第五章「三つの試練-all X」

第五章・一-1「三つの試練-all blue」

ノックを三回。


コンコンコン


もう一度、ノックを三回。


コンコンコン




こっちとあっちを繋げるおまじないをおれは叩いた。

部屋にあるイスの脚に縛り付けていた伸びちゃった迷子ひもの端を、ブーケが強く握り締めた。

最後に、部屋に残ったエヴァンに向かってエドが行ってきますとお辞儀した。




おれたちは、扉をくぐった。




何が起こるかわかんない、冒険の一日が始まった。







カエッテコレルカナ







そんな不安を心の下に押し込んで、三人の子どもたちは異世界への扉をくぐっていった。







目指すはドラゴンのいる世界。

水から顔を出したおれたちは、まず浮かんだ葉っぱの上に乗り上げた。ブーケが握る迷子ひもの先を見ると、そこには大きな卵が変わらずに座っていた。

無音の世界におれたちの声だけが響く。


「あれと、あれと、あれ。そこだけ岩が違うんだ」

「では、これより爆破作業に入ります!」

「はーい、爆破ドングリ用意してー」


爆破ドングリじゃなくて爆発ドングリ。おれが気分で選んだ岩を狙って、瓶から出したドングリを一握り、おもいっきり投げつけた!

三人分のドングリは見事に命中して、岩は音を立てないで崩れ落ちていった。

本当にこの世界は音が無いんだ。

それを実感する光景だった。


「よし! 道はひらいた!」


しゅんとしてる時間はない。おれたちは急いで岩壁が目の前にくるギリギリの所まで泳いでいった。

水からあがって壁まで数歩分、そこには枯れた枝なのか蔦なのかよくわかんないものが敷かれていた。しゃがんで触ってみると、それは卵の下にあったものと同じだった。

てっきりおれは、上に垂れ下がっている紫の花の枯枝なのかと思っていた。そう思ったのはおれだけだった。

同じように水からあがったエドとブーケを見ると、何とも言えない顔をしてた。でも二人は何も言わなかった。だからおれも何も聞かなかった。


頑張って開けた穴まではおれたちが縦に並んでちょっとだけ足りないぐらい。縦に、並べないよな? 本を取るときみたいに台があるはずもない。

冒険者の基本は体力と気合い! 冒険学校に通うお兄さんが言っていた。


「これから登り、ます!」


素手で登ろうとしたおれの頭をエドが叩く。


「はい、まずは手袋を着けてくださーい」


探検セットから出した手袋を着けながらブーケが笑い声を噛み殺していた。こういう時は隠さないで欲しい。

おれたちは岩壁をスルスルと登っていった。実は三人とも木登りとか岩登りは得意だったりする。穴まではすぐだった。


穴の奥は真っ暗だった。心臓をどくどく言わせながら、おれたちは慎重に歩いた。慎重にっていうのは別にゆっくりってことじゃない。真っ暗で見えない足元に注意して、おれたちは歩いた。


そろり…


そろり…


ゆっくり、


どきどき。


おれたちは全身で暗闇を進んでいった。


明かりをつけなかったのは、ただ忘れていただけ。そんなことも考えられないくらい、実は三人ともビビってたんだ。

初めての冒険に緊張しない子どもがどこにいる? おれたちはまだ初心者。でも世界にはそんなこと関係ない。

一歩外に出れば大人も子どもも、赤ん坊も老人も関係ない。そこに「生きている」って理由で世界は牙を剥いてくる。

だから冒険者はこりずに扉をくぐって外へ出て行くのかもしれない。世界が自分に厳しいってことは、世界が自分を「生きている」って認めているってことなんだ。

認められたいんだよ。世界に、誰かに、何よりも自分自身に。

自分は生きている。生きてていいんだって誰かに言ってもらいたいんだ。




おれたちは暗闇の中を進んだ。

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