第17話 強い娘

 オーディンは兜をつけたまま、宝冠を頭の上へ……


 ヘイムダルの顔が青ざめる……


 宝冠は……


 オーディンの両手が宝冠を地面に叩きつけた……!!


「な……何をするのです!」


 皇帝の声も聞かず、オーディンは宝冠を踏みつけ、宝石もろとも粉々にする。


 この行動に誰もが驚き、疑問を感じずにはいられなかったが、ジェロムたちにはすぐに理解でき、不安も取り去ってくれた。


 しかし、二人の・・・ロキとフェンリルには目的まであと一歩という所で転ばされたことと、今までの暗中飛躍がバレた悔しさで、非常に腹立たしい行動であったが。


「貴様……これ以上行動を起こすと……」


 ロキは側にいた皇帝を人質にとろうとしたが、それは遅かったようだ。

 オーディンが先に皇帝を持ち上げ、客席の……ジェロムたちがいるところへ向かって何と、ぶん投げた。


「どうぁっ!! 危ねえっ……!!!」


 ジェロムとヘイムダル、二人がかりで皇帝を受け止める。もちろん、皇帝は失神している。


「フレイア、皇帝を連れて逃げろ。ロキたちをオレとジェロムで止める!」


「でも……皇帝って、ちょっと重くて……」


「仕方ねえ、俺も行……」


「そうはいかないよ!」


 気が付いた時にはジェロムの手首には鞭が巻きついていた。フェンリルの鞭だった。


「ちくしょう! 早く行くんだ、姫様!」


 フレイアは皇帝を背負い、ジェロムの言うとおり逃げた。


「逃げたきゃ逃げるがいいさ。でもこのまま終わったんじゃ面白くないから……」


 フェンリルは鞭をしまい、指を鳴らした。フェイが近づいて来た。


「あんた達をぶっ殺すとしようか。オーディンと一緒にね! さあ、来な!!」


 フェンリルとフェイが試合場へ飛び降りた。


「オレ達も行くぞ!」


 ヘイムダルもジェロムを引っ張って飛び降りた。


「いきなり何すんだよ! あんな所から飛び降りるなんて危ねーじゃねえか!! それに武術会で刀二本とも壊してんだぞ! 武器なしで俺はどうやって戦うんだよ!」


「素手で戦え。それがイヤなら敵から奪うんだな」


 ヘイムダルはバルムンクを抜き、フェンリルに斬りかかった。

 だが、それはロキによって防がれた。


「ハハハ……! こっちにも仲間は二人いるよ!」


 フェンリルの合図でフェイとロキがヘイムダルに飛びかかる!

 これを防いだのはオーディン。オーディンは両手にハルバードとイグドラシル・ランスを持っている。


「おっ! あんたも一緒に戦ってくれんのか!?」


 ジェロムのその問いに、オーディンは拳で答えた。

 ジェロムは鼻血を出しながら立ち上がる。


「いてぇな……何すんだよ! 何か恨みでもあんのかよ!」


「あるわよ!」


 オーディンは兜を脱いで、言った。そこには黒髪の、日焼けした女騎士が立っていた。


「……ったく、力入れすぎたからちゃんと謝って……傷も治してやったっていうのに……何なのよ、あの態度は!! 兜も壊しちゃうし、スペアがあったからいいけどプラチナ製よ! 兜一つだって何ポードすると思ってんのよ、このガキ!!」


 辺りがし~んと静まりかえった。やがてジェロムが口を開く。


「……ご……ごめんなさい……。でもな! こっちだって刀ぶっこわれたんだぞ!! その前には怪力で骨折られるわ……すげ~痛かったぞ!」


「だからその事は謝ったじゃない! 刀は自分で壊したんでしょ!!」


「うっ……言い返せない……」

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