第6話 珍しい物
それからしばらくの間、ぼーっとしていると不意にある事を思いついた。そうだ、今のうちに彼女に魔法を教えてあげよう。そうすれば将来役に立つだろうし、結婚の事も忘れてくれるかもしれない。私も楽が出来るしね。我ながらいい考えだと思った。
このままじっとしてても始まらないし早速実行に移すことにした。外に出てアイちゃんの姿を探すとすぐに見つかったので話しかけることにした。
彼女は向こうの森の方を見て何かを気にしているようだった。
「アイちゃん、どうかしたのかな?」
「あ、お姉ちゃん。あそこに何かいるんです」
「ん? あれはスライムだね」
この世界なら珍しい生き物ではないが、町の中にはモンスターは現れないしアイちゃんには珍しいのだろうか。
「いえ、スライムではなくて……」
「ん?」
すると何かがキラリと光った。私は驚く。あの翼の生えた黄金に光るボディはまさか……!
「ゴールデンメタルスライムか!」
「ゴールデンメタルスライム?」
聞き慣れない単語だったのかアイちゃんが首を傾げる。私は驚きながらも目は離さないようにしながら説明してあげる事にした。
「ああ、前に漫画で読ん……いや、古い文献で読んだのだがあの魔物はね、とても珍しくて捕まえると大量のお金が手に入るんだよ」
「すごいですね!」
「そうだね。でも、あの魔物はとても温厚な性格で可愛いから暖かく見守ってあげようね」
「はい!」
こうして私達はゴールデンメタルスライムを温かく見守ることにしたのだった。そいつはピイピイ鳴きながらキラキラ飛んでいる。私の知るそれと変わりがないようだ。
(しかし、どうしてこんなところに……?)
私は長くここに住んでいるがあんな奴は見た事が無い。先日空に現れて町を襲った魔族達と関係しているのだろうか。疑問に思っているとアイちゃんが話しかけてきた。
「あの子、仲間とはぐれたんでしょうか……?」
「うーん、どうだろうねぇ」
確かにピイピイ鳴きながら木々の間を飛び回っているのに普通のスライムに相手にされていないのを見るとそんな感じにも見える。
まるで自分を見ているようだ。じきに失敗を学んで一人でいる事を選ぶようになるだろう。
「可哀想……。助けてあげたいなぁ……」
「助けるって……どうするつもりなのかな?」
「一緒に連れて帰ります! そして、わたしのペットにするんです!」
その発想は無かったな。まあ、子供ならペットを飼うのも悪くないかもしれないな。いざとなったら店に売れば金策にはなるだろう。なんなら調べて魔法の素材にしても構わない。
そんな私の邪な思いが伝わってしまったのかもしれない。
「ピイ~~~!」
そいつは一際甲高い声で鳴くと空高く舞い上がって、そのままどこかへ飛んでいってしまった。どうやら逃げてしまったらしい。
残念だったなと思っているとアイちゃんが悲しそうに呟いた。
「行っちゃいましたね……」
「仕方ないよ。それにここはあいつの住む場所じゃなかったんだ。もしかしたらどこか自分にふさわしい場所を見つけたのかもしれないよ」
そう慰めると彼女は笑顔になった。やはり子供は笑っているのが一番だなと思う。それにしても今日は良い物が見れたな。
最近は異世界から侵略者が来たり、家にアイちゃんが来たりもしたし、何だか妙に慌ただしい。
これは何かが起きる前触れなのだろうか。それともただの偶然か。
私の穏やかな山暮らしはどうなるのだろうか。私はぼんやりと空を見上げながらこれからの事を思うのだった。
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