5-1
抵抗虚しく連れていかれたのは倉庫の地下室だった。人形自体に自我は無いようで、こちらの話に一切反応を示さず、力も強い。
地下室は真四角の石造りで十人も入れば一杯になりそうな大きさだ。中には四隅に照明用ランプと、その予備燃料。部屋の真ん中に大きな手術台のような台だけがあり、そこに座っていたのは……
「ターヴィ!」
「……」
思わず叫んでしまったが当然返事は無い。
「やっぱり来てくれたか。この人形さっぱり動かないからどうしようかと思ってたんだけど」
全身がっしりと捕まっている為、首だけを動かして振り返ると、そこに居たのは
「マルケス……」
「ああ、待って。喋らなくて良い。聞かれる前に全部答えるよ。その一、人形を操ってるのは俺だ。俺はこの町で生まれつきそういう能力を持ってるんだ。【
…なるほど、ターヴィが気付かない訳だ。各店に居たのは紛れもなく『人間』で、連れ去る時は『人形』を使ったんだから。異変に気づく前に引き離されては抵抗のしようも無い。
「その二、町の住人を全部売ってからは行商人をしつつ、『仕入れ』をしてる。なにせ、俺の能力は此処でしか使えないからな、町に誘う必要があった。自分が町の外で襲われたらどうしようもないし、全く不便な能力だよ」
マルケスは、そう言って左足の傷を見せてくる。
「その三、君も『特別』だよね? 山道で偶然見かけてね。それからこっそりつけていた。人形に自我を与えてるって程度みたいだけど、まあまだ子供だし、俺の劣化版って所かな。で、他に質問ある?」
「……ターヴィをさらった理由は?」
「ああ、それがあったね」
わざとらしく手を叩くマルケス。蹴りの一つでも入れてやりたいが、今も人形に押さえつけられてそれもできない。
「理想は俺の所有物にしたい。出来るなら君は解放しよう。無理なら妥協案として、一緒に商売をしないか? 俺と君が組めばもっと儲けられそうだ」
目線を合わせて笑顔で言ってくるが、こっちにメリットが無い。要するにこれは『脅迫』だ。
「嫌と言うか、不可能です。ターヴィと僕は【デ・マンドール契約】というのを結んでいます。これにより、ターヴィは僕の言う事しか聞きません」
たまに、いや、割と僕の言う事も聞かないけど。
「そして、僕が側に居ないと彼女は能力を発揮できません。しかも一度離れて機能停止すると、もう一度僕が触るまで只の人形です」
「そうか、勿体無いが仕方ないな」
大してがっかりする様子も無くマルケスがそう言うと同時に、部屋の外からもう一体の人形が入ってきた。宿屋の店主だ。いや、店主を任されていた人形と言うべきか。そして、その手には小振りの手斧が握られていた。
「不良在庫は処分するしかないな」
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