第4話 ただ一つ

 突如現れた騎士によって救われたワルハラの都だが、疑問がまだ残っていた。

 なぜ急に魔物が攻めて来たのか、なぜオーディンは去ったのか、この二つである。


 しかし正義漢のジェロムにはそんな事を考える暇などなかった。

 武器屋で名刀新藤五国光と手甲を買い揃えると、魔物たちの攻めて来た方角……北西はウトガルド帝国へ旅立つ準備を始めていた。


「おい、コラ! 行くぞフレイ!!」


「いやだよ……恐いよ! 昨日みたいな魔物に襲われでもしたら……うわ~ん!」


「情けねえ奴だな、おめ~も」


「行きますよ、王子! 行き先はウトガルドですよ!!」


「ウトガルド……? ……わかったよ。ボクも行くよ!」


「……どうしたんだ、スキールニルさん。こいつウトガルドって聞いたら急に……」


 その理由はウトガルドの首都ヨトゥンヘイムにはフレイのあこがれのガートルード姫がいるから……である。


機会チャンスだ……今度こそガートルード姫にこの3年間の想いを伝えてみせる……!!)


「ま、どうでもようございましょう。それでは王子、ジェロム様、いざ出発!」




 一週間ほどゴブリンやオークたちと戦いながら歩き、やっと国境近くのフヴェルゲルミルの泉についた。


「……何だよ、フレイ。臆病なくせにけっこう強えんじゃねーの(剣の突きはムチャクチャだけど……)」


「いいえ、それほどでも……」


 今までずっともってきていたフェンシングフォイルを磨きながらフレイは言った。しかしこの剣は折れやすく、いつ使えなくなるか分からない。早く泉を抜けて町で買い替えなければならなかった。


「さあ、もう少しでサガの村に着くはずです。行きましょう!」


 スキールニルの一言で二人とも立ち上がった。それと同時に後ろの木陰から人の気配を感じた。

 しかしフレイの方はそれが敵ではない事に気付いた様だった。


「フレイ! それにスキールニルではありませんか!」


 木陰から現われたうちの一人……バイオレットの髪の少女がそう言った。

 続いてもう一人の戦士も言った。


「この方がフレイ王子ですかな、フレイア姫」


「スキールニルさん、彼女がフレイア姫……?」


「はい。しかし奇遇でございますね、こんな所で会うことになろうとは……」


 五人は今までのいきさつを話し合った。


 フレイア姫は城から脱走した後、都でティルという用心棒を雇い、あてもなくさまよっていたという。その用心棒の戦士がフレイアの連れているこの男らしい。


 ただ一つジェロムたちの聞いた話と食い違っていたのは、フレイアは城から逃げ出したのではなく、摂政のイミルに追い出されたということだった。その後地下にとじ込められたところをティルの仲間に出してもらったとのことだ。


 ティルは事の真相を知ってはいたが、ジェロムたちには話さなかった。


 それともう一つ、フレイアが知っていたのは、この世界に古くから伝わる四つの宝の一つである『ブリーシンガメン』の首飾りの魔力ちからを引き出せるのは、フレイア自身だということ……


 一時間ほど話した後、ティルが皆に言った。


「我々もウトガルドへ参りましょう。ヨトゥンヘイムの城に我々の求める『ブリーシンガメン』があるはず」


「そうか、俺達と一緒に行ってくれるわけだな。……でもそれがわかってんならなんで最初からウトガルドに行こうって思わなかったんだ?」


「これは今、気付いた事でな。『敵』はどうやら姫様をねらっているらしい。ならば早めに『ブリーシンガメン』を手に入れて姫様の身を守った方がよいと思ったのだ」


「それでその『敵』というのは誰なのだ、ティルとやら」


「……今はまだ言わない方がよい。もう少し『敵』の裏側を知ってからの方がいいだろう」


「べつにいいじゃねえの。それよりその首飾りというのを手に入れるのが先だ」


 ジェロム、フレイ、フレイア、ティル、スキールニルはウトガルドへ足を向けた。




  *  *  *




フレイア

Freyja


15歳/女/ミドガルド王女

164cm/右利き


特技:歌

趣味:リュート

好きな食べ物:エクルヴィスのサラダ




ティル・ソーディック

Tyr Saudek


42歳/男/戦士

186cm/両利き


特技:双剣術

趣味:釣り

好きな食べ物:ピザ

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