朝 家族 考察 2


 ふあああぁぁ――ぁ。


 いかにも、いま起きました、まだ眠い、とでも言いたげな年頃の娘を演じて、伸びをする。寝癖も整えないまま、まだ顔も洗っていない。小学生のころから着続けているパジャマは、あまりに早熟だった私とはいえ、すでに七分丈だ。こうして、あえて残している可愛げも、しかめた顔つきでプラマイゼロ。いいえ、今日に限っては、むしろマイナスに寄せて。


「おはよう。朱菜あかな


「…………」


 お父さん。……除外。私がリビングに入る瞬間も、大あくびをしている隙にも、挨拶をかけるときにも、普段と違うそぶりはない。ましてや、右手で――念のため左手も確認しているけれど――ピストルを作る様子も、ない。まず、問題ないわ。お父さんは参加者じゃない。


「朱菜。ごはん食べちゃって。片付かないでしょ」


「…………」


 新聞を読みながら、お母さんを確認。……保留。キッチンで洗い物。ゆえに、その手は見えない。が、まあ、おそらくは大丈夫だろうか。忙しそうに声をあげるが、私をちらりと見て以来、洗い物に夢中だ。ピストルから伸びる照準は、壁などの物質を透過することはリビングに来る途中に確認したけれど、それを目で追う様子もなく、ただ黙々と、お母さんは家事にいそしんでいる。とりあえずは――


「朱菜――」


 警戒を解いてもいいだろう。


「はいはい」


『ぶち――』の、予備発言を解除。普段から口数の多い方ではないが、さすがにまったく会話をしないわけにもいかないわ。面倒そうにひとつ、あくびをして、食卓に着く。


 朝食に遅れすぎるのを嫌って降りてきたけれど、続けて、ルールと、私の目的についての、確認をしていきましょう。




 ルール3。『お祭り』の終結条件について。


『お祭り』の終結は、いずれかの参加者による、『ぶち殺し』の達成によりなされる。……ミランダちゃんは明言していなかったけれど、全参加者の参加権喪失。これは『お祭り』終結条件にならないのかしら? ……あのおっさん、ちょっと心配なのよね。途中、言い忘れかけていたこともあったみたいだし。もしかしたら今度のルール説明も、多少の過不足があるのかもしれないわ。


 参加権の喪失……かあ。加害者としては参加できずとも、被害者にはなり得る。たとえばそういう意味で、『お祭り』の終結とはならない、ということかもしれない。私は、参加者が参加者を殺すのを主とするイベントだと理解したけれど、あるいはそれは一面的な理解なのかも。そういう側面もあるが、参加者が参加者以外を殺す標的とする場合もあり得る。少なくともルール上、どちらも成立し得る、というのはたしかね。


 考察が逸れたけれど、ともあれ、明言されている『お祭り』の終結条件はひとつ。参加者の誰かが、『ぶち殺し』を達成すること。これで少なくとも、今回参加者となった者たち全員から、参加権は失われる。つまり、私を超常的な力で殺そうと狙う者から、その力を取り上げることができる。これが、私の目的だ。




 重要考察。では、その目的達成のために、私がすべきことは?


 これが本日の行動の基盤となる。私が今回の『お祭り』を、無事に生き残るために、するべきこと。


 まず、条件を確認しましょう。


 プランA。私が私の殺したい相手を殺す。――現状では、その『殺したい相手』が誰だか思い当たらないから、なかなか困難そうね。


 プランB。私以外の参加者が、私以外の誰かを殺す。――これがもっとも明確に『お祭り』を終結させる方法。でも、私以外の参加者が誰か、ひとりとして私は知らないし、その誰かが殺したい誰かというのも、当然と現状では、解らない。ゆえに、そのあたりの誰かさんをなんとかして探すことが、ひとまずの大きな目的となるでしょう。

 ただし、私が参加者のひとりであるとは、基本的に知られたくはない。そのうえで、他の参加者を発見したとして、その者の行動を管理するのは骨が折れそうだわ。……でも、やるしかないわね。まあ、私ならなんとかするでしょう。ともあれ、まずは参加者や、参加者たちの殺したい相手を特定すること。それが目下の目標になりそうだわ。


 プランC。参加者全員が、参加権を喪失する。――これは明言された『お祭り』の終結条件ではないけれど、理屈としては、それでいったん、私は助かるのではなくて?


 ミランダちゃんは、『第40回のお祭り』と言っていた。つまり、これまでもこれからも、この謎のデスゲームは続いてきたし、続いていくのでしょう。それを止めることまでは、私にはできない。であれば、またいつか開催される『お祭り』の参加者に、私が超法規的に殺される可能性も残るわけだ。


 でも、今回の『お祭り』に関しては、関与できる。手の打ちようがある。だから、この『お祭り』に関してだけは、負けるわけにはいかない。私自身の誇りにかけて。

 そういう意味では、『お祭り』の終結とは厳密にはならないとしても、今回の参加者全員が参加権を喪失するという結末は、とりあえず私の勝利条件としては、留保しておいていいものとなりそうね。


 そして、その条件を満たすためには――もちろんプランAやBの達成でもいいわけだけれど、それ以外では――全参加者の『ぶち死ね』無駄撃ち、が、あげられる。各参加者一度限りの、『ぶち死ね』。それを撃ち終えた時点で、その参加者は参加権を失う。これを、全参加者が行うことで、今回の『お祭り』は事実上の終結を迎えるはず。……主催者が想定する『終結』とは違うのかもしれないけれど、しかし、それは紛れもなく、私にとっての勝利条件だ。


 と、長々と考察してきたけれど、このプランC、これがもっとも難しいわ。結局、偶然に頼らずその条件を達成しようと思えば、今回の『お祭り』に参加している全員を確定させなきゃいけないし、そのうえ彼らに無駄撃ちをさせる必要もある。後者はともかく、前者は簡単ではないわ。それに、ひとりでも参加者を特定できたのなら、その時点でプランBを遂行するのが近道でしょうし。あくまでプランCは、偶然にも全参加者を特定することができて、そのうえ比較的容易に、彼らに無駄撃ちをさせることができる状況が、なぜかたまたま出来上がったときくらいにしか、実行を考慮する必要がないわね。そもそも、参加者が何人いるかすら、私にはまだ、予測くらいしかできていないのだから。



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