5-2

「お願いがあるんですが……」

「なんだ? 言うだけ言ってみろよ」


 徐々に気の良い行商人から、他人の生殺与奪を自由にできる人間としての本性が浮かび上がっている。

 そして今、こっちに今ある武器は奴の言動から読み取れる性格、そして首から上だけだ。ならそれを使って出来る事をやるしか無い。


「彼女を遠くへ置いてくれませんか? 出来れば部屋の外へ。血で汚したくない」

「……ハハハッ!!」


 数秒こちらの言葉の意図を考えていたようだが、腹を押さえて笑い出した。


「これから死ぬっていうのに、心配するのは道具か! 笑えるねぇ〜」

「…道具じゃない」

「……なんだって?」

「僕にとって彼女は道具じゃない。常に互いが側に寄り添い、最期の運命さえ共にすると誓ったからこそ、【デ・マンドール契約】があるんです。【孤独知らず】? 馬鹿馬鹿しい。あなたは孤独を知らないんじゃない。あなたの周りには孤独しか無いから自覚出来てないだけですよ」


 マルケスの表情が余裕のある笑みから冷たい打算的なものに変わっていく。


「……そうかい、それじゃあ」


 マルケスは、手術台に置かれていたターヴィを掴むと僕の目の前に落とした。


「だったら寧ろ死ぬ時は一緒の方が良いんじゃねえか? 触らせるわけにはいかねえからここまでだけどよ」


 うーん、いまいち位置が悪い。けどギリギリ届くか? でもやるしかないか…あ〜あ、や〜だ、や〜だ。


「別れの挨拶は必要ねぇよな? またすぐ会えるんだからよ!」


 ああ、ほんとに嫌だよ。まさかなんて!


ブヂィ! グジュッ! ブブォ!


「な!? 何してんだぁーてめえー!」


 マルケスが斧を振り上げたまま固まる。当然だろう。突然獲物が口から血を溢れさせたんだから。

 そして助かった、いつでも殺せるという油断から、状況判断を優先してくれた。

 口を下げて中の血を落とし、歯で挟んでいた舌先を吹き飛ばす。飛んだ舌はターヴィの胸元に落ち、直後彼女の眼と口が同時に開かれた。


「選ばせてあげる。爪と糸、どっちで死にたい?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る