第25話 氷魔(前編)

「……先に敵の牙城に着いてしまいましたね……」


 数十体というゴーレムを倒しながらオーディンを探しているうちに、イミルが使っていたらしい氷の城へ着いてしまった。


 城はそれほど大きくなかったが、門の所にはキマイラが番をしている。


「一匹ならどうってことないわ。行きましょう」


 リディアが最初に飛び出し、槍で獅子の頭を突く。

 龍の頭が炎を吐くが、水壁の魔法ウォーターウォールで防ぐ。

 次に飛び込んで来たトールが羊の頭を叩きつぶす。

 最後にフレイの剣が龍の首をはねた。


(お……俺の出番は……)


 刀を村の人たちに取られたジェロムは何もできなかった。


「やっぱり……城に入るのか?」


「せっかく来たんだから、ついでにイミルをやっつけちゃいましょう。さあ!」




 城の中は外よりかなり涼しかった。氷で出来ているのだから当たり前だが。

 しかし敵の本拠地であるのにもかかわらず、予想に反して魔物は一匹とていなかった。


「本当にここがイミルの城なんでしょうか……」


「じゃなきゃ誰がこんな山奥に氷の城なんて立てるって言うんだよ」


 その時、人の気配を感じた。階段の上からだ。


「……誰かいる! この気配は……先生!」


 リディアが階段を駆け上がった。オーディンと聞いてジェロムたちも後を追う。


 長い階段を登りつめ、上の階に着いた。

 まず目に入ったのは、鍔の広い帽子をかぶり、右手に不思議な(そんな感じがする)槍を持った青マントの男。


 次の男は一目で分かった。イミルだ。


「先生!」


「追って来たか、リディア……しかし手助けなどいらぬぞ。この男はそれがしの手で……」


 オーディンは相手イミルの心臓を狙って連続攻撃。だが様子がどうもおかしい。


「……何か……オーディンさんのスピードがいやに遅く見えねえか……?」


「分かった! ジェロムさん、鈍化スロウの魔法だ! イミルが使ってたんだ!!」


 トールが言ったのを聞き、イミルが不敵な笑みを浮かべる。


「先生……とか言うところを見ると、そっちの娘はお前の弟子だな? リディアだったか、残念だが先生はここで死ぬ。三時間以上も戦って、このわしに傷一つ付けられないのだからな」


「でも……それはあなたの魔法のせいでしょう!? 卑怯者!」


「魔法はわし自身の力だ。卑怯なものか」


 片膝をつくオーディンにイミルの手の平が向けられた。


「……貴様の魔力は悪魔に魂を売って手に入れたようなもの。努力もせずに本当の強さを身につけられると思うな! それに……知っているぞ。貴様らがティルの命を奪ったこと……」


 イミルはオーディンの話など効いた素振りもせず、エネルギーボルトを放った。氷のエネルギーの矢はオーディンの胸を貫いた。


「畜生!! 死ね!!!」


 リディアがキレてイミルに向かって突っ込んで行く……


 それに対してイミルが、今度は手をリディアに向け麻痺パラライズの魔法を使う。イミルは、動けなくなったリディアに、さらに氷の矢を向けた。


 ジェロムが飛び出す。


「盾になるつもりか……若僧、ならばそうなってもらうぞ」


「……悪いな、オーディンさん。あんたの傷の方がひでえはずなのに……本当ならあんたの盾になってもよかったんだけど……やっぱりこいつの方が大事だ!」


「死んでからいくらでも言え!!」


 氷の矢が一瞬でジェロムの右足を差す。同時に左腕も……


「よくあるパターンだな。お前はなぶり殺しにされる……」


「お……お~い! 何とかしろ、トールさん!」


「そんなこと……言っても……ホラ」


「え!?」


 トールの前にはすでにアエギルが立ち塞がっていた。


「ちっくしょお! ……そうだ、フレイ! フレイは!?」


「……階段の途中でバテてる……」


「体力的にも全然変わってね~じゃ……」


「こっちを向け。これはベルゲルミールにも教えた技だが」


 無数の氷の矢がジェロムの体に刺さってゆく。


「ふふふ……そろそろ死ぬかな? わしも疲れてきたが、最後はハデに決めんとな……行くか、アエギル殿」


「どうぞ。ワタクシはうまくけますよ」


 イミルが両手をかざす。急にオーディンが立ち上がる。


「何のつもりだ? 何をする気だ!?」


「さらば! 三戦士」


 身の周りにバリアを張ると、イミルは両手を同時に振り降ろした。


「お前らには一個だけで充分だな!」


 イミルがそう言って上を見るが、その意味がこの時のジェロム達に分かっただろうか……。

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