第26話 孤児院

 ウォーズの世界に来て1年が経過した。地球とウォーズを行ったり来たりしているが、毎日が充実している。

 「ヒヨリ様、人手が足りていません。」

 秋月あきつき家の筆頭奴隷になったライリーの言葉に

 「そうだよね。最近、人が多くて困ってたんだ。二号店を出して欲しいって声もあるし……」

私は労働環境の事を改めて考えた。そう言えば彼等の休みって無かったのでは?不味い、私はブラック運営していたようだ!

 「労働基準も見直ししないといけないしね。かと言って、奴隷を買うのも違うと思うし…どうしたものか。人を雇い入れるにしてもリスクがあり過ぎるし……」

 年中無休で低賃金でこき使っているとなれば、日本人の感覚として罪悪感が沸いた。

 「それなら孤児院に手伝って貰うのはどうですか?人助けにもなりますし。雑貨屋を開くことは出来ませんが、食事処と宿泊施設なら出来ると思いますよ?」

 私達の話を聞いていたクロエの提案に

 「ふむ、孤児院か……悪くないね。調味料も広まったし、レシピも商業ギルドに特許を申請してあるから孤児院で食事処や宿泊施設を開くのも良いかもしれない。雑貨屋は警備の問題があるから先送りになるかなぁ…」

安い労働力をゲットできることにニンマリと笑う。

 「孤児院の経営も厳しいと思いますし、料理が出来るようになれば就職に役立つと思いますよ。私達にも引き抜きの声が掛かりましたし。衣食住に高い賃金な上にヒヨリ様の食事が食べられないなら行く意味がありませんからね。」

 自信満々にライリーが食事目当てだと言った。クロエも同じように頷いている。

 何だかなぁ…

 「じゃあ、先ずは孤児院に行って交渉しないとね!」

 「護衛を連れて行った方が良いですよ。」

 クロエの言葉に

 「私より弱い護衛を連れてもなぁ。」

難色を示すと

 「いえ、ヒヨリ様の名前は知られていますけど、容姿を知っている者は少ないと思いますよ。色々と面倒なのに絡まれるのは嫌じゃありませんか?ノーチェのメンバーから誰かを連れて行くと良いと思います。」

殆ど日本に戻っているか、キッチンで料理しているかだもんね。

 「毎回絡まれるのは嫌だな。じゃあ、オリビアを呼んできてくれるか?」

 孤児院に強面の男を連れて行ったら怖がれるだろうから女性のオリビアを選んだのは私の配慮である。



 オリビアを連れて私は孤児院に出向いた。カサンラカには3つの孤児院が存在する。三つ全てを一日で回るのは厳しいので、その内の一つであるグレイス孤児院に来ている。

 「すまないが、院長先生はいるかな?」

 近くに居た子供に声を掛けると

 「お姉ちゃん誰?」

興味津々と私達を見つめてきた。

 「私はヒヨリ、こっちがオリビアだよ。孤児院の経営のことで相談があるんだ。呼んで来てくれるかな?」

 お駄賃としてキャンディーを少女の掌に乗せる。

 「包み紙を剥がして食べてみな。美味しいよ。」

 少女は包み紙を剥がしてキャンディーを口の中に放り込んだ。

 「美味しい!初めて食べた!!ありがとうお姉ちゃん!院長せんせいを呼んで来るね!!」

 彼女はそう言って駆け出して行った。少し経って少女に急かされながらやって来た老女は私達を見て

 「これは珍しいお客さんですね。場所を移動しましょう。」

にこにこと笑顔を浮かべ出迎えてくれた。その瞳には警戒の色が浮かんでいる。

 地上げ屋か何かと勘違いされたのだろうか?男は連れて来てないのに…

 案内された質素な応接室で向き合う私達。

 「単刀直入に言おう。孤児院で私の経営する食事処を手伝って欲しいんだ。勿論、給与も出す。一人当たり日当銀貨3枚の賄い付きでどうだろうか?子供達に配慮して用心棒も雇おう。正直、君達の生活はカツカツなんじゃないか?」

 応接室に通されるまでこの孤児院を見た所、建物も古く壊れているし、子供達も痩せこけていた。満足にご飯を食べさせて貰えてないのではないだろうか?

 「そ、それはありがたい申し出ですが……」

 警戒MAXな院長先生に

 「そう警戒しないで欲しい。私は秋月しゅうげつを経営している代表者のヒヨリだ。身元保証人として冒険者ギルドのタオに確認を取って貰っても構わない。客から食事処だけでもと要望が多くてな…人を雇うにしても直ぐに辞めてしまう人材では困るんだ。孤児院なら退院するまでは雇えるだろう。だから孤児院に話を持ってきたんだ。」

懇切丁寧に説明する。彼女は私の言葉に嘘が無いと判断したのか警戒を解いてくれた。

 「秋月しゅうげつの名はわたくし達にも届いていますわ。珍しい物や化粧品、服に美味しい料理と素晴らしい宿泊施設を兼ね備えているとか。流行の最先端の場所だと言われていて子供達も憧れてますのよ。」

 秋月しゅうげつの看板は伊達じゃなかった。好印象な所で話を詰めていきたい。

 「孤児院の退院する年齢は15歳でしたよね?」

 「えぇ、子供達は8歳から就職先を探して修行に出て、退院後はそこでお世話になるのが普通なのですが、今は何処も人手が足りているので…」

 ふむふむ、そんなシステムだったのか。人材が余っていると断言した院長先生に

 「では、将来は秋月しゅうげつに就職するのはどうかな?私としても継続して雇用出来る方が嬉しいし。労働は10時から夕方の5時までで、休憩1時間の実働6時間。日給はさっき提示した銀貨3枚だ。年齢は8歳からで構わないけど年齢層が高めだと嬉しい。」

提案してみた。

 「孤児院の運営としては助かります。子供達が満足に食事を与えてやれないので…」

 「寄付とかないの?」

 「領主様から寄付金を頂いて生活をしているのですが、子供が増えるので追いついてない状態ですね。」

 「そうなんだ。この話を受けてくれるなら孤児院を改装する費用を出しても良いよ。今の建物だと老朽化が酷いからね。いつ崩れてしまうか心配になる。」

 投資は大事だ。金で信頼が買えるなら買っておきたい。

 「それは本当ですか!?」

 現金な物だね。

 「嘘は吐かないよ。契約魔法を使用しても良い。この孤児院は広い敷地を持っているからね。他の孤児院にも話を通す予定だから改装の間は、改装してない孤児院で預かって貰うことになる。店舗の改装と合わせるから、その間に料理や接客・読み書き算数を学んで貰うよ。教師役も私の方で手配しよう。」

 「ありがとうございます!子供達に学ぶ機会を与えて貰えるどころか職まで斡旋して頂けるなんて!女神ユーノー様に感謝を!」

 駄女神を拝みだした院長先生を落ち着かせて、私は空間魔法アイテムボックスから契約書を取り出してお互いサインし契約を成立させた。

 子供達が稼いだお金の半分は孤児院が徴収し、残りの半分は個人資産とした。

 私はお菓子と肉、野菜を沢山渡して帰路につくのであった。

 

 

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