第3話 でんせつ の はじまり


いつもの楽屋にて。


トゥインキー・トゥインクルスのライブが終わり、彼女たちが戻ってきた。

「あれぇ? 先輩たちまだ引退してなかったんですかー?」

「クク無駄な足掻きー」

「才能のない人の努力って見苦しいものですよ?」

「頼むから、私たちの足だけは引っ張らないでくださいよ!」


「……さっさとど・け! 邪・魔なんですけど! あはは」



左京が、

「ちょっと! 何か言い返さないんですか、夢叶?」

私は我関せずという態度で、ボソリと

「ほっとけ」


トゥインキーのリーダー、ミルクミントは、ゾッとするような笑顔で

「後でライブ見に行ってあげますよ! どれくらい客が入ってないか、ビデオにとってあげますよ。産業廃棄物さんたちー!」

アイドルの裏の顔なんてこんなのばっかりだ。



――そして、私たちのライブが始まった。

「みーんなー! 今日は、きーてくれて〜あーりがとーう!」

パラパラとまばらな拍手が起きる代わりに、会場には定員をはるかにオーバーした興奮した観客の歓声が響いた。

「エイリアンを見せろおおおおっ!」

「本当にくるの?」

「嘘だったらタダじゃおかないぞ!」


そのほとんどは、ギギを見にきている。

事前に無理を言って打った告知のおかげだ。

エイリアンが現れなかったら全額返金。

世にも珍しいエイリアン保証宣言。


怖いもの見たさの客、再生数稼ぎのYoutuber、インフルエンサー、私たちの失敗を笑いにきた客が大半。

だが、かまわない。こいつらが拡散させてくれれば、それでいい。

お前らを利用するのは、この私だ。

「安心してください。もう来てますよ!」


そして、ステージの上の梁から、黒くしなる鋭い尻尾が垂れてきた。

黒曜石のような光沢。

顔が映るほどの反射したブレード。

尻尾の先端は怪しくフリフリと揺れる。


ざわめく会場。

「おい! なんだあれ?」

「天井に何かいるぞ!」

「上だ! あそこにいる!」

高く掲げられたREC状態のカメラ。

――絶対に失敗はできない! これが正真正銘最後のチャンスだ! 降ってきた不運を避けることはできない。

だが打ちのめされて項垂れるか、それを利用して上に進むかは、私が選ぶことだ!



『ピンチはピンチだと思うんです。

でもこれはチャンスなんだと信じて思い込む。

その思いが強ければ思った通りになるんです。指原莉乃』



そして……

「ギギちゃん! 出ておいでっ!」


――今日のライブはいつもと違った。ステージ上に、一匹のエイリアンが躍り出たのだ。




ざわつく観客。

食い入るように見つめる目。

怯える人々。

「おい……作り物にしてはリアルすぎないか?」

「きっと中に人が入っているのよ……」


「はい。じゃあギギちゃん! お客さんに挨拶して!」

そしてギギは二足で直立して、お辞儀した。

{みなさん、こんにちは、今日ここ来る、ありがと、ござます}

客の脳内には、テレパシーで拙い日本語が流れた。


会場は割れるような歓声に包まれた。

燃え上がるような熱気が、大気を呑む。

初めてステージに立った時のような高揚感が私を抱いた。



その少し後、

――トゥインキー・トゥインクルスのリーダーがライブ会場に入ってきた。

そして、

「嘘でしょ……一体何が起きているの……?」

ステージには、三人のアイドルと一匹のエイリアン。

三人と一匹は音楽のリズムに合わせて、歌い、踊っている。

会場は割れんばかりの歓声に包まれていた。


「はい! 1……2……ここでターン!」

私の合図に合わせて、ギギはぎこちないダンスを踊る。

その度に、客が歓声を上げる。

エイリアンへの恐怖はいつの間にか消え、まるでお猿のショーでもみているかのように、暖かく見守っている。

「いいぞおおお! もっとやれえええ!」

「ギギちゃん! こっち向いてええええっ!」


――私の命運を賭けたギャンブルは、大成功に終わった。


楽屋に帰ると、トゥインキー・トゥインクルスが、

「ちょっと! 先輩! あれはなんなのよ!」

「あんなのずるい! 卑怯よ!」


そこにマネージャーが入ってきた。

「ちょっと退いてや!」

「キャッ!」

トゥインキー・トゥインクルスを乱暴に退かすと、私の元へ来た。


「どうやったんやあああっ! 夢叶! お客さん大盛況やったで! 詳しい話聞きたいから来てや! 右京も左京も! ほれ! 早う!」


「マネージャー! トゥインクルスの今度のライブの話があるって――」

「ああ! それはまた今度や! すまんな!」


私たちは、マネージャーに連れられて、社長室に向かう。

私はすれ違いざまに、トゥインキーのリーダーに、

「……そこ、どいてもらえる?」




私は、事務所の社長とマネージャーに、迷子のエイリアンを保護している旨を説明した。

そして、実際に会ってもらい危険がないことを示すと、すぐに次のライブが決まった。


¬¬――よし! 狙い通りだっ!

そこから私とギギの快進撃が始まった。


エイリアンのライブ映像は一瞬で拡散され、Twitterのトレンドを連日キープ。


私はマネージャーに、

「いや、まだライブ映像は公式からは配信しないでください!」

「な、なんでや? もっと宣伝した方がええやろ?」


「これだけ勢いがあるなら、しなくていいと思います。市場に出回るのが、質の悪いビデオしかなかったら、どうなると思いますか?」

「そら、実際に見たいわな……」


「現代では金を払って、企業に広告を打つよりもニュースになった方がいい!」


実業家兼お笑い芸人の西野亮廣は、何度もニュースに載っている。

・個人が渋谷の広告をジャック

・無料で本の内容をネットに上げる。


その度に、大きく取り上げられて、拡散されていく。


ネット動画やTwitterに引っ付いている広告など誰が見る?

そんなザ・広告などよりも、現代ではもっといいものがたくさんある。

個人が勝手にアップする動画や投稿だ。それらは放っておけばニュースになる。


宣伝の量より質だ。

企業や金が間に入ってない生の情報。

それを現代の社会で利用できるか、そこに全てがかかっている。




ライブチケットは、発売五分で完売となった。

「みーんなー! 今日はー、きーてくれてーあーりがとー!」

会場はちぎれるような歓声に埋め尽くされた。

「ギギちゃん! こっち向いてええええ!」

「本当にエイリアンだ!」


客の大半は、新規。エイリアン見たさに集まってくれたのだろう。


「一曲目は私たちのデビュー曲『逆転の一撃』です! それでは聞いてください!」

メロディーに合わせ、私たちとギギがダンスをする。

ダンスは、いつものより大分レベルの低い簡単なものだった。

ごく簡単な基礎的なステップやターンのみ。

正直、小学生でも踊れる。




「それでは、みなさん! ギギちゃんが踊りやすいように手拍子をお願いします!」


会場には、曲のリズムに合わせた手拍子が響いた。

ギギは、リズムに合わせて1、2、ターンを繰り返す。


まるで、子供の発表会をみんなで見守っているかのようだ。

――私はいつも汗だくになるまでダンスの練習をしていた。誰よりも上手くならないと! 誰よりも努力するんだ!

そして、その努力は報われてこなかった。

どれだけ上達しても、誰も見てくれなかった。


だが今、それの理由がわかった。

努力の方向がおかしかったのだ。

みんな上手いダンスが見たい訳ではなかったのだ。

誰も見たことがないような何かを見たがっているのだ!

上手いか下手かは、需要とは関係がなかった。


【あるところにプロのヴァイオリニストがいた。

その人の演奏は荘厳なホールで行われ、チケットは即完売。

観客はあまりの優美さに酔いしれ、スタンディングオベーション。


ビジネスは大成功。大反響。大喝采。

だが、ここで疑問が湧く。この人たちは、本当に彼の音楽の素晴らしさを理解しているのだろうか?


後日、そのヴァイオリニストに、見窄らしい格好をしてもらい、街角でストリートライブをしてもらった。

観客が本当に彼の『音楽の腕』に金を払っているのなら、ここでも大金が稼げるはずだ! そうだろ? だって、見窄らしい格好でも音楽は同じものだ。


だが結果は、足を止めて音楽を聴いた人はたった二人。

一人は、その人のことを知っていた人。

もう一人は、プロのヴァイオリニスト。

このことから観客は、純粋な彼の『音楽の腕』に金を払っている訳ではないことがわかった。

多くの観客が金を払っていたのは、『ブランド』に対してだったのだ】


「みーんなー! 今日はー来てくれて、あーーりがとーね! また次のライブで会おうねー! ほんとーにあーりがとー!」

ライブは大成功だった。

いつもよりしょぼいダンスと、しょぼいパフォーマンスを、『誰にも真似できないエイリアンという存在』と共に売ったのだ。

誰もがこの『体験』には価値があると感じ、金を払った。

見たことがない『何か』がここにあると感じてくれたんだ。


会場の出口には、押し寄せる出待ちファン。

「ギギちゃん! ダンス上手だったよおお!」

みんながギギの周りに集まり、恐る恐るトゲや、なめめかしい肌に触っていく。

「ギッギギギギギギ!」


その中に、お母さんに抱っこされた小さな子供がいた。少し離れたところから、ギギの様子を見ている。

私はその子に近づき、ポケットに入れていたポップコーンを手渡し、

「あげてみる?」


小さな子は恐る恐るギギにポップコーンを投げると、ギギはそれを空中でパクっと食べた。

すると、子供はとても嬉しそうに笑顔を見せた。


…………これだ!



後日、

「はい! 押さないでください! 『エイリアンへの餌やり券』はまだまだありますから! 押さないで! 押さないでください!」

思いついたビジネスは全てやった。

次から次へと新しいアイデアが出て、そのほとんど全てがうまくいった。


昔はグッズを手売りしていた。誰も買ってくれなくて、いつも売れ残っていた。

ダンボールに積まれた私のグッズを見るのが何より悲しかった。


「3000円以上のお買い上げにつき、一枚エイリアンの餌やり券がついてきます!」

グッズは飛ぶように売れた。


今の時代、アイドルとの握手券などでは飛躍できない。

誰かがやったケツを追いかけても、二番にしかならないのだ。

どれだけしょぼくてもいいから、誰もやってないことをやるんだ。

そうすれば、私がそこのレールの先頭に立てる。


【人と違うということは、天部の才だ。スティーブ・ジョブズ】




勢いに乗った私たちは、ギギと特訓に明け暮れた。

「1、2、3、アンド4! クワトロスピン! そして、ドルフィン!」

ギギは、空中に飛び上がり四回転し、そのまま宙返りをした。

その場で、四メートルほど飛び上がっていた。

人間の関節ではできない動きができる。

「うん! すごいすごい!」

私はギギに抱きつくと、思い切り顎の下をカリカリと触ってあげる。

すると、ギギは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。


その後のライブで披露したスピンと宙返りは、観客を沸かせた。

この頃から連日ニュースで取り上げられるようになったのだ。





「よし……かなり上手くなってきた……!」

自宅の机で作業をする背後からギギが覗き込み、

{夢叶、何、してる?}

「んー? これはサインだ。アイドルは人気者になったらサインをねだられる。今はまだ人気がないが、いつか必ずトップアイドルになってやる! だから時間のある今のうちに練習しておくんだ!」


【声優の水樹奈々は、声優になる前から習字の練習をしていた。

理由は将来必ず有名になり、そのときファンからサインをねだられるから。

そしてその予言は実現し、トップ声優となった。

ここで言いたいのは、有名になりたいのであれば習字を習えということではない。

あなたが何かを本気で目指すと決めたら、その瞬間にあなたはその業界のトップ10%ほどに入れる。

やるのなら、最初から本気で狙いに行くべきだ。たったそれだけで大半の人(|90%)は置いていける】


ギギは、私のサインを見ると、

{それなら、僕も、書ける}

「あ! おい! ちょっと!」

ギギは、自分の右手にマジックのインクを塗りたくり、ポンと色紙に押した。

「ギギッギギギギギ!」


私は色紙に押されたエイリアンの手形を見て…………

「これ、もしかしたら……」






「押さないで! 押さないでください! 全員分ありますから!」


「私にもサインください!」

「俺にも!」


世にも珍しいエイリアンの手形サインは、生産が追いつかないほどに売れた。

世界に一つしかない唯一無二の手形。

毎回インクのずれや、掠れ具合が違い珍しいものには高値がついた。


エイリアンのアイコン化に完全に成功したのだ。


グッズは、シャツ、ブレスレット、キャップなど全て常に完売。

なぜなら、処分に困っていたギギの抜けたトゲや、脱皮の皮、緑色の唾液をセットでつけたからだ。

誰もがその唯一無二のアイテムを記念に持ち帰りたがった。


一人の客が、

「あのギギちゃんのサイン欲しいんですけど?」

「それなら、あそこの列に並んでください」

「ええ……あれ全部並び列ですか? やめとこうかな……」

ギギのサイン列は、数時間待ち。最後尾が見えないほどだ。


私は勇気を出して、

「あの……私のサインでよかったら書きますよ! なんて……」


「いりません」



ですよねー……。


客の大半はギギ目当てだ。

私はギギのおこぼれに預かっているだけ。私の人気が出た訳ではないからな。仕方がない。

そこに別の客が来た。

「あの! サインって?」

「ああ。それならあそこの列の一番最後に並んでいただければ」

「いえ、夢叶ちゃんのが欲しいんです! 書いて、もらえますか?」


「……はい! もちろんです!」





私たちの人気は、火がついたように燃え上がった。

ライブチケットは、オークションで法外な価格がつき、

ギギのトゲは、コレクターズアイテムになった。

海外からもエイリアンマニアやオカルト研究家が集まってきた。


そして、人気アイドルランキングが発表された。


「嘘……?」


その日のランキングは、日本に衝撃を撃ち放った。

不動の一位だった『ミラクル・ガールズ・ジェネレーション』が二位に転落したのだ。

一位は、私たちのグループ『ゼノユニバース』だ。


マネージャーは、大粒の涙で頬をくしゃくしゃにしながら、

「よかったな……夢叶! 夢が叶ったで! よう頑張ったな……! ほんに頑張ったな……!」



その瞬間、頭の中にこびりついていた、冷たい言葉がスーっと消えていった。

【ゆーめのゆめの! ゆめのゆめ……! 夢野の夢はアイドルになること! だけど現実は残酷でした。彼女の夢は、夢のまた夢。叶いませ〜ん】

【どけ! ブス! お前に何ができるんだよ!】

【お前には才能がない】



「やった……! 夢が叶ったんだ……! 報われたんだ……!」

ついに夢が叶ったのだ。


思えば、平坦な道などではなかった。

過酷な減量と、食事制限。

整形までして、親族には愛想を尽かされた。

【両親にもらった顔を変えて……あんたは、何がしたいんや……親の形見は、あんただけなんに……】

田舎から飛び出したあの日の小娘は、現実に打ちのめされた。


どれだけ頑張っても、

どれだけ努力しても、

夢は夢のままなんじゃないかと何度も思った。


日本で小さい頃に思い描いていた職業につける人は、22%、五人に一人だと言われている。

【お前は、四人の方だ!】

と、何度も言われた。

だがその度に歯を食いしばって、絶対に『夢を叶える一人の方』に入ってやると固く誓った。


――そして今日、夢が叶ったのだ。



テレビのニュースキャスターが、

【アイドルグループランキングの次は、アイドル個人ランキングです。一位は、エイリアンのギギちゃんです!】


私は? 私はどこだ?


期待に胸を膨らませる。

興奮が全身を焦がす。

これで、天国のママにまで私の名前が届くはず!


その時だった――脳内に亡き母の姿が浮かぶ。

彼女は満面の笑みになって、

【よくやったわね……夢叶! さすが私の娘……!】

そう言ってくれたような気がした。


やっと報われたんだ……!





だが、私はトップ100にすら入ってなかった。


グループでは一位だったのに、私は圏外だったのだ。

右京も左京もランキング上位だった。私だけが蚊帳の外。


田舎から出た小娘は、再び現実に打ちのめされた。


=====


同時刻。


東京の郊外に衝撃が走った。

『それ』は畑の中に落ちると、湿った土にクレーターを産んだ。

冷たい火花が空気に踊る。


畑の中に落ちたのは、円盤型の宇宙船だった。

明滅するライトと、内部から溢れる青い電流が土を舐める。


騒ぎを聞きつけて、畑の持ち主や周辺の農家が五人ほど集まってきた。

「なんだっぺ?」

「隕石かえ?」

「いや、UFOだべ……!」

「本物か? 偽物だじゃ!」


すると、宇宙船のハッチが開いた。

プシューという音と共に、白い煙を吐き出した。

煙の切れ目から、長くしなる白い尻尾が見えた。

「何かいる……!」

「中から出てくるべ」


宇宙船の中身は、ゆっくりと地球の大地を踏み締める。

長く湾曲した鉤爪が、そのまま土に食い込む。


それはギギと対照的な白い甲殻。

長くしなる尻尾の先端にはパラボナアンテナのようなものがついている。

顔はのっぺりとした蛇顔。

骨っぽいギギとは違い、関節や腹部は水色の蛇腹になっている。

この地に、二体目の来訪者が現れたのだ。



白いエイリアンは、キュウキュウと可愛らしい鳴き声を上げながら、周囲の臭いを嗅ぐ。


「あれ! 確かテレビでやっているのをオラみたべ! 確かアイドルグループのギギちゃんとかなんとか……」

「あ! オイラの娘っ子も好きだって言っていたンダ! ちょっくら挨拶してくるダ!」

農家の一人がエイリアンに近づいていく。

「おい! 大丈夫だべか? 危なくねえだか?」

「へーき。へーき。オイラこう見えても、学生の時は空手やっとったけ……」


農家は、エイリアンに近寄ると、刺激しないように話しかけた。

「やあ! オイラは、小太郎。人間ちゅーもんや。オイラの言葉がわかるけ?」


エイリアンは尻尾をフリフリしながら、コクンと頷いた。

「ふぅ……どうやら大人しいやつみたいじゃの!」

エイリアンは喉の奥から、愛らしい音をこぼした。

「キュウキュウ!」


「お前さん、名前はなんていうだ?」

「キュウ?」


「地球には何しに来ただ? お前もギギちゃんとおんなじように、遊びにきたべか?」

「キュウキュウキュウ!」


「そうか! そうか! ええとこやからな、ゆっくりしていってくれや。ところでお前さんは何を食べるだ?」


次の瞬間、エイリアンはピタッと動きを止めてじっと農家を見つめた。

顔の左右についている白い目は、瞬きもせずに目の前の人間を見るのだ。

周囲には、風が秋の穂を洗う爽やかな音だけが漂う。


そして次の瞬間、農家の上半身がなくなった。


二体目のエイリアン……『ザ・ハンター』は、上下に大きく裂けた口を広げる。

口は腹の辺りまで裂け、直接胃の中に獲物を捕食するのだ。

1メートルほど開口した口兼腹の中には、ウロコ状に牙が並んでいる。まるで昔の拷問器具、アイアンメイデンのようだ。

内部には黄色い胃液が溜まり、ピュュピュと汁を飛ばす。


下半身だけになった農家は、その場で膝をついて崩れ落ちた。

大腸と半分だけになった胃が、畑にブルンとこぼれる。

胃の中には、消化している途中のトマトやキャベツがあり、胃酸で滑るそれらが畑の土に帰った。


ゴリッ! ゴギッ! ボキッ!


白いエイリアンの腹の中で、骨の砕ける音がする。

周囲にいた他の農家達はその場で尻餅をつき、後ずさった。

「ひ! ひいいいいいいいっ!」

「逃げろおおおおっ!」


[逃さないわ!]

白いエイリアンは背中から何本もの触手を飛ばし、それらを獲物に向けて飛ばした。


======

====

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ピチャピチャ……


クチュクチュ……


畑には、五人分のハラワタがこんもりと山を作った。

ピンクと赤色の美味しそうな料理。

白いエイリアンは、スパゲッティーに口をつけると、

ズルルッ……ズゾッ……一気に吸い込んだ。


[なんだ。この美味いエサは。レベル2。になるためには。もっと。いるわ。]


そして、ハンターは更なる獲物を求めて山から都会に登って来た。

ビルのジャングルを縫うように飛び。

黄金の月を背景に、妖精のように踊る。

そして、東京スカイツリーのてっぺんに登ると、悍ましい叫び声を上げた。


拡散する音の波が空に波紋を作る。

静まり返った重たい夜が、頭上に横たわる。


その怪物は、月を背景に地上の人間たちを見下ろしながら……

[どこにいるの……?

お母さんに返事をして……


いるんでしょ……私の可愛い夢叶……]

と、小さくつぶやいた。


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