第26話 変……恋?(後編)

「フレイが……おい、スレイプニル! あの木の所まで急いでくれ!!」


 並の馬の三倍はあろうかというスピードで、スレイプニルが駆け出す。


 一瞬で着いた木の根本には、全身から血を吹き出して死んでいるフレイと、それを掴み上げている長身の男がいた。


 男はニヤニヤしながら、ジェロム達の方を見て話し始めた。


「このガキはあんた達の仲間だな? でも俺が殺したいのはジェロムって男なんだよね。何でも、オレ達六魔導……今はベルゲルミールもガルムもフェンリルもイミルもあんた達にやられて、アエギルとこのスルトしかいないがね。そうさ、オレを倒そうっていう勇者ジェロムを殺したいんだよ、オレは!」


(こいつが火のスルト……? フレイを……こんなにしやがって……!! でも、なんでこんな有名になっちゃったんだろ、俺……勇者だって……)


「あんたがスルトなのね? ギムレーにいるって聞いたけど」


「ギムレーはアエギルに任せてある。なんか、パラディンとかいう奴らが三、四人いたみたいだがね。その間に俺はジェロムを片付けに来たわけだ」


「それじゃ……姐さんや……王女もジナイダちゃんも……」


「知らんね。多分全滅だろうね。アエギルの奴、めっぽう強いからね。もしかするとオレより強いかも……。まあ、この肉体はロキって奴のものだけど。あ、言っておくけどアエギル、召喚魔法得意だから、おそらく水蛇やら水龍やら呼び出してムチャクチャになってると思うよ。オレの方はジェロムを殺すまでだけど」


「……ティルさんもヘイムダルさんも……先生も死んだ……でも……ジェロムだけは殺させない!! 私が死んだとしても……!!!」


 リディアがグングニルを握りしめる。だがジェロムはすぐに引き止めた。


「まっ……まってくれ、リディア! おめーが死んじまったら困るんだよ!! そんなことになりゃ……おㇾㇵ……オーディンさんとの約束が……」


「ならばこのトール・チェンバレン様が……」


「他の奴は引っ込め! オレはジェロムっていう自信過剰な野郎を殺すんだあっ!!」


 するとがフレイの死体を放り投げ、両手を振り上げると……その両腕は……そのままの勢いで……上へ吹っ飛んだ……!!


「あんたもスキだらけやなぁ……おっちゃん」


 スルトの後ろから現われた誰かが言う。

 両手には刀を持っている。


「小篠に……落葉の名刀か……ん……あ……ああっ!!!!! カレン!!!!!」


「覚えとってくれたか、ジェロム」


 突如現れたカレンに、ジェロムは狂喜しそうになった。

 それとは逆にスルトは……


「この小娘……よくも両腕を叩っ斬ってくれたな……一応再生はしているが……あんたはゆるせないね……殺す……殺す!!」


「何言うとんねん! 人がせっかく木の上で気持ち良う寝とるんに、いきなり火ィなんぞつけよって……ここはうちに任しといてや! ジェロム、あんたはその娘と……その変なおっさん連れてギムレーにはよう行くんや!」


 ジェロムは少し考えた。しかしカレンなら信用できるとすぐに悟ると、また次の問題が出てきた。リディアもトールもその事に気付いていた。


「でも……フレイはどうするんだよ! 死んじまったからって、そのまま置いて……」


「死んでへんわ! ……多分生きとるよ、王子はん。うちには二、三個切り札があるよってな。こんなオヤジ一発や、一発!」


「黙れ……死ね……死ぬんだ!!」


「ホレ、はよ行き! ギムレー救わなあかんねやろ!?」


「わかったわ。ありがとう、カレンさん。ジェロム、トールさん! さあ、スレイプニル!!」


 カレンの気持ちを理解したリディアは、南西に向かってスレイプニルを飛ばす。


(みんな……ティルさんもオーディンさんも、会ったばっかりで逝っちまった……そうだ、ヘイムダルの奴だって……気合い入れてかかれよ、カレン!!!)


 ろくに話もせずに別れてしまった……。そのジェロムの目には、燃え上がるイグドラシルが映っていた。

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