その日の夜、僕は宿を抜け出して例の倉庫に来た。辺りには誰も居ない、正確には月明かりを強く反射した人形があちこちに居るけど。

 それにしても、夜の町に立っている人形というのは凄く不気味だ。確かに泥棒除けとしては家を護る効果が期待できるだろうけど、今はこの町の人が泥棒じゃないか?って話だから、なんとも言えない。

 といっても何か作戦があるわけじゃない。なにせ僕はターヴィが居ないとんだから。

 そして、今の所疑う根拠は木屑だけ。

 とりあえず扉を弄ってみた。まあ当たり前だけど閉まっている。周囲を回ってみるけど他に入れそうな入口は無い。住居は別にあるのかもしれない。

 これは早速打つ手無しだ。とりあえず近くの草むらに隠れて様子を見ることにした。


…………


 何も起こらない。月が南東から南西に弧を描いていく位の時間が過ぎても、動きは無かった。

 でも、やっぱり何かおかしい。周囲に目を光らせ続けているけど、理由がわからないまま違和感だけが膨らんでいく。


…………


 更に月が……雲に隠れた。とにかく時間が経って、でも何も起こらない。駄目か、朝になって店主が来る時を狙って忍び込むしかないだろうか?


…………


ガサッ


「ハッ!」


 しまった! 寝てしまった。どのくらい? 月の位置から見ると一時間くらいか。でも今の音は? 虫か何かか? こんな町中で狼とは考えたくないけど。

 そうして音のした方を振り向いて、やっと違和感の正体に気づいた。『それ』の動きがゆっくり過ぎて、


「!?」


 大人の等身大人形が五体、立ってこっちを見下ろしていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る