第1話-3ヨアソビ解禁

全ての世界は必ず何かしらのルールを持っています。それによって世界を形作るのです。


人の住む世界には共通して「夜の森には近づいてはいけない」というルールがあります。

そして、人のいない世界には共通して「無闇に食事をしてはいけない」というルールがあります。必要な時だけ必要な量を食べる。それ以上の狩りはしてはいけない。そういうルールです。


人の味を覚えてしまえば、森に住む彼らは人が食べたくて堪らなくなるでしょう。だから村と森を分けるのです。

人が森へ行かなければ彼らは人の味を覚えずに済みます。ただ、それだけのことなのです。




しかし、世界には共通してこんなルールがあったりもします。







ハロウィンのルール。それはハロウィンの日だけのルール。それは「ハロウィン以外の日のルールを破ってもよい」というもの。


人はワガママに甘いお菓子をねだってもいい。手に入らなかったら、傲慢にイタズラをしてもいい。

獣と魔物はワガママに血の滴るお肉を好きなだけねだってもいい。手に入れるため、強欲に牙と爪をふるってもいい。


だから、ハロウィンの日は森に入るべきではありません。特に夜には。朝より昼の方が、昼より夜の方が、彼らはお腹を空かせているはずなのです。


だから、ハロウィンの日は森に行ってもいいのです。その日は唯一「行ってはいけない」というルールが外れる日なのですから。




何が起きてもいいと言うなら。




さあ、とうとう待ちに待ったハロウィンの開幕です。







♪今日は楽しいハロウィンナイト

誰もがみんなモンスター

騒げや 歌え 呑め 食らえ

隣が消えても気づかぬよう


今夜は楽しいハロウィンナイト

あまぁいお菓子は誰のもの?

キャンディ クッキー パイ ×××

なくなる前に奪っちゃえ


今日は楽しいハロウィンナイト

いつもの外へ飛び出そう

光も闇も関係なく

一夜(ひとよ)の宴に狂い舞え♪







ある日のことです。その日はハロウィンでした。


ある村のある小さな家の小さな子どもがベッドで暖かい毛布にくるまって横になっていました。

外には大きな赤い満月。雲だってない、見事な夜空です。

子どもはお母さんに「早く眠りなさい」と言われ、興奮して眠れないのにベッドの中へやって来ました。

せっかくのハロウィンなのに、もうおしまいなの? 太陽が空を飾っていた時間はバケツいっぱいにお菓子をねだり、ワガママを言って食事のテーブルには自分の好物ばかりを並べた子どもはハロウィンが終わることに不満を感じています。

日付が変わるまでまだ時間はあるのに、もうおやすみしなくてはいけないのか。子どもは残念で残念でたまりません。

せっかく今日だけはワガママを言っても許されるのに。せっかく今日だけは決められたことを守らなくてもいいのに。


子どもたちにとってハロウィンとは、ルールを破るために用意された日なのです。「ルールを守らなくてもいい」というルールが追加されたハロウィンの一日は、枷に縛られた人の子にとって大きな意味を持つのです。

「ハロウィン」だからという理由で首輪を外されたケモノは自分の意思で歩き回ります。お菓子をねだり、愛をねだり、欲を満たし、自分を見つめ直すのです。




遠くで赤い月が舞台に上がったようです。

人も獣も魔物も、名のないただのバケモノさえも狂わせる赤い月です。その意味を、正体を知らなければただの「赤い」月でしかないキャストです。

それが現れた時、何が起こるのか知る人は家から決して出るような愚かなことはしません。大切な人を外へ出すようなことはしないのです。




赤い月は全てを狂わす。




夜の空に、赤い月が顔を出しました。







コンコンコン♪

コンコンコン♪

ノックを三回誰だろう

コンコンコン♪

コンコンコン♪

森から小さなお客さま

窓を開けば小さな獣

一緒においでと手招きす


狂った獣が手招きす


おいでよおいでよ

アソボウヨ

夜の森は楽しいよ

今夜はハロウィンなんだから

一緒にヨアソビしましょうヨ







ベッドの中から子どもが出ていきました。ハロウィンの今日だけはルールを破ってもいいのだと思いながら、夜の森へ出かけていきました。


いつも頑なに守り続けていた夜遊びが今日だけは解禁されたと信じて。


子どもは朝になっても、昼になっても、その次の夜になっても、帰ってくることはありませんでした。




窓には今日も小さな獣。森からやって来た小さな小さなリス。

その手には銀の食器が握られています。




銀の食器の柄には、













子どもがいつも身につけていたお守りのリボンが巻かれていました。













赤い月は世界のルールを守って、いつの間にか空から姿を消していました。




魔物は人の住む世界では住めません。だから彼らは森で生きるしかないのです。







赤い月は、魔物でした。







ルールが解禁されたそのハロウィンの夜、赤い月はたまたまその村へやって来てイタズラをした。ただ、それだけだったのです。

だから同じように森からやって来たリスもイタズラをしたのです。いつもはしてはいけないことが許された夜だから、ほんの少しだけ狂ってみせたのです。




いいでしょう?

だって、森からやって来たリスもまた獣であり魔物なのですから。




その日は特別なルールが許される解禁日。




楽しいたのしいハロウィンナイト。














森では子どもの屍を囲んでリスたちが作業をしています。骨を抜き取り、丁寧に丁寧に磨いていきます。そして、ちょうどよい具合になったら銀の液で浸して食器を作るのです。




森からやって来たリスは食器を持っています。その食器の材料は、人の骨です。







森からやって来た獣がただの獣のはずがないでしょう?

ほら、こうして語る私も森からやって来た×××なのですから。

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