第5話 彼女の告白に私は困った
翌朝、目を覚ますと隣にアイちゃんの姿はなかった。先に起きたらしい彼女が朝食の準備をしている音が聞こえてくる。台所に行くと既に料理が出来上がっていたようで机の上に並べられていた。それを見た私は驚くと同時に感動すら覚えたのである。
「おはよう、アイちゃん。もうすっかり一人でできるようになったね」
挨拶をしながら席に着くと彼女も笑顔で返してくれた。
「はい、家でも手伝っていましたから。おはようございます!」
朝から元気いっぱいといった感じで見ているだけで癒やされてしまうほどだ。彼女の笑顔を見ているとこちらまで幸せな気分になる気がする。やっぱり子供は良いものだなと思いつつ食事を始めることにした。
今日のメニューはトーストにサラダ、スープといった簡単なものだ。どれも美味しそうである。さっそく食べてみると味の方もなかなかだった。これなら毎日食べたいくらいだが流石に無理だろうな……。
彼女もいつかは自分の家に帰る時が来るのだ。その時までは精一杯楽しんでもらおうじゃないか! そのための協力ならいくらでもしてあげようと思う。だからそれまではたくさん思い出を作ってほしいというのが私の本音だ。
その後、片付けを済ませた後、私は彼女に話しかけた。
「今日は何したい?」
すると彼女は少し考えてからこう答えたのだった。
「そうですね……お嫁さんになる修行がしたいです!」
「えっ!? ああ、それね……」」
つい驚いてしまうが、この前私が言った事をこの子はまだ覚えているんだ。
もっとも大人の考えるそれではなく子供特有の願望としてのお嫁さんだろうけど。
だとしたら微笑ましい限りではあるが、果たしてどこまで言葉の意味を理解しているのか疑問ではある。まぁ、とりあえず話を聞いてみようかな。
「なるほどね。ちなみにどうしてなりたいのかな?」
そう尋ねると少女は目を輝かせて言った。
「わたしは将来社会の為に貢献したいんです! それでみんなを幸せにしたいと思ってるんですよ! なので今から家庭を作る練習をしておきたいのです!!」
この子はいったい何を言っているんだろうか。もしかしてこの国も私が元いた世界と同じ少子化の問題を抱えているのだろうか。人なんて少なくてもいいと思うけど。
電車も道も込み過ぎだったし、リア充なんて見たら自分が滅びたくなるだろう。
そう考えるとこの世界は平和でいいよね。山で一人でも暮らしていけるし、魔法だって使えるし。
そんな事を考えているとアイちゃんが心配そうに尋ねてきた。
「だめですか……?」
「え、あ、いや、そんなことはないよ」
「本当ですか!?」
「うん、本当だよ」
「やったぁー!!ありがとうございます!」
喜ぶ彼女を微笑ましく思いながらこれからどうしたものかと考える私であった。
(さて、どうしたものかな……)
ひとまず家事全般については彼女も出来るようなので教える必要がないのだが、お嫁さんになるのに必要な肝心の相手役がいないんだよな……。困ったものだ。私に有名人や石油王の知り合いなんていないぞ。もちろん一般人の知り合いもいない。一応聞いてみるかと思い口を開く。
「アイちゃんは誰か好きな人とか結婚したい人はいるのかな? もしいるのならその人を呼んできてあげるよ? 私これでも魔法が使えるからさ」
すると彼女は首を傾げて困った顔をした。あれ? 何か変な事言ったかな? いきなり呼んでくるのはハードルが高かったかな。話が早く済むと思ったんだけど。交渉力の無さは魔法でカバーできるし。
あまり人の心を惑わす魔法は後が恐そうなので下手に使う気はないが、アイちゃんの為ならやってあげるよ。
そう思っていると彼女は予想外の答えを口にした。
「あの……私が好きな人は今目の前にいるので……」
「え!?」
私は思わず後ろを振り返る。もちろんそこには誰もいないぞ。
「わたしが好きなのはおねえちゃんです! 言わせないでください! 恥ずかしい!」
「えええーーー!?」
アイちゃんからの思わぬ告白を聞いて私は思わずドキッとする。好意を持たれているとは思っていたけど、まさか恋愛感情だとは思っていなかったからだ。てっきり憧れみたいなものだと思っていたのだけれど違ったようだ。
そうか、この子にとって私は初恋の相手というわけなんだな。そう考えたらなんだか嬉しくなってきた。私のどこに魅力を感じたのか気になるところだけれど今は置いておこう。それよりも返事をしてあげないとね。
「ありがとう、嬉しいよ。でもごめんね。君の気持ちに応える事は出来ないんだ」
「どうしてですか?」
「だって、私達女の子同士じゃないか。同性は結婚できないんだよ」
「そんなのわたしが偉くなって法律を変えますから! それに最近ではそうした動きもあるんですよ!」
「そうなんだ」
この国は中世のように見えるけど実は進んでるのかもしれない。私は興味が無かったのでこの国の政治を調べようとはしていなかった。
私が戸惑っていると彼女は悲しそうな顔で俯いた。
「わたし、本気なんです。本気でおねえちゃんのことが好きなんですよ? それじゃ駄目なんですか……?」
「気持ちは嬉しいけど、アイちゃんはまだ子供なんだしさ、もう少し大人になってから考えようよ。勘違いしてるだけかもしれないし、それまでに素敵な男性が現れるかもしれないからね」
そう言って誤魔化すとアイちゃんは渋々納得してくれたようだった。よかった……これで諦めてくれたかな? そう思って安堵した瞬間、爆弾発言が飛び出したのだった。
「わかりました! おねえちゃんがそういうなら我慢します! でも、その代わり、大きくなったらわたしをお嫁にもらってくださいね!」
(なんでそうなるんだ~)
アイちゃんの事は嫌いではないが私は犯罪者になるつもりはないんだ。それにきっと彼女の将来を壊してしまう。
引きこもり二号を生み出すつもりは私にはないのだ。引きこもりは私が一人で墓場まで持っていってやる。そうすれば町はリア充だ。
内心頭を抱えつつどうやって説得するか悩んでいるうちに彼女は照れから逃げるようにさっさとどこかに行ってしまった。そりゃ恥ずかしいよね。私だって胸がドキドキしている。
まあ、いいか……。子供の言う事だしきっとそのうち忘れてくれるよね。年頃になれば好きな男もできるはずだ。私はなんで失恋したような気分になっているんだろう。今はそっとしておくことにした。
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