第5話 魔物の群

 あれから丸一日、一行はサガの村に着いた。が、この村もモンスター達の襲撃をうけていた。

 勇気ある少数の村人は暴れ回るオーガー達に必死の攻撃を加えていたが、ほとんど歯が立たなかった。


 そこへやって来たジェロムたちに最初に目をつけたのは五、六人のソーサラーとトロル、それにマンイーターの群。


 トロルやマンイーターはジェロムやスキールニルでもいくらか相手はできたが、ソーサラーの使う魔法には誰もが苦戦した。


 シールドの魔法の前にジェロムの国光はくだけ、虎徹さえも刃こぼれをおこした。無論、フレイのフェンシングフォイルなど、たやすく折れるのだった。


 武器を失ったフレイ、フレイアが村人と一緒になって逃げ回る中、ティルは両手に持った二メートル以上もあるグレートソードでトロル、マンイーターの群を全滅させた。


 これで戦いはかなり楽になった。スキールニルはディスペルの魔法で敵のシールドを破り、スキをついてジェロムとティルがソーサラー達を倒す。


 残ったオーガー達も村人の協力を得て倒し、死者を出さずして村を救った。




「ケガはありませんかな、姫様?」


「ええ、大丈夫。あなた方のおかげです』


「本当によかった。、みんな無事で」


「何言ってやがんだよ、逃げ回ってたくせに……」


「仕方ありませんわ。王子は武器を持ってなかったのですから」


 それを聞きつけたか村人の一人が何やら近づいて来る。


「村を救ってくれたお礼です。どうぞお受け取り下さい」


 村人がもって来たのはこれまた名刀関孫六せきのまごろくとミスリル製のレイピア、そして武士の着る大鎧だった。


 これだけの物をもって来られて最初はためらったが、これからまたあんな大群と戦うとなれば快くもらっておくのが正しかった。


 そして孫六と大鎧はジェロム、ミスリルレイピアはフレイの手にそれぞれ渡った。


 それから食料を調達し、宿でゆっくり休んだ後、五人はモンスターのセメてきたヨトゥンヘイムを目指して北へ向かった。




 地理を確かめずに旅立ったのはうかつだった。サガの村の北五キロほどからは砂漠が広がっていた。


 引き返すわけにもいかず、砂漠を進むが、この炎天下にマントなしでサンドウォームたちと戦うのは辛かった。


 運よく途中で出会ったキャラバン隊から水とマントを購入し、それからの二日間は比較的楽に進めた。


 そしてやっと到着したオアシス……ヨトゥンヘイムさえもモンスターの手によって破壊されようとしていた。

 だがここまで強くなったジェロムたちにはさほど手強い敵でもなかった。


 名刀孫六の切れ味はよく、ジェロム、ティルはミノタウロスを斬り刻み、フレイのミスリルレイピアもほぼ確実に敵の急所をついていた。


 というのもこのヨトゥンヘイムにはフレイの恋するガートルード姫が住んでいるから……


(ガートルード姫ぇっ! 今すぐこの魔物どもを倒して貴女を救い出してみせますぅっ!!)


 敵が四方へちらばるとフレイは城門目指して駆け出した。


「どうしたんだ、あいつ……」


「そのうちわかりますわ」


 それでも敵は襲って来るが、勢いを弱めない三人の前にあっけなく全滅した。




 その晩、ジェロムたちは城の舞踏会に招かれた。ジェロムは七面鳥などを食いあさっている。


「王子……気持ちは伝えましたですか?」


「……それが……なかなか言えなくてな……」


「手紙で伝えればよろしゅうございましょう? 今晩がチャンスでございますよ。さあ、今すぐ書くのです!」


「そんな事を言われても……」


「手紙は私が渡してさしあげますわ。さあ、早く!」


(このチャンスを逃すすべはない……今だ……書くのだぁっ!!)


 フレイは思いつく限り、愛を伝える言葉を手紙に書いた。そしてそれをスキールニルに渡した。




「渡して参りましたよ、王子。返事は城の方へ送るとかで……」


「城というと……ノーアトゥーンにか!?」


「はい。でも心配はいりませんわ。私が……もどって返事を受けとります。そうしたら後から王子達を追います」


「何、話してんだァ?」


 ジェロムが横から口をはさんで来た。酒が回っているらしく顔があかい。


「ええ、私は明日城へもどりますので……ジェロム様達はどこへ?」


「なんだよ~、帰っちゃうわけ? さみし~な~女のが一人減ると……あ、じゃないか~」


「からかわないで下さい!」


「ゴメン~。……さっき城の人から聞いたけどさ~、『ブリーシンガメン』……昼間来たモンスターのボスにられちゃったんだってさ。ガルムっていう奴らし~よ、そいつ」


 ガルムの名を聞いたとたん、今までしかめっ面をして黙り込んでいたティルが話しだした。


「ガルムというのは北のニフルの国のどこかにアジトをもつ妖魔たちのおさだな」


「そうか! ならばボクたちはニフルに行こう! ねえ、ジェロム……さん?」


(……ここまでは一本道だったが……カレンが行ったのはどっちだろう……北か……南か……どっちにしろここまで来ちまったんだ……フレイの奴の言うとおり北に向かうか……)


「どうします? ジェロムさん」


「行こうぜ、ニフルに。悪を倒そうぜ! そのガルムって奴をな、四人で!」


 こうしてスキールニルはノーアトゥーンへ帰還し、ジェロム、フレイ、フレイア、ティルは北の王国ニフルへ向かった。

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