第14話 仮面の下
窓の外の雨の音に混じって足音が近づいて来た。それはヘイムダルの部屋の前で止まると、ノックをした。
「トールだな?」
ドアを開けてトールが入って来た。
「全身打撲か。どれ、治してやろう」
ヘイムダルは魔法でトールの傷を治療した。
「城の方で治してもらわなかったのか」
「あんたに聞きたいことがあったんだよ。……ロキってのは何者なんだ!?」
「くわしくは言えん。ただ……オレの昔からの敵といえばわかってくれるか?」
「……ああ。あんたがそう言うんだったら俺様もこれ以上は聞かない。あとはあんたに任せるよ。何かあったらすぐに飛び出して一緒に戦ってやるからよ。……じゃあな」
トールは早々と部屋を出て行ったが、ヘイムダルには気にかかることがあった。
(トールの奴……ロキと会ったことがあるのか……?)
本戦三日目の夜も明け、四日目……準決勝が行なわれる。
「今日の準決勝戦は今までと違い両ブロックは同時ではなく別々に行われます。その他は今までと同じですが試合場の広さは4倍です。
では、それに従ってAブロックの試合を始めようと思います。オーディン選手対ジェロム・フォン・フィッツジェラルド選手!!」
オーディンは木製の槍を持ち、プラチナの全身鎧と青いマントをつけて入場して来た。槍は南国ムスペルに生える巨木イグドラシルから作った名槍。
彼の入場で観客が沸いているところへ、名刀関孫六と陣鉢、手甲、それにフレイアから借りた派手な服を着て自信満々のジェロムが入って来る。そしてオーディンに話しかけた。
「この前は助けてもらってありがとう。俺もおかげ様でけっこう強くなりましたよ。ところであんた、アスガルドの王様だったらしいけど、こうなったのも摂政のイミルのせいなんだろ? 武術会が終わったら俺達と協力して……」
「ジェロム選手、そろそろ試合を始めますので」
「おっと、悪い。しかしオーディンさんよ、あんたがこの大会に参加するって聞いてそれまで受付に並んでた奴が200人ぐらい逃げ出したとかって聞いたぜ。あんたがどんなに強いか楽しみだぜ。じゃ、いい試合しようぜ」
「始め!!」
試合開始、ジェロムは刀を抜き、オーディンは槍を構える。
攻撃はオーディンが早かった。突いてきた槍をジェロムは反射的に
ジェロムは刀を振った。しかしその攻撃は虚しくも空を斬った。オーディンの槍が縮んだように見えた。
だが、それは縮んで刀を避けたのではなく、オーディンが後ろへ下がっただけで、次の攻撃はすでに用意されていたのであった。
ジェロムは足を払われ、体勢を崩した。倒れたところへ相手の第三の攻撃がジェロムを襲った。
それを横へ転がってかわすが、オーディンは地面を突いたままの槍を棒高跳びの棒のように使って空中へ飛び、立ち上がったばかりのジェロムの頭に蹴りを叩き込んだ。
しかしその感覚はなく、ジェロムはオーディンの足をくぐるようにして避けていた事実だけがあった。そしてジェロムの刀がオーディンの鎧の間を縫って肌を斬った。
「うっ!」と、オーディンが小さくうめき声を漏らす。それを聞いて怯んだか、ジェロムにスキが生じた。オーディンはそれを見逃さなかった。
槍の柄はジェロムの脇腹を打った。さらに手刀がこめかみを強打した。
ジェロムは両膝をつき、必死で痛みをこらえている。その間、オーディンは魔法で傷を癒やし、精神を集中させて闘気を解放し始めた。
「クソ……おっさんのくせに一丁前に闘気なんか使いやがって……俺だって使えんぞ!」
ジェロムは
その間にもオーディンの気が徐々に高まっていくのが感じられる。
「まてよ……この気配……まさか、あんた!!」
またもやスキを見せたジェロムにオーディンの二段攻撃が決まった。一つはジェロムの肩に、もう一つは脇腹にヒットした。
鎖骨とアバラを折り、苦しみもがくジェロム。オーディンはそれを見て何を思ったか、振り上げていた槍を床に落とし、ジェロムに駆け寄った。
「ごめんネ……試合終わったら治療してあげるから……」
カウント2……ジェロムは激しい苦痛の中で女の人の声を聞いた。しかし、顔を上げてみれば目に入ったのはオーディン。
「ふざけ……やがっ……て……
ジェロムは渾身の力をこめて、近づいて来たオーディンの兜を斬りつけた。刀は兜とともに砕けた。
その攻撃力にオーディンは驚き、兜の下に隠されていた顔にジェロムは驚いた。
(これも
ノック・アウト。勝ったのはオーディンだった。気絶したジェロムを治療し、片手でかつぎ上げると、
目覚めるとジェロムは宿屋にいた。側にはフレイア姫がいた。誰かに運んで来てもらったらしい。
「あれ……? 姫様、ここは俺の部屋じゃないの」
「ええ、今オーディン様が来てくださって……。でもオーディン様って思ったより小柄なんですね」
「何……あ……ああ。そうか、気付かなかったぜ。あんな近くで見たのに。俺と同じぐらいだった」
「そうですか……。それよりそろそろヘイムダルさんの試合が始まるころですから……」
二人は部屋を出て足早に客席へ向かった。
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