第15話 停止

 少し日焼けした細い指がタロットを、さっと引く。


「戦車のカードね……積極的に攻めろとの暗示だね……」


「余計なことを……早くかかって来ないのか?」


「うるさいよ、ヘイムダル。あんたの方こそさっさと来たらどうだい?」


「まるで俺と会ったことがあるような口をききやがって……」


「会ってるじゃないか……何十回もね」


「やっぱりロキか!?」


 ヘイムダルは腰の剣に手をかけた。


「バカだね、この女の身体ごと斬るつもりかい? それにまだ試合も始まってないのにさ」


「ちっ……クソが! どうやって何人も同時に乗り移ったか知らんが口調はその女のものか? 貴様の人格も完全ではないようだな。その女の精神力の方が強くなってきているぞ」


「あんたに言われる筋合はないね。女にうつつを抜かして大事な杯をとられた奴なんかに」


「言ってろ。大方、フェンリルと何か企んでるんだろう?」


「この大会で、かい? ふふふ……」




「お待たせしました。準備も整った様なので準決勝第二試合、Bブロック ヘイムダル・ラスプーチン選手対フェイ・ド・コルターサル選手戦を開始したいと思います」


 試合開始……ヘイムダルの突風ブラストの魔法がフェイロキに飛んだ。しかし攻撃は軽くかわされた。


「また場外にするつもりかい? あんたは女に甘いよ!」


 フェイの三段蹴りがヘイムダルに直撃したかに見えたが、ヘイムダルは魔法の膜メンブレインで防御していた。

 しかしフェイはすぐさま拳に闘気を集め、みぞおちに突きを入れた。


「ふふふ……この女は強いよっ!」


 この試合でもまた、フェイの快進撃が始まった。ヘイムダルの方もできる限り防御はしているが、フェイの攻撃は全くスキがない。


「そろそろこれで決めるか」


 フェイが取り出したのはこれまた、水晶玉だった。両手で振り上げ、傷つき動けないヘイムダルの脳天目がけて叩きつけた。

 水晶玉はヘイムダルの頭とともに割れた。


「……すごい石頭。驚いたよ。全く……本気出してればこんなことにならなかったろうに。その代わり正体がバレて消えたケドね」


「ば……ばかな……言うつもりか……!?」


「言わないよ。あんたが消えたってどうにもならないしね。ただアタシはあんたをぶっつぶしてオーディンを優勝させりゃいいんだよ。あの男、ずいぶん強そうだからね」


「一体……何をするつもり……どうやって……」


「うるさいって言ったろ。一日眠ってな!」


 フェイが使ったのは強力な麻酔薬を塗った短剣だった。ヘイムダルはその短剣で背中を傷つけられ、深い眠りに落ちた。




「なんだよ、こいつ。いつまでも眠りこけやがってよお。明日どうすりゃいいんだよ!」


「きっとお疲れなんでしょう。そっとしておいてあげましょう」


 決勝戦は明日なのだが、今のところ事件は起こっていない。ジェロムたちはこれからどうするか聞きたいところだが、肝心のヘイムダルが眠ったまま起きない。


 そしてトールの方もなぜか落ち込んだままで、話しかけたいのだが、黙ったまま顔を起こさないといった様子だ。


 ジェロムもフレイアもこれではどうしようもない。


「仕方ねー。とりあえず明日まで待つか」


「ええ。じゃ、ジェロムさん、トールさん、おやすみなさい」

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