第25話 氷魔(後編)
何かの大きな衝撃とともに、城が揺らいだ。そして、その
(……
もう遅い……皆、そう思いかけた時だった。
オーディンの頭上すれすれで、隕石が爆発して砕けた。しかし、それなのに、ジェロムたちも本人も、爆風には巻き込まれなかった。
隕石を防いだのはオーディンの魔法、レジストシールドだった。
「かなり高度な魔法ですね。いくら何でもメテオを防ぐなんて……イミル、封呪しなかったのですか?」
「うむ……うかつだった。こいつが魔法も使えるとは……」
それでもイミルはあきらめていないらしい。ブリザードを使う構えを見せた。
「ぉっと、ワタクシは凍ってしまいますね。では、さようなら」
アエギルが逃げた。同時にトールがイミルに不意討ちをかける。
「甘いな……気付いているぞ」
イミルは後ろに向き直り、トールにブリザードをくらわす。
「あと三人……まずはその娘からか……」
リディアが動けないのをいいことに、イミルはダガーを取り出し……しかしジェロムが黙って見ているはずがなかった。立ち上がり、イミルの前に出る。
「武器も持たずにわしをどうするというのだ? まあ、持っていてもわしの強さに変わりはないが」
ジェロムが無言のままイミルに殴りかかろうとしたのを止めたのは、オーディンだった。
「……君はまだ死んではいけない……ここは拙者に任せよ」
「でも……あいつはあんたに死んでもらいたくない!」
「拙者は死ぬつもりで戦うのではない。勝つつもりで……」
「俺だって同じだよ!!」
「……拙者は胸を貫かれてこのとおりの大ケガだ。弟子を……リディアを守ると言ったのは君だろう? あの娘は拙者が20年もかけて編み出した槍術を2年ちょっとで体得した。『オーディン』の名ももう今はあの娘のものになった。
つまり『オーディン』の名を弟子に譲った拙者はただのオービル・ディーンという男。この『グングニル』もあの娘に渡そう。だが……その前に拙者はイミルを倒さねば……」
「……何で……何でこうなっちまうんだよ……あんたとは今会ったばっかりじゃねえか……」
「いいか、ジェロム君。麻痺した体が回復するには時間がかかる。それまであの娘を守っていてくれ。いや……これからもずっと……たのむ!」
オーディンはグングニルを握りしめ、スッと立ち上がるとイミルの方へ向き返り、言葉を待つ。先に返ったのは攻撃だったが。オーディンの右腕が徐々に凍りついていった。
「人のために死ぬのはそんなに楽しいか……?」
氷の矢が突き刺さった。たまらずジェロムが飛び出すが、オーディンは助けを拒否した。
「イミルをなめてかかるな!」
ジェロムが後ろへ飛ばされる。そのジェロムを受け止めたのは、回復したリディアだった。
「待って、先生!!」
思わず振り向いたオーディン。そこへイミルの氷の刃……リディアの目の前でオーディンの首筋から血が吹き出す……ジェロムとリディアがイミルに飛びかかったが、吹雪に止められる。
「これで最後だ」
イミルの攻撃がオーディンの身体を完全に貫く……オーディンは逝った……
「……さんざん格好つけていたわりには大したこともなかったな」
「格好つけなんかじゃない!!」
リディアがグングニルを手に取って、イミルの心臓を突いた。
だが、手ごたえがない!
「残念だった。そっちは幻影だ!」
すでにリディアの背後にいたイミル、次の攻撃が今にもリディアに決まろうとしていた。
それを止めようと、ジェロムが振るったハルバードがイミルの腕をかすめたが、時は遅く、リディアはブリザードを受けて全身に凍傷を負った。
ジェロムも同じく……。
「……魔法力を使い過ぎたな……ギムレーへもどって休むとするか」
イミルが、倒れているジェロムの側で言った。
「どうせお前達は放っておいても死ぬだろうな」
微動だにしないジェロムとリディアを置いたまま、イミルが部屋を出ようとする。その足は下りの階段へ向いた。
そして、そこで止まった。いや、止められた。
「何を……お前……は!?」
トールだった。トールが全身の力を奮ってイミルの両足を掴んでいた。その体には何十本という氷の矢が突き刺さっている。
「お前はわしのブリザードで倒されたハズ……」
「倒れたが負けちゃあいないな……! 今だ、フレイ王子!!」
階段を駆け上がる足音が近づくにつれて、イミルの顔色が変わっていった。
……アヴェンジャー! フレイの、ティルの剣がイミルを倒した。イミルは苦しみ、よろめきながら窓の外へ落ちた。
数秒して、地面に叩きつけられた音。
剣を胸に刺したまま、イミルは……死んだ。
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