第13話 発酵だしの焼きしゃぶ丼
ダンジョンに潜って1週間が経過した。湧き出るモンスターを一掃しつつ、現在はダンジョン40階層まで来ている。
10階層では肉を中心にドロップされ、20階層では罠仕掛けの宝箱を片っ端から開けて行った。途中ミミックと何度か戦闘し勝利する。その際に宝箱大と小、マジックバック中がドロップされたので取り分として、私が宝箱を貰った。
30階層はゴーレムやジュエルモンスターが闊歩していた。勿論、片っ端から倒していき、ドロップした宝石や金の延べ棒にニヤニヤしたのは言うまでもない。
さてさて40階層のダンジョンボスはミノタウロスだった。ゲーム時代はBランクの魔物だ。
「ちょっと聞いてないわよっ!!ミノタウロスなんてっ!」
シャーロットの悲鳴に
「撤退だ!」
アルヴァンが撤退の指示を出す。メンバーが撤退を決める中で私は
「あ、私が退治してくるから待っててくれ。」
村正を抜いてミノタウロスに駆け寄った。
ミノタウロスがドロップする肉はゲーム時代の時、そこそこの値段で買い取って貰えたので逃がすつもりはない。
「待て!ヒヨリっ、そいつはSランクの魔物だっ!!」
アルヴァンの静止も私にはきかない。だって肉がドロップされたら金貨140枚だよ!肉祭りだよ、肉祭り!
巨体に関わらず素早い動きのミノタウロスに対し、
抜刀
ミノタウロスの斧を持つ手へ反りを打って柄当てし、さらに柄で顎を打ち、胸部へ抜刀して、そのまま敵を引き倒して、胴を斬る。
スッパリと一撃で一刀両断し、ミノタウロスは肉に変わっていった。ドロップ品はミノタウロスの肉と魔石、牛王のひづめ、ダルマ鉱石、角爪だった。思っていたのよりもしょぼいな。
「す、凄い!Sランクの魔物を倒しちまった。」
ヘンリーの感嘆に
「あぁ…」
呆然としているメンバーの皆。
「なぁ、このドロップ品は私が貰っても良いか?」
一応、臨時パーティを組んでいるから分配をしないといけないのだけど、戦ったのは私一人だし、肉は欲しいからお伺いを立ててみた。
「勿論だ。俺達は何もしてないからな。」
アルヴァンの了承も出たので、私はドロップ品を
「次のセーフエリアでご飯にしよう。」
私達は41階のセーフエリアに来ていた。41階からは死霊系モンスターが彷徨っていたので、装備していた村正から
モンスターと戦っていたのは、ほぼ私だけでパーティメンバーは私の後方で待機していた。ドロップアイテムは私の独占となったが文句は一つも出なかった。
本日のメニューは発酵だしの焼きしゃぶ丼だ。
まず牛肉を塩、胡椒で下味をつける。その合間にご飯を土鍋で炊く。ご飯が炊きあがりそうになった頃合いを見計らって、フライパンに油を熱し、牛肉をサッと炒めて取り出す。同じフライパンにつゆを入れ、半量くらいになるまで煮詰めてたれをつくる。
もう一つカセットコンロを出して鶏肉とブロッコリーの具だくさんみそ汁を作った。ご飯が炊けたら、丼にご飯を盛って牛肉と卵黄をのせる。ベビーリーフをちらし、たれをかけ、胡椒を振って完成だ。
「ご飯が出来たよ!」
コップにお茶を注いで皆に渡す。
「今日は私の故郷の米を使った料理だ。発酵だしの焼きしゃぶ丼と鶏肉とブロッコリーの具だくさんみそ汁だよ。」
箸は慣れてないだろうからフォークとスプーンを渡す。
「え?生の卵なんて食べて大丈夫なのか?」
生の卵黄に拒絶するメンバーの皆を代表してアルヴァンが聞いてきた。
「私が持ってる卵は新鮮な上に殺菌しているから生でも食べられるんだ。お腹壊したりしないから大丈夫だよ。」
そう言っても彼等はご飯を口に運ぼうとしない。
私はアルヴァンのスプーンを奪って卵黄を潰し、肉とご飯を絡めてアルヴァンの口の中に突っ込んだ。
目を白黒させ驚いたアルヴァンだが、ご飯を味わって美味いと思ったのかスプーンで発酵だしの焼きしゃぶ丼をかき込んだ。
「う、美味いぞ!この卵黄のトロっとした味と肉が絡み合って濃厚な味わいになっている。」
アルヴァンの食べっぷりを見て他のメンバーもご飯を口にする。
「美味しい…珍しい食べ物ですね。卵をこうして食べるなんて発想は初めてです。」
うっとりとした
「いただきまーす。あぁ、超美味い!幸せ!」
「このタレがたまらん。」
「みそ汁といったか?鶏肉が味が染みてて凄く美味い。」
「米というのは、ほのかに甘くて美味しいな。肉と一緒に食べると食欲が増す。」
各々美味い、美味いと食べてくれるので作り甲斐がある。
「「「「「「おかわり!!」」」」」」
生卵への抵抗はどこへやらおかわりを催促してくる始末。本日も残り物はなく、空っぽに食べ尽くされた。欠食児のお母さんになった気分だ。
後片付けをし、野営の準備をする。テントの張り方は教えなくても出来るようになって何よりである。
食事の力は偉大なのか、地上に引き返そうという言葉は最近は聞かなくなった。ダンジョン30階層以降はモンスターが以前より強くなってたらしくメンバーでは倒せないと言われたのだ。しかしこうして攻略を続けることが出来たのは、私の戦闘能力と美味しいご飯にドロップ品のおこぼれがあるからだった。不要なドロップ品を
私は顔を洗って寝る準備を始めた。洗面器に水を入れて石鹸を泡立てネットで泡立てる。もっさりと出来た泡で顔を洗い、水で流していく。タオルで顔を拭き終わったら化粧水・乳液・美容液・保湿クリームを塗る。そんな私の作業を見ていたシャーロットが尋ねてきた。
「ねぇ、ヒヨリ、いつもしてるけどそれ何?」
基礎化粧品を不思議そうに眺めている彼女に
「これは基礎化粧品だよ。肌を整えてくれる代物だよ。使ってみる?」
実践は大事だよね、水を張り替え使い方を教えることにした。
「わぁっ!この石鹸良い匂いだね。泡も凄くもちもちしてる♡」
石鹸を泡立てた彼女に
「ごしごし擦らないようにね。ゆっくりと円を描くように優しく洗うんだよ。」
恐る恐る顔を洗った彼女は
「おぉ!肌が突っ張らないよ!凄い!凄い!」
大層喜んだ。
「先ずは化粧水を手のひらであたためるように広げる。両手で顔全体を包み込むように化粧水をなじませてね。次に、頬から優しく持ち上げるようになじませていくよ。 特に皮膚の薄い目元は、指の腹を使い上向きに軽くパッティングすると良いよ。次に乳液を使うんだけど、金貨一枚分ぐらいの大きさを目安にしてね。顔全体に薄く塗るんだ。その次は美容液だね。顔全体に美容液を馴染ませたら、特に気になる部分に重ね付けをするのがおすすめだよ。最後に保湿クリームを塗ってお終い。」
私が説明した手順通りに肌の手入れをした彼女は
「肌がしっとりしている。凄く良い匂い!」
うっとりとした
「これってどこで売ってるの!?」
ぐいぐいと迫って来た。こ、怖い。後ろにいるオリビアもそわそわとしている。
「手作り品です。」
はい、大嘘です。調合のスキル取得しないといけないな。
「そうなの?余ってるのあれば買いたい!」
「あの、私も買いたいですわ。」
シャーロットとオリビアが食い付いた!この世界って基礎化粧品が無いんだね。
「良いけど、石鹸が銀貨3枚、化粧水が金貨3枚、乳液が金貨5枚と銀貨2枚、美容液が金貨10枚、保湿クリームが金貨4枚になるよ。毎日使ったら10歳は肌が若返る。」
私が使っている化粧品とは違う100均で揃えた物を用意する。いつか売ろうと思っていた物だ。以前、解析鑑定したら効果がアップしていたので、売りに出そうと考えたのだ。
「石鹸が安い!私達が使っている石鹸は臭くて汚れが落ちないのよ。それでも石鹸は高価だから銀貨5枚はするのよ!それがこれだけ泡だって汚れが落ちて良い匂いの石鹸が銀貨3枚なんて素敵♡他のだって想像していた金額よりも安いじゃない!是非、譲って欲しいわ。」
「私もお願いします!」
二人に気圧されてたじたじになる私。
「分かったよ。ちょっと待ってて。」
「化粧ポーチはおまけであげるよ。その中に石鹸と基礎化粧品セットを入れてね。効果は一ヶ月だからそれまでに使い切るように!それ以降の効果は保証しないよ。」
柄の違う二つの化粧ポーチを二人は相談して選んで行く。私に石鹸と基礎化粧品の代金を支払って、化粧ポーチの中に収めて行った。
「本当にありがとう!売りに出したら是非教えてね!」
「そうですわ。絶対に買いますから!是非とも売りに出して下さい!」
美の追求に掛ける情熱が凄いなと思いつつ小銭が舞い込んだことで私の頬はユルユルになった。
ダンジョン攻略後に新たな石鹸と基礎化粧品の噂が世界を駆け抜ける事となるのは、今はまだ知る由もなかった。
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