第六話 眠る街
奏太はゆったりと景色を眺める。
急遽とはいえ与えられた休憩時間だ、とりあえず身体を休めておくことにした。隣にいるトニエさんもそれ以上言葉は発さない、なんだかんだ助けられたと思う。そういえば…
「アルマリさんは大丈夫なんでしょうか。」
「ん?、絶対大丈夫だよ。今日もこうしてサボってもいいくらいには、アルちゃんのこと信頼してるしね。連絡も今の所は入ってこないし。」
そういってのんきに鼻歌を奏で始める。実際アルマリさんはかなりの信用と実績を持っている。そんな彼女からの連絡もないのに、奏太が行ってもどうすることも出来ない。
こんな風に疲れが溜まっている事にも気づかない、つまり自己管理が出来ていなかった。
そんな奏太が、勝手な行動を起こすのは得策とは言えない。
「最初の内はお姉さんたちに頼ってくれていいんだから。
後から楽させてよねー。」
立ち上がったトニエは奏太の顔を覗き込んでくる。
あまりに大人すぎる発言と、目の前に広がる少女の見た目という凄まじいギャップに頭がぐちゃぐちゃになる。見た目だけで疑ってしまった自分の不甲斐なさに落ち込んでしまいそうだ。急に、体が強い風に覆われた気がした。そろそろ、休憩も終わりと告げているのかもしれない。気を引き締めて起き上がる。
が、次の瞬間その原因が明らかになって絶句してしまった。
「え、あれ。」
康太の言葉に反応して後ろを振り向いたトニエさんも仕事の顔になる。
何個も連なる建物よりも高いその竜巻は恐怖を呼び起こす。
「康太君、今日って晴れだよね。」
二人とも、何が起こったのか確かに理解している。
しかし、一応確認する。同時に覚悟もこの一瞬で決めなければいけない。
今日はゆっくり昼寝を出来るくらいには、晴れた良い天気だった。
「はい、晴れてました…おそらくあいつだと思います。」
正直、ここまで早く行動を再開するとは思っていなかった。今まで隠れていた理由をぶち壊す、そんな派手すぎる登場。正直奏太からすれば、最悪のサプライズだ。トニエさんは向かうようだった、奏太の方に明らかに今までと違う表情で声をかける。
「ごめんね、お姉さんちょっと行ってくる。
奏太くんも出来る子だって分かったから、あなたに任せるよ。
危険なことだけはしないようにね。」
連絡を待っていたはずなのにいつの間にか行動を開始している。俺よりもずっと護衛団にいた、それこそプロである人物ですら感じる緊急性。康太自身も、考えるより前に走り出していた。
クソッ
一体自分に何ができる、とにかく脳をフル回転させる。
とりあえず周辺の状況を確認して、誰か残っている人がいたら避難を済ませて…。
そう考えていた時に、ふと思いつく。あの老人はどうなっただろうか。
周りが眠くなってしまうガスを体から発していた老人のことである。
あれ以来、何度か奏太も足を運び多少の会話をしていたため顔を覚えられているはずだ。
住んでいた場所もかなり入り組んでいて、護衛団の救助が回っておらず本人も何が起きているのか理解できていないかもしれない。
とりあえず、奏太がやらなくちゃいけないことは理解した。
見渡せば、たくさんの人が逃げ回っている。
前回の一件はかなりの被害をもたらしたのもあり、パニック状態だ。
奏太はそれに逆らっていくしかない、流されながらもなんとか目的地を目指す
進み続けるといつの間にか、人の影は全く無くなっていた。
老人の家に到着するが、全く気配を感じられない。
もう非難が済んでいるのならいいのだが、何か嫌な予感がして急いで扉を叩いた。
「一体何の用事だ。」
奥から、大きな声が帰ってきた。動くのが辛くて何とか声だけは出したのだろう。
良かった、どうやら自分の不安は外れたようだ。
「奏太です、今街で大きい騒動が起きてまして。もしかしたらこっちまで被害が出るかもしれません。とりあえず、急いで逃げましょう。」
「…そうか、分かった。
とりあえず中まで入ってきて肩を貸してくれ。」
部屋に入ると、普通にその場に座っている老人。逃げようとした様子は全くなく、やはり状況が伝わっていなかったのだろう。自分の判断はどうやら間違っていなかった、康太は安堵する。
「行きましょうか。」
そうして肩を貸す。外の人は避難が済んでおり、老人の能力でパニックになることはない。
とにかく全力に逃げることを意識しよう。
ふと、一瞬意識が途絶える。
奏太は老人の能力に多少耐性が付いていたと思っていたが、体調に左右されたりもするのだろうか。とにかく意識を保ちながら老人を立たせようとする。
が、老人は一切その場を動かない。
大丈夫だろうか、もしかして体調が悪いのは老人の方なのかもしれない。体調が原因で能力の制御ができず、強烈な眠気に襲われるのかもしれない。
「大丈夫ですか、待ちますよ。」
優しい言葉をかけると、老人は影のかかった顔で微笑む。
「いや、もう十分だ。」
眠気は更に強烈になる、まるで老人が自ら力を使っているかのように。睡眠のガスは色が付き始め、ようやくその危険性を示す。そうか、奏太もようやく気付いたがもう遅い。
奏太はその場に倒れる、老人は雑に肩にかかった手を突き放す。
部屋の更に億から、人影が現れた。
「お前の割には時間がかかっていたようだが、一体どうした?」
「ふん、どうやらさっきまで寝ていたようだ。そのせいで能力の効果が出るのが遅れた。
国から仕事を貰っているというのに、のんきなガキだな。」
抱えられて、その場から連れ去られる奏太。
能力を持たず戦闘能力もないがこれでも立派な護衛団の一員、悪用方法など考えればいくらでもある。老人はまるで何もなかったかのように仲間を見送った後、扉を閉める。
「さあ、これからは我々のターンだ。
あの方からの啓示に従っていればなんら問題ない。」
そうして、街に突如として湧いて出たもう一つの悪意は奏太を連れてどこかに姿を消していく。暗くなり始めたその街は、影をかき消すことにはうってつけだった。
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