第28話 秋月食事処2号・3号・4号店開店

 それぞれの孤児院の近くに秋月しゅうげつ食事処を建てた。孤児院の改修工事と同時進行して1週間前に完成したのだ。

 そして本日、秋月しゅうげつ食事処2号・3号・4号店の同時開店になる。メニューも店舗別に分けているので、料理をコンプリートするのに時間が掛かるだろう。そして三ヶ月に一回メニューの入れ替えをするから飽きがこない仕上がりになるはず。

 それぞれのキッチンには小さい子でも調理出来るように踏み台を用意してある。流石に油物は危険なので、13歳以上の者だけと義務付けてあるけどね。

 先ずは2号店から視察を始めるとしよう!

 噂を聞きつけて長蛇の列が出来ている。私は裏口から店に入り様子を伺ってみた。

 元気の良い挨拶に飛び交うオーダー、慌ただしくホールとキッチンを行き来する子供達。キッチンを覗けばフル回転で料理を作る子供達。

 空間支配のスキルを活かして、電波をウォーズに引き込んで使用しているオーダータブレットが大活躍している。呼び出しベルや6窓受信表示器も設置してあるのだ。お金の扱いも電卓を教え込んで使えるようにしたので、勘定間違いもないだろう。

 「あ、ヒヨリ様だ!」

 ちびっ子が私を見つけ駆け寄って来た。この辺はまだまだ子供である。

 「様子を見に来てくれたんですか?」

 「うん、護衛の人達は役に立ってる?困ったことはない?」

 子供に目線を合わせて問いかけると

 「うん、タブレットも使い易くて、何のオーダーが入ったのか、何処に運べば良いのか一発で分かるから楽だよ!護衛の人達も嫌な客を追い払ってくれるから助かる!」

オーダータブレットを使いこなしているようだ。

 まぁ、この店の備品を盗んでも使用出来ないので問題はないけどね。レシピに関しては今後メニューが入れ替わる時期を見て商業ギルドに特許申請する予定だ。それまでは秘伝となっている。孤児院の子供を引き抜くことは契約上出来なくしてあるのでレシピが漏れる心配はない。

 「そうか、休憩は入れ替わりできちんと取るんだよ。」

 子供の頭を撫でて私は3号店へ向かう事にした。


 3号店は2号店と同じで特に問題なく運営されていた。秋月しゅうげつ食事処の支店という触れ込みもあって繁盛している。

 問題は4号店にあった。

 「俺がこの店を貰ってやると言ってるんだ!」

 ホールに立っていた子供に詰め寄っている身綺麗なおっさんと腰巾着。

 迷惑な客は追い出すようにと護衛に通達していたにも関わらず我関せずと仕事をしていない奴等に米神に青筋が浮かんだ。

 職務放棄で金貰えると思うなよ!高い金払って冒険者ギルドに依頼したのに…契約違反だ!覚えてろっ!

 私は名前は通っているが、容姿が認知されていない上に日本人特有の童顔も相まって、この世界では未成年に見られるのだ。舐められる!

 スマホを取り出しヨハンに電話を掛ける。

 「ヒヨリ様、どうした?」

 ワンコールで出たヨハンに上下関係を叩き込んだ事をこの時ばかりは自分を褒め称えたい。

 「緊急事態だ。4号店で雇った護衛が仕事をしてない。今すぐこっちに来てくれ。元Aランク冒険者の肩書が必要だ。」

 返事を待たずに電話を切った。さてどうするか?ここで私が出て行っても舐められるだけだ。私が秋月しゅうげつの経営者だと言っても信じないだろう。

 やっぱりヨハンを待った方が良いか…

 ヨハンを待つこと10分、おっさんは相変わらず店の営業妨害をしてくれている。雇った冒険者は見て見ぬふりを決め込んでいてイラつく。金でも握らされたのか?

 店先でヨハンを待っていると、慌てて走ってくるヨハンを見つけた。

 「こっちだ!!」

 ヨハンに気付いて貰う為に手を振ってアピールする。

 私に気付いたヨハンが

 「ヒヨリ様、お待たせしました!」

私に向かって走って来た。敬語が使えるようになって何よりだ。 ソフィアの教育の賜物だろう。彼女の絶対零度の視線と魔法に耐えられる者はいない。

 「じゃあ、行くか。」

 私はヨハンを連れて正面から堂々と店に入った。

 「此処はヒヨリ様のお店です!貰ってやるなんて馬鹿な事を言われても困ります!」

 インノチェンティ孤児院で3号店の店長をしているノーマは苛ついた様子でおっさんに正論を嚙ましている。

 「グランス商会のゲルフォット様が店を受け継ぐと仰っているのだぞ!下民の分際でっ良い気になるなよっ!!」

 腰巾着の恫喝に子供達の中には泣き出している子もいた。

 「私の店を貰ってやるだと?お前、死にたいのか?」

 ヨハンを連れた私の登場に子供達は安堵し、ゲルフォットとその腰巾着は一瞬たじろいだ。

 しかし、図太いのかおっさんは

 「お前みたいな子供がオーナーだと!?嘘を吐くな!」

私を上から下まで値踏みして鼻で笑った。死ね!

 「ヒヨリ様、コイツ等店から放り出しましょう。」

 目が面倒臭いと言っているヨハンに

 「ノーチェのヨハン!?」

雇った護衛達が騒ぎ出した。

 「ヨハンの事は知ってるんだね、お前達。あぁ、冒険者ギルドにはお前達が仕事しなかったと報告させて貰うよ。今からお前達はクビだ。出て行ってくれ。それとも実力行使されたいか?」

 明日から新しい護衛を雇わなくてはならない。護衛が決まるまではノーチェ誓約アイトから人員を割くしかないか…本店の護衛もあるのに余計な仕事を増やしやがって!違約金は高いからなっ!

 後ろで指をポキポキ鳴らして威嚇するヨハンの姿に怯えた彼等はそそくさと逃げ出した。

 「さて次はお前だな。人の店を無料ただで貰ってやるだと?ふざけてんのか?まぁ、金をいくら積まれても店はやらんがな。」

 この店に配備されている機材や空間支配で繋げたネット環境を手放すぐらいなら相手を潰す。

 「餓鬼の分際で!俺は王都にも店を構えているんだぞ!」

 ドヤ顔をするゲルフォットに

 「そうか、私に喧嘩を売るってことか…なら私も王都に出店しよう。お前の客を根こそぎ奪ってやるよ。ヨハン、コイツ等を店から放り出せ。多少手荒くなっても構わん。下種が舐めるなよ!」

ヨハンに指示を出す。ヨハンは私の指示に忠実にゲルフォットとその腰巾着を店から叩き出した。

 店先で文句を言っていたが飯を食いに来ていた客達から野次を飛ばされ退散していった。

 大見え切った以上は王都に出店してグランス商会を潰してやる。グランス商会の情報収集もしなくてはならない。きっと貴族の後ろ盾があるのだろう。とすれば私もちょっかいを出されないように後ろ盾を得るのが得策だろうか…面倒臭いな。

 カサンラカを領主が誰なのかを確認して大物だったら賄賂を渡して繋ぎを作ろう。ダンジョン都市を運営出来る領地なのだから金には苦労してないだろう。宝石も違う気がする。なら何が欲しい?地球産の物でも献上するか?

 思考を一旦放棄して、私は4号店の警備をすることにした。

 こうして波乱の秋月しゅうげつ支店がオープンしたのであった。




 

 

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