午前 調べもの


 ルール4。『お祭り』の会場について。この点について、少しデータをそろえておきましょう。


 舞台は、私が住むこの地域、K県S市C町1~5丁目。このC町は1~8丁目まであるけれど、そのうちの一部地域、ということになるわね。ネット情報によれば、C町の面積は約13平方キロメートル。世帯数15000。人口35000。主催者がなにを考えてこの地域――1~5丁目のみを舞台としたかは解らないけれど、6~8丁目は比較的、閑散とした地域だからかもしれないわ。家屋が少なく、田畑が広がっている。人口は、内外からの出入を考慮しても、1~5丁目に集中している。


 ともあれ舞台はここと指定された。この地域だけに限るなら、面積は8平方キロメートルほどかしら。人口は集中している。30000弱といったところね。で、問題は、この中の何人が、参加者かということ。我が家において、お父さんとお母さんはおそらく、参加者ではない。一家三人の内、参加者はひとり。単純計算で、範囲内30000人のうち三分の一なら、多く見積もっても10000人までが参加者の上限。……データが少なすぎて推測すら難しいわ。でも、たぶんそんなに多くない。舞台面積の狭さを思っても、多く見積もって50人。10人以下だとしてもおかしくない。


 どちらにしても、このあと外出するつもりだけれど、住人すべてを警戒するなんて不可能だわ。警戒するのは、まず、自宅を出たときがもっとも重要。私を殺したい人間が私の住居を知っていた場合、家を出る瞬間を待ち構えているかもしれない。そうでなくとも、ご近所さんに関しては、言葉を交わしたことのないまったくの他人であろうとも、一方的に私を憎悪している相手がいるかもしれない。互いにすれ違う可能性が高いのだから、その分、互いになんらかの感情を抱く機会は多いのだから。


 とはいえ、実はさほど心配してないわ。今回の異常を、目覚めてからこの短時間で、受け入れている参加者自体がそう多くないでしょう。そのうえ、それを理解しても、さらには計画を立てて、行動する時間だって必要だ。無計画な馬鹿も一定数いるでしょうけれど、そういう輩なら特段に警戒しなくとも、愚直に銃口を向けてくるわ。気構えさえしていれば対処もたやすい。


 となると、やはり警戒しなければならないのは、物陰に隠れ、息をひそめ、姑息に陰険に、機会をうかがう者。ピストルを作るだけで、参加者には警戒させる。だからこそ、その挙動は、必要最小限に行わなければならない。それを理解している者を、探し出すのは難しい。


 ……ダメだわ。動かないと、どうしても情報が足りない。ひとりでも他の参加者を見つけないと。たとえば参加者のひとりが、私と同年代だったなら、この年代の者たちだけを選出している可能性だって考慮できる。その逆も然り。性別や、なんらかの特徴。なにを判断するにも、データが不足している。それに、早めに動かないと、それこそ、自宅を狙われる可能性が高まる。とにかく出かけましょう。


 今日は土曜日。高校はお休み。最悪、今日明日は自宅に引きこもる選択肢もあるけれど、やはりそれは、消極的な手ね。その間に誰かが『ぶち殺し』を達成し、『お祭り』が終わる可能性もある。そうなれば楽だけれど、そうならなかった場合、否が応にも私は、高校に行くため、家を出なければならない。この2日間を引きこもることは、その分を出遅れてしまうリスクを秘めている。どうせリスクがあるなら、こちらから動いた方が、うまくいくわ。だって私なのだから。


 と、いうことで、目的を定めましょう。当てもなく町をさまよってもいいけれど、それじゃ芸がない。……せっかくだから、町を――『お祭り』の舞台を見渡したいわ。自分の住む町だから、だいたいのことは把握しているつもりだけれど。


「展望台、か」


 ちょうど。1~5丁目のど真ん中に、電波塔がある。私は登ったことないけれど、展望台があると聞いたことがあるわ。たぶん町全体を見渡せるでしょう。


 ただ、問題は、他の参加者も同じことを考えそうだということ。それはそれで、参加者を特定するチャンスだけれど、リスクも大きくなる。まさか私を殺したいと願う参加者が、たまたま私と同じ思考をして展望台に来るとも、思わ――うーん。……逆に、私を殺したいと願うほど、私に近しい相手なら、考え方も似てくるのかしら? ……だとしても、私を殺したいと願う相手をおびき出せると思えば、それはそれで悪くはないかもしれないけれど。


 まあ、なにはともあれ、動かなきゃいけないわ。他にめぼしい目的地もなさそうだし、行ってみましょう。あとはぶっつけ本番ね。きっと大丈夫だわ。私なら。



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