイドだ、などと騒ぎになりかねない。

 だから、夜闇にまぎれて飛ぶか、鳥かドローンかなにかのふりを――できるかそれ?

 ああ、そうか。バイクの仮装をして、数センチだけ浮いて飛ぶとか……これも色々と問題ありそうだけど。

 思考が妄想の領域に行きかけたとき。

「これからどうするの? 良かったら、お昼ご飯をご馳走するわ」

 キャッシュカードとか身分証明書とか、色々と必要な物を渡された後の暁美さんの魅力的なお誘い。

 そんなに世話になってもいいのかなあ。でも、この借りは仕事で返すこともできるし、たぶん。

 少し、ここを去ることに寂しさも覚えている。でもここでの別れが永遠の別れというわけでもないし、迷ったのは一瞬で、わたしは彼女のお誘いを受けることにした。


 昼食を終えたわたしは暁美さんと別れ、駅の待合室で少し休憩した。周囲は主に旅行者でごった返している。

 ちなみに昼食は駅前商店街にある海鮮のお店で、旬の海鮮丼を美味しくいただいた。妙齢の女性ふたりで海鮮丼って……とはたからは見えなくもないだろうな、と思う。でもそんなことにこだわるより美味しいものを楽しく食べる方が大事だ。わたしと暁美さんはこんなところでもウマが合う。

 食べながら聞いた話では、彼女はもともとこの付近に住んでいた女子大生だったらしい。学生時代は見かけによらず柔道をやっており、バトルスキルは〈怪力〉。特殊能力は〈治療〉と〈念力〉を取ったという。

 〈念力〉は手を触れずに物を動かしたり持ち上げたり、色々できるけど成長させるのも扱いも難しいとか。〈治療〉はその名のとおりのわかりやすい能力。いいなあ、と思うけど主要特殊能力は選べ直せないらしい。スキルを成長させていけば多少は増やせる可能性があるとか。

 もうちょっと考えて選べば良かったかなあ、と少しだけ思わないでもないけれど、現状、ふたつだけ選べる状態で今持ってる能力以上の最良の答もないような。〈飛行能力〉を取らないなんて考えられない。

 つらつらと考えていた頭を少し休め視線を上げると、デジタル時計が一三時一二分を表示している。

 さて、どうする?

 旅は南へ向かうとは決めている。その前に地図を眺めてルートを確認したりコビーに話を聞きたいのだけれど、ここは落ち着いてものを考えるには人が多過ぎる。

 案内板を見ると、近くに公園があるようだ。立ち上がってそこへ歩き出す。

 すれ違うのは観光客。目的や移動距離などは違えど、みんな旅人。旅人は大概、楽し気な笑顔。

 うん、わたしも楽しんでもいいはずだ。時折、家族のことを思うと後ろめたい気持ちになるけど。でも、生きている限り感情をすべて打ち消すことなんてできないんだから。

 これも、言い訳なのかもしれないけど。

 楽しもうと決めたわたしは、公園の入り口付近にあったワゴンでチョコクレープを買った。小さいサイズで二〇〇円。これくらいなら無駄遣いにならないだろう。暁美さんのおかげで食事代をかなり節約できたし。

 ベンチは誰かが来るかもしれないので譲って、木陰のレンガ製の花壇の縁に腰かける。

 周囲は、ちらほらと犬の散歩をしている姿や、のんびり池を眺めつつ談笑する奥様方がいるくらい。

 ――コビー、聞こえる?

『もちろん』

 心の中の呼びかけに即座に耳の奥で返事が返り、ちょっと安心する。

『なにを聞きたい? 〈ハイアーシルフ〉? 偽人類? 能力者支援とその裏側につながっているものについて?』

 時間が許すなら、全部。

『そりゃ、一度に聞く必要もないからね。まず、このゲームを悪用する者たち、偽人類が地球にまぎれ込んだことは話したね。そしてその余波で、波長の合った地球人もゲームに巻き込まれてしまったことも』

 うん、わたしや暁美さんたちもその巻き込まれた地球人だね。

『そう。全世界だと数百人程度の地球人が巻き込まれている。それを知った管理者側は、もちろん放置することはできなかった。地球人側と協力して偽人類を探し出し捕獲する作戦を開始したんだ。〈ハイアーシルフ〉も、我々管理者側に協力してくれる地球人たちのグループのひとつ』

 薄っすら予想していたのと、そう変わりない内容。とりあえず、暁美さんたちは信用していい相手に間違いないようだ。

『そう簡単に信じていいのかね。そもそも、きみにとってはわたしも信じるべきか判断つかない存在のはずだがね』

 ちょっと意地悪をするような声。

 言われてみればそれはそうかもしれないが、今までコビーが言ったことに嘘はなかったはず。信じないからって信じるべきほかの何かがあるわけでもなし。

 あとはまあ、直感か。

『結局、直感や第六感のようなものに大きな重さを置くことが多いね、人間は。選択が正しければ経緯はどうでもいいのかもしれないけれど』

 AIは直感で決めることはないと。

『少なくともわたしはね。状況のすべてを解析し、わずかにでも可能性の高い方を選択する。ま、見ている分には面白いけれどね、きみたちは』

 それは地球人? 偽人類の行動は?

『偽人類は見た目も行動原理も地球人と大して変わらない。彼らも多少は捕獲されて、半分以上は帰還しているね。残りはなかなか探し出せなくってさ』

 地球人の能力者より多いの?

『いや。もう二〇数名程度だよ』

 そうなのか。どうやら頑張っているらしい。わたしの出る幕もなさそうだ――って、わたしができることなんてたかが知れているだろうけど。

『そのうちまた、大掛かりな掃討作戦が行われるんじゃないかな。きみはとりあえず、仕事を頑張ることだね』

 そう、わたしの連絡・監視任務も偽人類を探すというのが主な目的なんじゃないかな。それを頑張れば多少なりとも、偽人類を捕獲するための役に立つわけだ。

 コビーとの対話が終わると、わたしはこの先の旅路について考える。

 この先、実は海を越えないといけない。飛んで行けるならそれでいいけど、途中で疲れないかどうか微妙な距離。そして飛ばないなら列車で行くことになるものの、こちらはお金が半分以下まで減る。

 ここの駅からは該当の列車に乗れず、発車駅まで在来線で移動して列車に乗っていくか、海を飛んで越えるか。

 いや、待てよ。列車の上を飛んで行けばいいのでは?

 とはいえ、無銭乗車しているようで嫌だな。いや、自動車の上を飛ぶのと変わらない……と思っていいんだろうか。そもそも、列車の上にこだわらなくてもレールを辿って行けばいい?

 そうならわざわざ駅から行く必要もない。たぶん、一般人がレールに入るのはなにかの法律に引っかかるだろうけど。

 ごちゃごちゃ考えるものの……駅への道を引き返しながら思案した結果、結局、なにかしら心に引っかかるなら正攻法がいいだろうとなった。

 駅の売店に寄りペットボトルのお茶と小さなチューブ型のジャム四つ入りを買い、財布の残りは一万二千と小銭が何百円分かくらい。

 ここからごっそりなくなるのか、と思うと、少し気が重くなりつつ切符を買って普通列車に乗り込む。満員ほどではないが、都会だけに人の姿が多い。

 駅に着くと人の流れに飲み込まれながら、改札を出て海峡越えのための切符を買う。この時点で財布の中身が五千円を切る。

 うーん、次の大きな街に滞在して滞在費をもらうまでどうにかなるかな……。

 発車まで四〇分くらいある。ちょっとくらい、この周囲を散策してみようか。

 まだまだ、わたしがこの旅で足を延ばした範囲は今までに訪れたことのある範囲に過ぎない。この駅も何度も列車で通過したことはあるし、この町に住む母の知り合いの家を家族で訪ねたこともあった。名前ももう覚えていないが。

 四〇分ほどなにをしようか。散歩しながら考えよう、と駅を出る。新しめの駅舎は清潔感があって、周囲の緑にも人の手が入っているらしく自然感はちょっと薄い。こんなことを思うのは田舎者の証拠なんだろうか。

 少し歩き回ったものの、美味しいものをたくさん食べた後なので運動が必要かもしれない。と思ったところで思いつく。運動になるかどうかはわからないけど、飛ぶ練習をするのもいいんじゃないか。楽しそうだし。

 なにせ、これからしばらく座りっぱなしで飛ぶ機会のない道を選んだのだ。飛び回って多少疲れたところでなんの問題もない。

 わたしは幹の太めの木の陰に入り、周囲に人目がないことを確認し、〈透明化〉&〈飛行能力〉解放。

 とりあえず木に沿って浮いてみる。二メートル少しくらいの高さの木だ。その高度を保ったまま、空中で色んな動きをする。

 横になったり横回転したり、さすがに完全に逆さまにはならないけど斜め後ろに頭を向けてみたり……そう言えばこれ、ポケットから物を落としたりしたらどうなるんだろう。

 気になったので、さっそく実践。誰も見ていないことを確認してから、ポケットから消しゴムを落としてみる。

 ポトリ。

 小さな音ともに、消しゴムは土肌の地面に落ちる。途中から影も見えた。たぶんわたしの身体を離れると透明化は解除されるってことなのかな。

 全然使ってないけど、わたしはバトルスキルとして〈投擲〉も持っている。透明なままのなにかを投げられるなら攻撃能力としても強いし、色々と便利そうかな――と考えていたのは甘かったようだ。

 まあ、普通よりかわしにくくなるし、誰が投げたかわかりにくいだけでも充分有利だけれど。投げたら即飛んで移動すればまあまあ安全だろうし。あるいは、飛んで移動しながら投げたり落とすとか。

 そうこうしているうちに、色々な飛び方をするのにだいぶ慣れてきた。手足のように、とはまだいかないけれども、それに近いほどにはなってきたかな。

 まだ疲労感もないまま、能力を解除してもとの花壇の縁に腰掛ける。

 本当はせっかくだから駅弁でも買おうかと思ったものの、夕食よりは前に到着するし、それで夕食を取るとなるとパンの賞味期限が心配だ。特に半額だった卵サンドは今日中にお召し上がりください、だ。

 こんな何もかも失い旅に出ても、非日常的な経験をしても、結局目の前にする日常は賞味期限との戦いとか、あまり変わらないんだなあ、と思うと、少し可笑しくなる。

 気づけば出発まで二〇分余り。駅に向かい、売店でちょっとしたお菓子を買ってもバチは当たらないだろう。ということでわたしは、百数円のチョコクッキーを買った。小さめのクッキーの片面にチョコレートが塗られた袋入りの菓子だ。費用対効果的には良くないかもしれないが、こういうお菓子はかさばらなくていい。

 間もなく改札が始まり、改札を抜けて該当の乗車口へ向かう。プラットフォームにはすでに列ができかけていた。そこにしばらく並ぶことになる。

 色々な旅人がいて、わたしもその色々の中の一人。無関心な雰囲気がなかなか心地いい。

『列車が参ります。ご注意ください』

 アナウンスが流れ、新幹線が入ってくる。ゾロゾロと人の列が列車に飲み込まれていき、わたしもそれに流されるように座席につく。窓際の席だ。

 前の席の背もたれの網に入ったパンフレットを眺めると、観光情報や駅弁の紹介が書かれたものとダイヤが書かれたものもある。この列車が目的地まで着くのは出発から一時間後くらい。思ったよりあっさりというか拍子抜けというか……交通の便が良くなるのはいいけれど、速過ぎるのは移動そのものの楽しみが減っているような気もしないでもない。

 そんな思いをよそに列車は動き出す。これで北海道とお別れかと思うと寂しい気分になる。でもまあ今生の別れじゃないんだから。

 わたしのとなりには母子連れが座った。母親らしい女性は若いし、子どもは二歳とか三歳とかそれくらい。

 わたしとはもう、無縁の世界なのかしら。

 窓の外を眺めながら考える。これからどうやって生きよう。そう考え始めて、自分が生きたいと思っていることに気がつく。何もしなくても生きられた過去の日々とは違い、きちんと考えなければ生き続けられない状況に置かれ、余計に自覚させられる。

 生き物が生き続けようとするのは自然なこと。どこかで何かの本で読んだ一文が思い出される。感情から目を背けて目の前の現実的なことを考えようとすると、それ自体が生きるための手段を考えるのが当たり前ということになる。

 それでもやっぱり、現実的なことを考えよう。死から逃げた気がしていたが、その末にこんな不可思議な経験をしているのだから、きっと意味はあるのだと思いたい。感情的なことも、時間が解決してくれることも少なくないと信じて。

 どうやって生きるか、についてすでに決まっていることもある。〈ハイアーシルフ〉で決めた一週間で三万円の仕事だ。滞在費も含めれば悪い仕事じゃないが、移動費や移動中の食費、何かが壊れたとか風邪をひいて薬が必要になったとか、いざというときの費用を考えるとそれだけじゃ足りないかもしれない。手紙を届ける仕事も定期的にあるわけじゃないだろうし。

 やっぱり、特殊能力を生かした仕事でも見つけた方がいいかもしれない。もともと写真を撮るのは好きだったので、写真を撮る仕事ができると嬉しい。つくづく、カメラを家に置いてきたのが悔やまれる。

 つらつらと考えている間に、列車は青函トンネルに入る。窓の外は暗くなり、気圧の違いか、少し耳の奥がキーンと鳴った。

 新幹線の終点は東京だが、海を越えたすぐ先の大きな都市で降りるつもりだった。そこで一週間を過ごすつもりだが、すでにここでは確認は済んでいる、とか言われたらどうしよう。大きな都市だからあり得る……そうなったら別のところへ移動するしかない。

 そういえば、と思い出す。コビーから聞いた話。確か、たまに発令される作戦をクリアすると報酬がもらえて、お金ももらえたりするとかだったような……? これは、あとでコビーにしっかり聞いてみなければ。

 そのうち、トンネルを抜けて視界が開ける。ほんのわずかの間だけ眩しさを感じた。慣れてしまえば何の変哲もない風景だけれど。

 それなのに、どこか清々しいような、新しい朝を迎えたような気分になる。ただの日常の連続なのに、新年の元旦は今までとは違う雰囲気を感じるのに似ている。

 別の陸地に来たんだな。

 それだけのことかもしれないが、それはそれで凄いこと、大昔は、海を越えられないか、越えるにしても物凄いお金や労力がかかっただろう。

 考えごとをしながらおやつをつまみ、しばらくすると、停車駅のアナウンスが響く。わたしはここで降りるのだ。

 列車は停車し、一時間程度の列車の旅はここで終了。それなりの人が降りる。乗るとき同様、わたしは人の流れに乗るようにして改札口を出るところまでいく。

 まずは座って、落ち着きたいな。

 壁際近くを歩きながら見回すと、駅の外にベンチが見えた。天気も悪くないし、日光を浴びながら考えるのもいいだろう。それと、駅の近くに案内板が何かあると嬉しい。

 と、ここで思いついて、何種類かのパンフレットが並んだプラスチックの棚を見つけた。観光客用のもので、中には簡単な地図も描かれている。

 これは幸いと、二種類ほどパンフレットをコートのポケットに入れて外へ。暖かい日光が頭上から降りそそぐ。

 たぶん変わったのはわたし自身の気分だろうけれど――どこにいようが日光は太陽がそそいでいるのに、なぜだか、列車に乗る前までいた大地とは違う種類のように感じた。

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