第26話 変……恋?(前編)

 五本目の線……そして出来上がった星を円で囲む。五芒星ペンタグラムの形だ。


「何を召喚するんですか?」


「スレイプニル。ワルハラの都に行った時乗ってた、あの八本足の馬よ。本当は先生の馬だったんだけどね……。妖精界から呼び出すの」


 フレイに答えるリディア。右手にはグングニルを持ち、青のマントと帽子をかぶる。


 村からジェロムとトールが走って来た。


「駄目だった! 刀も鎧も返してくれねーよ、あの人たち!! なんか……祭壇に置いて拝んでてよぉ……せっかくヒジリからもらったのに、ろくに使ってねーじゃんかよ! その上ボートは流されるし……」


「ブツブツうるさいわね!! だからこれからスレイプニルを呼び出すんでしょう!?」


 リディアが地面の五芒星の前で構える。


「アール・イス・トーン、アール・イス・カウム……ᛋᚢᛉᛉᚮᚾ ᚠᚱᚮᛉ ᚠᛆᛁᚱᛣᛚᛆᚾᛞ……!」




「……デカいな……これ、何人乗りだ?」


「一応一人乗りだけど、大丈夫でしょ。多分ね」


 前からリディア、ジェロム、トールが乗る。フレイはまだ恐がっている。


「それって……飛ぶんでしょう? いやだな……僕、恐いよ……」


「全く……王子様って言っても、もう十五歳なんでしょ? 私と一つしか違わないんだし、もっとしっかりしなさいって」


「は……はい……」


 リディアの言葉に、フレイはすんなりと従う。しかし、ジェロム……


「あのよぉ……俺……十九なんだけど……年下のくせにさんざんガキ扱いしてくれて!」


「いいの。年上は細かいことは気にしないの!」


(……………………)




 『……やっぱりこいつの方が大事だ!』


 『あの娘を守っていてくれ。いや……これからもずっと……たのむ!』




「何を胸押さえてるんですか、ジェロムさん? 早くギムレーに行きましょう」


「食べすぎて胸焼けでもおこしたんじゃないの?」


 リディア、フレイの笑い声。ジェロムも力無く笑う。


 トールは若者たちの話について行けず、ボ~っと空を眺めている。そのトールが急に言い出した。


「あれ……イグドラシルの周り飛んでるでけ~奴、何だろ」


「何でしょ~……僕、見て来ますよ」


 フレイが馬から降り、様子を見に行く。


(あとトールさんさえいなきゃリディアと二人っきりなのによぉ……)


 などとジェロムが考え始めたころ、ちょうどイグドラシルの方からだった。


 ものすごい爆発音とともに、巨木が炎を上げて燃え立った!!

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