第16話 犠牲者三人目

 息もつかさぬオーディンの連続攻撃。フェイはそれを巧みにかわし、相手のスキをうかがう。


(かわしてばかりじゃ苦しいね……攻撃に移りたいところだけど……)


 そう思った瞬間、フェイにスキが生じた。オーディンの槍の柄がフェイのボディに決まった。

 フェイは何メートルも飛ばされ、その場で攻撃された腹をかかえ込んだ。


(痛い……実体があるとこういう余計な感覚まで備わって……しかし相手の強さが分かるのは好都合だね……こいつを優勝させて身体を乗っ取ってやる……)


 痛みに耐えながらフェイは立ち上がり、いつもどおりタロットを引いた。カードに描かれていたのは死神……停止の暗示だった。


 しかしその間にオーディンの槍の先はフェイの額……そう、ちょうど彼女のつけたサークレットを指していた。


「ま……まさか……やめろ!!」


 何事かに狼狽したフェイはカードを捨て、オーディンの槍を払う。


 うろたえるフェイに対してオーディンは落ち着いた様子で槍を振るう。右からの一撃をフェイは腕で受け止める。

 しかしそれで安心はできなかった。すぐに左からの一撃が襲って来た。


 フェイはかわしきれずに攻撃をくらう。バキッといやな音がする。フェイは上腕骨を折られた痛みで失神する。




「やっぱりオーディン様の優勝でしたね」


「そうだな~、流石俺を倒しただけのことはあるな。……しかしヘイムダルはまだ眠ってやがるし、トールさんは何か知らねーけど部屋で泣いてるし……。結局なにも起こらなかったじゃねーかよ。なあ、姫様」


「まだ安心はできませんわ。何かあれば私とジェロムさんで何とかしないと……」




 数分後、試合場に皇帝と側近の・・・ロキが現れた。


「では、これより優勝者への宝冠の授与式を行いましょう。まず、私から参加して下さった選手の皆さんへ……あなた方のおかげでこの国にも人が集まり、にぎやかになりました。あなた方の戦う姿は兵士たちの士気を高め、魔物たちのはびこる世の中でも……」


 それから皇帝の話は延々と三十分近く続いた。ちゃんと聴いているのはフレイアだけ。


「……それでは、オーディン選手、前へ。ロキ、宝冠を」


 皇帝はロキから黄金の冠を受け取り、オーディンに渡した。




「ジェロム!!」


 そう叫んで走って来たのはヘイムダルだった。


「夢の中でずっと考えていたんだが……分かったんだ! ロキの人格がどうやって複数の人間の中に入り込めたのかがな!! オレが準々決勝で戦った女と……フェイの頭を思い出してみろ!!」


「頭……って、何?」


「あ、分かりました! ロキっていう女の人がつけていたティアラとフェイさんのサークレットが……」


「そうだ。ティアラとサークレット、どちらにも赤い宝石がはめ込まれていた。それにこの武術会のチラシにのっていた優勝商品のクラウンの写真……!」


 フレイアは持っていたチラシを見て、はっとした。


「王冠の真中に赤い宝石……!!」


「その宝石に多分秘密があるに……あ……あれは何をしてるんだ、ジェロム?」


「おめーが寝てる間にオーディンが優勝してクラウンを……ああっ!!!」


 まさに、オーディンがクラウンを受け取り、頭の上へもっていこうとする瞬間であった。

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