第七話 御伽噺
吹き荒れる暴風、正しくそのど真ん中。
そんな災害級の状況に向かう人たちの姿はまさしく異様と言えるだろう。
その台風の真上、そこには最近の騒動に関する発端となった男がいた。
「久しぶりですね、投降しに来たのですか。」
護衛団を引き連れ、先頭に立つアルマリ。今回に関しては準備量が違う、救助も迅速に終わらせ精鋭たちも揃えた。ただ、隠れていた男が急に出現したことに関してはかなり不穏と言える。前、対面した時は焦る様子を見せていたが今度はずっと不敵に笑っていた。
「投降?笑わせんじゃねえよ。今度こそ全部奪いに来たんだよお!」
男は風を打ち込む、その威力はまさしく絶大。
アルマリが手を挙げ指示すると、その風に向けてたくさんの力が飛んでいき相殺し合う。
炎や氷、雷に土。そのどれもが正確に攻撃をいなし、男の精神を削っていく。
いわゆる膠着状態、男の攻撃を護衛団たちが相殺する状況が続く。
その緊張感の中でも男は一切視線を外さない、相手もかなりの強靭さと集中力を誇る。
しかし、それが仇となった。
「不意打ちはあなたたちの特権ではありませんよ。」
そうボソッと告げるアルマリ、男には聞こえていない。それでもその意味をすぐ知ることとなる。この攻防の中、周りから槍が向かっていることには誰も気づけない。
時間がかかればかかる程、綺麗に囲まれた槍の包囲網が完成していく。
男はようやく、周りを見た時に気付いてしまう。
自分が戦いの中で確実に追い詰められていたことを。
「こざかしいアマが!!」
向かってくる槍は、男の姿を完全に隠し終わりを告げる。
その叫び声すら通しはしない。いつの間にか、決着はついていた。
「ふう、とりあえずは終わりですが他にもこの状況に乗っかって暴れている人がいるかもしれません。警戒を怠らないように。」
そうして、護衛団もそれぞれの業務のため散っていく。
その代わり、トニエが数人の人たちを縄で引きずりながらやってくる。
「とりあえずは終わったみたいだね。」
「なんとか、ですが。」
すべてが終わったわけではないが、それでも一つ大きなタスクをこなした彼女は大きく息を吐いた。
数時間後ー
「リーゼン・ドルフリー。
28歳、少し前まで運送の仕事をしていたそうですがトラブルがあり辞めたそうです。
そこからは、消息が途絶えていたという話でした。」
ドン! と強い衝撃が走り、全員が目を見張る。
仕事上、そういった音に慣れていた護衛団の人たちが驚いたのはその音を出したのが普段冷静なアルマリだったからに他ならない。
「あなたは一体、何をしようとしているんですか?」
落ち着いた低い声、しかし多少の付き合いがあればそれが正気を保っていないことが分かる。あまりの気迫に全員が止めるかどうか周りを見渡す。
しかし、誰もが止める決断を下すことができない。
対する男、リーゼンはそんな彼女を真正面で見ながらも余裕そうに髪をいじる。簡単に捕まりはしたが、まるでこちら側が何かを間違えてしまったのかと錯覚させられた。
「何をしようとしてる?そりゃあ、暴れたかったんだよ。
俺たちの人生を破壊したお前らに逆襲がしたくてな。」
「今聞いているのはそういう話ではありません。」
「そうやって能力が発覚した瞬間、まるで犯罪者の様に俺たちから全てを奪うもんな。
そうやって自分たちばっかり能力使って英雄気取りか?」
あまりにもバチバチ、お互いの顔はどんどん険しくなっていく。
それに拍車をかけるようにリーゼンは話を続ける。
「おいおい、これも聞きたい話と違ったか?
…ああ、もしかしてお前がペットみたいに可愛がっていたあいつのことだろ。」
机が強く蹴り上げられ、大きく揺れる。
そんな、命の危機みたいな状況でもむしろ楽しそうにする男。
「あなたはやはり、知っているんですね。奏太をどこにやったか今すぐ話しなさい。」
「ありゃあ俺たちにとっては切り札の一つさ、そう簡単に手放すわけにはいかない。
他にも、何人か回収してる。お前らは俺たちに逆らう気も失せちまうだろうな。
後は宝くじが当たるのを、ただただ寝て待ってりゃあ良いんだからよ。
そりゃあ愉快でしょうがねえだろう、なあ!」
今までやられた分を返すように何度も何度も揺さぶる。
そして聡明だったはずの彼女は、思惑通りにどんどん余裕を失ってしまっていた。
護衛団の一人、奏太の失踪。それは、護衛団の最強の一角を揺るがすには十分な材料となり得る。
「なあ、こんな時に悪い。
いや、こんな時だからこそ交渉を持ち掛けてもいいか?」
その場に静寂が流れる、誰も答える気はない。
リーゼンはそれを了承と読み取ったようだ。
「まあ、渋ることもないから言っちゃうけどよ。
王に会わせろ、ってか殺させろ。」
あまりに意外な提案に、全員が息を飲んだ。
力をただひたすらに使って暴れていたテロリストだと思われていた男はこの国ごと手にかけようとしていたのだ。
「それは何故?」
何かのヒントに繋がるかもしれないと、かすれそうな声でアルアリが問う。
男は続ける。
「俺たち能力者が上にたてる世界を作り出す、力を持つ奴が上にたつのは当然の権利だろうが。どうして俺たちだけが、こんな苦しめられなくちゃいけない。」
「あなたが、仕事を辞めさせられて数年が経っています。
苦しい気持ちを味わったのは理解しているつもりですがそれにしては動くのが遅い。
裏に誰がいるんですか?」
呆れたような表情を向けるリーゼン、だがこれ以上の話は無駄だと思ったのだろう。
反論もせず、話を進める。
「俺たちの裏にいるのはお前らも知っている存在だ。
ある日聞こえた声は、俺たちの人生を大きく変えた。」
そして一言、黒幕の名前を告げる。…災厄、ディジャバーン。
それは、この世界に住んでいれば誰もが知っている存在。
昔読んでもらった絵本に書いてあった、正しく物語の怪物。
聞いていた護衛団のメンバーはおかしくなったのかと首を傾げたり、適当なことを言っていると呆れたり、そんな多種多様なリアクションを見せる。そんな中で、ただひたすらに不気味に笑うリーゼン。この日、彼はこれ以上の言葉を発することはなかった。
アルマリがアジトから出たのは夜が深まったころ。暗くなった街並みを、ただただ歩く。
今日はこの時間でも人が多い、理由は明確だ。彼女が、目的のために招集したからだ。
色々な用事を終えた人々は帰ろうとぞろぞろ門に向かっていく。
ただ、そんな中すれ違った見慣れない冒険者たち。
何故だろうか、そんな彼らが何かを変えてくれそうな気がしてつい祈ってしまった。
「奏太を、助けて。」
そんな声は果たして、届いてくれただろうか。
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