第2話 ダンジョンとスキルとレベルアップのある日常
十数年も前の話になってしまうが、世界にダンジョンと呼ばれる不思議空間が現れた。
そう。
ゲームとかに登場するアレだ。
当時存在していた全ての核兵器と放射性廃棄物の消滅と同時に現れた、いわゆる不思議な死亡遊戯空間。
出現当時はそれはもう世論を真っ二つにするどころではなく、科学者や宗教家に交えてアニメ監督やラノベ作家まで国会に招喚されてあーでもないこーでもないと話し合ったという。後年色々と情報がぶちまけられたが神々の思惑を人類ごときが推測するなど無理がある。
曰く。
・人類にレベル制が導入された。
・ダンジョンのモンスターを倒したり試練を突破すると経験値が与えられ、レベルが上がる。
・スタート時は年齢に関係なく0レベルから。
・0レベルだと交配しても妊娠出産できない。
・レベルが上がると心身に様々な恩恵が与えられる。
・金銭でレベルは売買できないがパワーレベリングはある程度見逃される。
というものだ。身体能力を数値化するなどぞっとしない話だが、あることが判明すると日本人は国民の半数以上がダンジョン探索に挑むようになった。
なぜなら。
・レベル5まで成長すると高確率で花粉症を克服できるスキルが得られる。
ということが判明したからだ。
日本国民は狂喜した。
他国がドン引きするほど、狂的な情熱をもってダンジョンに潜り始めたのだ。折しも国民的健康詐欺バラエティ番組でレベルが上がると代謝が向上して内臓脂肪を燃焼するとか、三大成人病の予防にはレベルアップが効果的――などという標本数百未満の測定結果に踊らされた中高年女性が拍車をかけたというのもある。
カマクラかサツマの再来かと当時の海外冒険者達が評し、国内経済が一時的にマヒするほどの狂奔の結果。早い者なら数日、遅くとも一か月程度でレベル5を達成した日本国民は、花粉症を克服したものが次々に現れた。
花粉症克服の前には能力の数値化など些細な問題であった。
そもそもレベル0でも社会は廻っていたのだ。職種や学校によっては特定スキル取得や最低限のレベルが求められるようになったが、1レベルあれば大抵は何とかなったのだ……入社当時は。
「では明日からダンジョン内の施設に宿泊して六泊七日コースで。国民番号カードを確認させていただきますね、ええと」
「
「よろしくお願いしますね、アノーさん」
病院からの紹介状を受け取った冒険者組合の受付嬢が、気の毒そうに箱ティッシュを渡してくれる。マスクで顔面を隠しているけれど瞼は腫れているし、呼吸も荒い。
「ダンジョン内は花粉は存在しないので、施設に入ったら直ぐに生活魔法の【洗浄】を受けてくださいね」
花粉症コースの人はこれで一発で楽になるんですよと、受付嬢が痛ましそうに微笑んでくれる。自分が大学生だったら一発で勘違いしてしまいそうな営業スマイルだ。
冒険者組合、侮りがたし。
▽▽▽
安納賢司
レベル:1
クラス:未開放
スキル:来世チケット(特典なし)
高校二年の冬に一度だけダンジョンに潜った。
今思えば大したことのない失恋と、それに伴うちょっとしたトラブルに巻き込まれた結果、半ば自棄になってダンジョンに潜ったのだ。武器もまともに持たず、傍から見れば自殺同然だ。
気付けば潜ったダンジョンは崩壊し、放り出された自分は奇妙なスキルを授かった。
来世チケット。
冒険者組合曰く、自分以外に取得者はいないそうだ。
試そうにもスキルは発動せず、それどころか間接的な自殺を幇助する事は許容できないと説得されてしまった。
十数年経ったが、スキルはまだ発動の気配もない。
まだ死ぬべき時ではないと諭されている気分だ。
生活魔法で洗浄された身体は花粉症の症状がすっかり治まっている。
ダンジョンの入り口に設けられた宿泊施設は空気清浄機が稼働しているのもあるが、花粉や刺激物質の不快な気配もなく快適に過ごせている。レベル5までに耐性スキルを獲得できれば問題ないが、それが無理ならダンジョンに籠って余生を過ごすのも悪くない――そう考えてしまう程、この宿舎は快適だ。
勤め先はダンジョン製薬の下請け工場だが、調達部に異動申請するのも悪くないかもしれない。
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