第19話 油断大敵
ジェロムが必死にジナイダをなぐさめている間にもヘイムダルとオーディンは窮地に立たされていた。
(……鎧を脱ぐ暇さえあれば……)
オーディンは鎧が重すぎて疲れきっていた。
もっとも、普通の人間がスーツアーマーを着てこれだけの動きをするのは相当の筋力が必要なわけだが(と、いうかはっきり言って無理)。
「ちょっと、ジェロム! この……フェンリルって奴、足止めしてて!!」
「ラジャー! さあ、行くぞジナイダぁっ!!」
「やだ! 恐いよ~!」
ジェロムはジナイダを連れてフェンリルの前に立ち塞がった。
「よ~し、何でもいいから魔法を……」
ジナイダは言われるがまま、エネルギーボルトやファイアボールを連発した。もちろん効果なし。
「だ~っ!! 精神が弱いんだよ、君は! もっと気合い入れてかかれや!!」
「そんな……そんなこと……言ったってぇ~……え~ん!」
(や……やべぇっ! 泣かせちまった……不覚だぜ……!)
仕方なくジェロムはハルバードを持ってフェンリルに向かって行った。
フェンリルは地脈を操り、自分の前に地割れをつくった。ジェロムは気にせずに、飛び越そうとしたが、突如現れた溶岩の壁に勢いを止められる。
フェンリルは壁もジェロムもジナイダも飛び越えて、鎧を外そうとしているオーディンの前に着地した。
「キミを倒せばこちらもずいぶんと楽になるんでね。じゃ、さよなら……」
「ちょっと待っ……」
フェンリルの爪がオーディンに届こうとした時、ヘイムダルの剣が前足を斬り裂いた。
「……こんな霊剣でもなきゃ、フェンリルは傷つけられないか……フッ……」
ヘイムダルがかっこつけている間に、オーディンはフェンリルの口に飲まれていた。
「しまった! オレとしたことが……」
スキを見たヘイムダルはフェンリルの眉間に刃を立てた。
その時だった。フェンリルの背中が異様に盛り上がり、体内から槍が見えたと思うと、血しぶきとともにオーディンの姿が飛び出した。
煙を立てる鎧からは、フェンリルの胃液の酸がどれほど強いかがうかがえる。オーディンがプラチナの鎧を着ている理由は、見かけをよく見せるためではなく、筋力を高めたり、こうした特殊な攻撃 (?)から身を守るためだった。
流石のフェンリルも苦痛にのたうち回った。ここぞとばかりにジェロムが攻撃を加えるが、ぜんっ……ぜん効いていない。
物の五秒とかからず完全に回復したフェンリルは怒り狂い、ジェロムを追いかけ回しながら闘技場を破壊していく。
ヘイムダルもフェイに足止めをされ、フェンリルの方まで手が回らない。
「どけて、ジェロム!」
鎧を全部外したオーディンがフェンリルをあっという間に串刺しにした。素早いフェンリルよりもはるかに素早かった。
血で赤く染まったオーディンの槍。フェンリルはもはや動く気配もない。
「フェンリルを甘く見るな!!」
ヘイムダルが叫んだとおり、油断はするべきではなかった。
泣きじゃくるジナイダをなぐさめているジェロムとオーディンをフェンリルの牙が襲おうとした、その時!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます