第9話

さて、その頃であった。


房代ふさよはこの日、ノッツェ(結婚相談)に行って自分に相応ふさわしいお相手を探していた。


おりわるく、この日はお客さまが多数たくさんきていたので房代ふさよの順番は回って来なかった。


順番が回って来ないことにいらだちが高まった房代ふさよは、途中でやめて店から出た。


店から勝手に出た房代ふさよは、夕方4時頃まで市街地ちゅうしんちをブラブラして過ごした。


またところ変わって、有松のイオンタウン内にある大垣共立銀行の店舗にて…


起史たつしは、ものすごくいらついた表情で札束数えをしていた。


この日、数人の女性従業員さんが勝手な理由で休んだ…


『カレシがレストランに予約入れた〜』

『きょうは、クラス会があるのよ~』

『三越のクリアランスセールに行きます~』


ふざけるな!!


甘えるな!!


起史たつしのいらだちがさらに高まった時であった。


上の人が、もうしわけない表情で起史たつしのもとにやって来た。


上の人は、ものすごく言いにくい声で起史たつしに声をかけた。


起史たつしさん。」

「なんでしょうか?」

「この前話した…」

大垣ほんてんに行く話は、予定通りに引き受けますと言いましたよ。」

「ああ、あれ…ナシになった…」


起史たつしは、ものすごく怒った声で言うた。


「それはどう言うことでしょうか!?」


上の人は、ものすごく言いにくい声で言うた。


「あれ…東京の支店に勤務している若いモンに…代えたよ…」


起史たつしは、ものすごく怒った声で上の人に言うた。


「課長!!」

「なんだよ~」

「人をグロウするのもいいかげんにしてください!!」

「だから悪かったよぉ〜」

「課長!!」

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィ~」

「課長は、従業員さんたちに対して言葉づかいに気をつけなさいと言うてるわりに、課長は口が悪いようでは話しになりませんよ!!」

「悪かったよぉ〜」

「この前、片岡くんが育休になると言いましたね!!」

「言うたけど…片岡くんは…今月いっぱいでやめることになった…」

「なんや!!」

「そないに怒らないでくれぇ…片岡くんの奥さまのご両親が心細いから帰ってきてくれと言われたのだよ…それで…奥さまの実家がある挙母ころもに…」


起史たつしは、お調子声で言うた。


「ああ、あげものになるのだね…」

「(あきれ声で)それは、ころもだよ…」

「あってますよ。」

「わしがいよるコロモは違うのだよ〜」

「コロモと言うたら、えびふりゃーとみそかつを揚げるときに使うものですよ…」

「違うねん…コロモと言うたら、豊田市とよたの…」

「課長、それは『コロモ』じゃなくて『コロナ』ですよ…」

「それは知ってるよ!!」

「片岡くんの家は、菓子パンの中にあるのでしょ…」

「だから『コロネ』!!…わしがいよるのは豊田市とよたの…」

「それは『コロネ』じゃなくて『コルサ』ですよ…むかし、そんな車があったねぇ〜」

「ワシの家の4台目の車を言うな!!」

「課長の家の4台目の車は(ダイハツ)『ミゼット』でしょ…」

「ワシの家の車をボロクソに言うな!!」

「はいはい分かりましたよ…コロモと言うたら、昭和の女性歌手でしょ…」

「それは『コロムビアローズ』じゃ!!…わしがいよんは豊田市とよたのコロ…」

「課長、ひとりでオタオタしないでください…片岡くんは、夏の暑さで頭がイカれているからわけの分からないことばかりを言うてるだけですよ…あっ、正午になった…ほな、湯づけ食いに行こか…」


上の人をさんざんいじくり回した起史たつしは、くちぶえをふきながら店舗から出た。


起史たつしからさんざんいじくり回された上の人は、オタオタとおたつき回った。

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