第7話 昇級試験

 今日は昇級試験だ。装備を確認し、冒険者ギルドに赴く。

 「おはようございます、ヒヨリさん。Cランク昇級試験頑張って下さいね。」

 受付嬢の応援に私は笑みを零し

 「ありがとう。精一杯頑張るさ。」

礼を述べた。

 「試験場はこっちです。」

 試験場までは受付嬢と他愛もない話をして時間を潰す。

 Cランクになればダンジョンへ潜ることも出来るし、お金稼ぎには丁度良い。今所持している金額だけでも当分は働かなくても生活出来るが、魔族の寿命は永遠に近いそうだし貯めれるだけ貯めておきたい。

 「試験頑張って下さいね!」

 応援してくれる彼女に

 「合格してみせるよ。」

ウインクをパチンとして会場に足を踏み入れた。

 「お前さんが期待の新人ルーキーか、小さいな。」

 30歳前半ぐらいの男のステータスを確認するとレベルは51、称号:剣豪、スキル手加減とあった。

 この世界の一般人の平均レベルは5~7、兵士は15~20、上級将校は30、勇者や聖女になるとレベル70前後だそうな。そう考えるとレベル31は冒険者でいえばBランクに属するだろう。

 「容姿に惑わされて実力が出せませんでしたって言い訳しないようにね。」

 こちらの世界での私の容姿は未成年の子供のようだからね。本当に不本意だけど。

 「はっはっは、威勢が良いな。お前の試験を担当するパーカーってもんだ。お前の武器は何だ?」

 「私はヒヨリ、宜しく。武器は刀だよ。」

 「そうなのか?う~ん、刀型の木刀は用意してないんだよな。」

 「別に普通の木刀でも構わないよ。真剣で勝負するのかと思った。」

 実践形式を取ると言ってたから真剣だと思ってたのだけど。そんな私の考えを察したパーカーが

 「昔は真剣だったんだが、誤って殺しちまう事例が何件かあったんだ。それからは木刀って決まったのさ。」

丁寧に説明してくれた。

 「木刀を選ばせて貰っても良いかい?」

 並んだ片手剣型の木刀の大きさや長さを確認し、一つ一つ振ってみる。重さの確認のためだ。

 いくつか試して手にしっくりきた木刀を選んだ。

 「これにするよ。ルールの説明宜しく。」

 「ルールは簡単だ。魔法の使用も構わない。制限時間は相手が倒れるか降参するまでだ。」

 思ったよりも簡単なルールに余裕でクリア出来るなと思った。しかし魔法の使用か…私は属性魔法のスキルを取得していなかった。取得しているのは生活魔法ぐらいである。妖術師はどの闇と光以外の属性魔法を習得出来る職業だったはず。私が魔法を取得しても攻撃に出来るほどの威力を持たないので意味はないのだ。だが、今後はダンジョンに潜ることになれば水は必須になってくる。飲み水の確保の為にスキルで水属性の魔法を習得した方が良いかもしれない。

 「どうした?やっぱり荷が重いか?」

 考えに耽っていた私を怖気付いたと思ったパーカーの言葉に

 「いや、手加減できないから万が一あんたを殺したら私は罰せられるのかと思って心配していただけだ。」

さらっと恰好良い言い訳をした。私の自信満々な言葉にパーカーは表情かおを引きつらせて

 「おいおい、随分な自身だな。俺はこれでも魔法剣士なんだぜ。そう簡単に倒せると思うなよ。」

怒らせてしまったようだ。魔法剣士とはとれもレアな職種だ。メイキングの際に2%の確率で出現する職種なのだ。聖女や勇者、魔王という職種は幻の上級職と言われ選択画面が出現するのは0.003%と確率はかなり低い上に成長が遅い大器晩成型なのだ。因みに転職はレベルが50にならないとできない。

 「じゃあ、手合わせをしようか。」

 木刀を構えるとパーカーの表情かおが引き締まった。

 「受けてみるが良い!アーリアの早剣!」

 風魔法を帯びた剣戟を全て受け流す。攻撃は早いが使いこなせてないなと思った。私は俊歩しゅんぽで彼の背後に移動し手刀を首筋に叩き込む。

 やっぱり武器は刀が一番だ。剣は使い難い。

 「さて、試験管は気絶したしどうしようかな。」

 私は気絶したパーカーを起こすことにした。

 「おーい、起きてくれないか?」

 ゆさゆさと体を揺らすも起きてくれないので、私は受付に戻ることにした。

 受付で疑問をぶつけたら

 「試験管を気絶させてしまったんだが、試験は合格になるのだろうか?」

 「えぇ!?パーカーさん気絶したんですか?」

物凄く驚かれた。

 「うん、起こそうとしたんだけど起きなくてね。合格かどうかも分からないからどうしたら良いかと思って。」

 「そうだったんですね。ここで少し待ってて下さい。」

 私を待たせて受付嬢は忙しそうに他に連絡を取る。慌ただしい様子を見せる彼等を他所に私は今後の事を考えた。

 Cランクに上がったら王都のダンジョンかダンジョン都市カサンラカに行きたいと思う。とはいっても私は冒険がしたいわけじゃない。お金の心配がなければ自堕落に過ごしたいと思っている。私は怠惰な人間だからな。

 「お待たせしました。Cランク昇格おめでとうございます。Fランクのギルドカードとの交換となります。」

 渡されたCランクのギルドカードとFランクのギルドカードを交換した。

 「ヒヨリ様、ギルドマスターがお呼びです。お時間宜しいですか?」

 後ろから秘書っぽい女性に声を掛けられた。

 「予定が無いから構わないよ。」

 「こちらです。」

 女性の後に付いていくとギルドマスターの執務室に迎えられた。

 「ギルドマスター、ヒヨリ様をお連れしました。」

 「ありがとな。下がっていいぞ。」

 女性を執務室から追い出したギルマスは私の顔を見て

 「ヒヨリ嬢、Cランク昇格おめでとう。カサンドラでは昇級させられるのが最高でCなんだ。」

祝いの言葉を送る。含んだ言い回しに不信感が表情かおに出てたのか

 「ヒヨリ嬢のランクはレベルに合ってないんだよ。レベル99は勇者の域だ。それがCランク止まりというのも問題がある。紹介状を書くから王都で昇級試験を受けてきて欲しい。」

昇級試験を受けるように言われた。

 「ダンジョンに入る資格があるランクで十分だと思うが?それにランク昇格には貢献度も必要じゃなかったか?」

 そう冒険者ギルドのランク昇級は実力だけでなく、冒険者ギルドへの貢献度が必要なのだ。私は現在は低レベルな魔物討伐しかしてないからギルドへの貢献度がほぼない状態だ。

 そんな私の問いかけに

 「そこで提案だ。王都に行く前にダンジョン都市カサンラカのダンジョンを攻略して欲しい。勿論、必要に応じてパーティを紹介することが出来る。お前さんのランクはCだが、実力はSに匹敵する。Aランクのパーティを紹介しても良いと思ってる。」

ダンジョン攻略を提案された。

 「私はパーティを組むのは好きじゃない。」

 正直相手に合わせて行動することが苦手なのだ。パーティを紹介されても困るというのが正直な話。

 「単独走破は難しいと思うぞ?それにこれは冒険者ギルドからの依頼になる。受注してくれたら報酬も弾もう。ダンジョン走破でお前さん個人に金貨1000枚が別途支給される。勿論、報奨金とは別だ。」

 決定事項な言い方に憮然とするも

 「何故特別に手当てが出るんだ?」

美味しい金額に心動かされる。

 「実はダンジョン内でスタンビートが起こっている可能性が高いんだ。そのせいでダンジョンに挑む冒険者が減ってしまって困っている。原因調査が目的だな。走破は出来たら良いなって希望的観測だ。S ランクの冒険者はこの国にいなくてな、集められるのはAランクの冒険者がせいぜいだ。お前さんはレベルが高いし、この任務に打って付けだと思ったんだよ。この任務を達成することでギルドへの貢献度を得ることが出来る。」

 「話を纏めると冒険者ギルドの依頼はダンジョン内の調査で、踏破出来るならして欲しいってことで良いのか?」

 「その認識で構わない。」

 「断る事はできるか?」

 得られるお金は魅力的だが面倒そうだしな。

 「出来るが仕事を回されなくなるぞ。」

 日干しにすると言われたので私は諦めて依頼を受けることにした。

 「Aランクの冒険者は私の方で選びたい。相性もあるし、信頼出来ない相手と一時的にでもパーティは組みたくない。」

 これは絶対だと!念押しすれば

 「分かった。Aランクのパーティは三組待機して貰っている。その中から選んで欲しい。」

妥協案を出してくれたので乗っかることにした。

 「カサンラカまでの地図と紹介状を渡そう。」

 ギルマスは紹介状と地図を私に渡した。

 受け取った紹介状と地図を空間魔法アイテムボックスに仕舞い、冒険者ギルドを後にするのだった。

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