第2話 あたっく おん すてーじ


私はゆっくりと黒い獣に腕を伸ばした。

「こんにちは、今日は私のライブに来てくれてありがとう。あなたのお名前は?」

静まり返るライブ会場。静謐で重たい空気が肩に乗る。

その場にいた全ての人が私の行動を見守っている。



獣は、警戒しながら私に近づく。

「大丈夫。怖くないよ?」

獣は四つ足でゆっくりとこちらに向かってくる。

心臓が止まりそうだ。

正直、怖くて怖くて仕方がない。

「ほら、おいで」

獣は、目と鼻の先まできた。

そして、クンクンと犬のように私の手の匂いを嗅ぎ始めた。


「私は夢叶。あなたはどこから来たの?」



獣は、クチバシを開いて中から緑色の舌を伸ばしてきた。それを私の右手に絡ませる。唾液はひどく臭く、緑色で粘っこい。

手の上を巨大ななめくじが這いずっているかのようだ。


「私とお友達になってくれるの?」


だが、獣は舌を引っ込めると、大きく口を開いた。

クチバシに見えていた場所は口ではなかった。

顔全体が四つに割れ、中から真っ赤な口内が剥き出しになった。

内部には、円形の細かい歯がびっしりと生えそろっている。

所々に何かの肉の切れ端が、挟まっていて。


そして――ライブ会場を埋め尽くすほどの濃度の咆哮を放った。

私は思わず手を引っ込め耳を覆う。

背筋が凍りつくような冷たい叫び声だった。


目を開けると、そこには黒い獣はいなかった。


「なんだなんだ?」

「今のは何だったんだ?」

「ライブの出し物か?」


私は急いで観客の方を向くと、

「みんなー! 驚かせちゃってごめんねー! 今日は最後だからちょっと演出凝りすぎちゃったかな! 最後まで応援してくれてありがとうね!」



=====

そして、私の最後のライブは終わった。



マネージャーには、説明しても信じてもらえなかった。

ライブ会場をメチャクチャにしたことにより、スポンサーからは激怒された。

「最後の最後に何をしてくれたんだっ!」


「はい! 申し訳ございません」


「お前らみたいな売れない小娘を面倒見てやったのに、最後はこれか!」


「機材は全て弁償させていただきます」


「当たり前だ! そもそも――」



家に帰る間もずっとあの生物のことで頭がいっぱいだった。


――一体なんだったんだあれは?

今まで見た動物とは、全く違った生き物だった。

攻撃的なフォルムに、巨大な四肢。

異様に発達した口は、何を食べるためのものだ?


疑問は尽きなかったが、もう関係ない。

私のアイドル生命は終わった。


最後のライブがもう少しでも上手くいけば、次のチャンスは来たかもしれなかった。

だが完全な失敗。

もう取り返しはつかない。


結局、私は何者にもなれなかったんだ。

私には、才能がなかったのだ。


ベッドに飛び込むと、

「それでも……憧れだったな……」

その日は、泣きながら眠った。


もう何度目かわからない、凍りつくような冷たい夜が私の体を洗ってくれた。



=====

翌日、私がもう着ない衣装をもう行くことのない楽屋に返しにいくと、

満面の笑みをしたマネージャーがいた。


「よくやった!」


「え? な、なんです?」

「なんや? まだ見てないんかい? ほれ!」


彼が手渡してきたスマホを見ると、そこには、

【きゃああああああっ!】

【なんなんだこいつっ?】

【逃げろっ!】

昨日のライブの様子がネットにアップされていたのだ。


「嘘……バズってる……!」

再生回数は、見ている間にもどんどん増えていった。

急上昇ランキング一位。

大量のグッドとバッド。


動画のタイトルは、【エイリアンがアイドルのライブに侵入!】


「いやああ! てっきり昨日の話は、全部嘘やと思っとったわ! まさかホンマやとわな! あ、その衣装まだ返さんでええで!」

「え?」


「スポンサー様も大喜びやった! よかったな! 夢叶! 首の皮一枚で繋がったで!」

「じゃあ?」

「ああ! まだアイドル続けられるんやで!」


だが彼の言葉が嘘だということはわかっていた。

現状は、延命されただけだ。

動画のバズにより、私の知名度が上がっても、実力を伴ったものではない。

熱気が冷めれば、すぐにでもまたライブ会場は閑古鳥になる。


どうする? どうやってここから成り上がる?


その時だった、スマホが振動と共に着信を告げる。

「左京か? どうした?」

「どうしたじゃないですよ! 遅刻ですわよ! バイトでライブの赤字補填するんですよね?」

「悪りぃ! すぐ出る!」


=====

ここは東京スカイツリー。

夜空を突き刺す摩天楼。

「はい。じゃあこれ被って!」

雇い主のおじさんからヘルメットを預かると、スカイツリーの従業員用の扉へ案内された。

私は、スカイツリーに仰々しく設置された巨大な音響設備を指差して、

「あの? ライブ活動ではないんですか?」

「そうだけど、それは別の子たちを呼んでるから。君たちの仕事は、ネズミ退治だよ! 君たち何でも屋だろ?」


アイドル活動のない日は、こうしてアルバイトで赤字を補填している。ま、アイドルなんてこんなもんだ。


「何でも屋っていうか本業はアイドルをやっていて……」

「アイドル? 君が?」

「ええ。一応」

「ふーん。ま、よろしく頼むね!」

雇い主は興味がないのか、無造作にゴミ袋と軍手を渡してきた。

――これで死体を拾えっていうのか……


私がやらされるバイトは、いつもこんなのばかりだ。

呼び込みや、宣伝にはほとんど使われず手足としての仕事。

「ほれほれ。行くよ!」

と、右京。

「夢叶! さっさと終わらせましょう!」

と、左京。

「あ、ああ」

いつか必ず成り上がってやると夢見て、どれくらい経っただろうか?

あとどれくらい頑張れば、身内に顔向けできるようになるだろうか?


私が家を出た時に、育ての親とは決別した。

彼らは、夢を追う私を応援してくれなかった。

【あなたには無理よ】

【やめておきなさい。失敗したらどうするんだ?】

【あんた! 何考えちょるん?】



だから私は、彼らを切り捨てた。

私は一人でも構わない。

理解できないアホの助言など必要ない。


……そう息巻いていたが、現実は……


そして、私はあちこちに散乱しているネズミの死体や糞便を拾っては、ゴミ袋の中に投げ込んでいった。


「くそ! こんなことをしている暇はないのに……!」

ネズミは、血反吐をぶちまけながら地面に転がっている。


――なんだ? 共食いでもしたのか?

「うわっ……大量に死んでいる……右京! おい左京! どっちでもいい! おい! いないのか?」

だが返事はない。別の階に行ったのだろう。

「はあ……ウンザリする……」

私が点々と続くネズミの死体を拾っていくと、


グシャッ! ボキッ! ゴキッ! ピチャピチャ!


何かを砕く音と啜るような音が聞こえてきた。

「なんだ……何か……いるのか?」


恐る恐る音の方へ行くと、

そこにはあのエイリアンがいた。


――ここがあいつの巣だったのか!?


エイリアンのそばには、カプセル型の銀色の宇宙船らしきものもある。

――あれに乗ってきたのか?


その時だった、ピルルルル!

スマホに着信が来た。右京からだった。

――しまった!


エイリアンはいち早くこちらに気づいた。そして、長くしなる尻尾をこちらに突き出してきた。

尻尾の先端はブレード状に尖り、その部分が私の足に巻き付いた。

そして、一気に地べたの上を引きずられた。

「ぐあああああっ!」


エイリアンは、左右についた両目で私の顔を覗き込む。

クチバシからは緑色の唾液がこぼれ、異臭を放つ。

そのクチバシはゆっくりと左右と上下に割れ、中のグロテスクな口内が剥き出しになる。

「ギギギギギギ!」

――食われる……!


と、思った瞬間、エイリアンはゴミ袋に顔を突っ込みボリボリとネズミを食い始めた。

私は何もできずに、それを見ていた。

しばらくすると食い終わったのか、袋から顔を出す。

頭部を広げ、私に近寄る。

――今度こそおしまいか!


そして――

{もっとくれ、}

頭の中に声が響いた。


「な、なんだ?」


{お前、もっと、持ってないのか? エサ、食べたい、よこせ}


「人間と意志の疎通ができるのか?」

エイリアンはコクンと頷く。

――てっきり思考も何もない本能で生きる肉食獣だと思っていた。だが、思っていたよりも賢いのかもしれない!

「なあ! お前はどこから来たんだ?」

{遠いとこ}


「なんでこの星に来た?」

{そんなこと、どうでもいい。もっとくれ。お腹、すいた}


エイリアンは、私が懐にネズミを隠してないか、探り始めた。

――持っていないことがバレたら私を食い殺すかも!

「今はないが、私の家に来ればもっと美味しいものを食わせてやる!」


{それじゃだめ、だ……今すぐ、食うことを望む!}

エイリアンの語気が強まる。私の服に突っ込んだ鼻先が熱くなる。

「だめだ! 私のことは食わないでくれ!」



{たまらなく空腹、もう我慢ない、お前人間、うまそうだ}



私はエイリアンの巣にあるカプセル型の宇宙船を指差した。

「それに乗ってきたのか?」

エイリアンは、私の服をクチバシで破りながら、

{そんなこと、どうでも可、お前食う、殺す楽しい}


宇宙船は、あちこちにヒビが入っていて中の機械パーツが剥き出しになっている。

「それ壊れているのか?」

{だったら、なんだ?}


「なら私を食べるな! その代わりお互い協力しよう? それを直したいだろ? 私を食っても宇宙船は直らない。お前は他の人間に撃ち殺されて剥製にされるぞ?」

{お前と協力、ない! それにリペアキットがあるからギギ、自分で直せる、お前ら、弱い、返り討ち、食ってやる!}


そういうと、再び私の服を食いちぎり、尖った嘴を腹の肉に食い込ませてきた。

――まずい! 本当にピンチだ! 何か! 何かないか? なんでもいい! そうだ!


私は壊れた宇宙船を指差し、早口で

「部品はどうする? 全部揃っているのか?」


宇宙船の機体は、熱で溶けて中身が剥き出しになっている。

{伝導率の高い金属、足りない}


「なら金か銀だな……」

エイリアンは、私を食おうとするのをやめて、

{それは、どこで手に入る?}

――よし! 興味を示した! なんとかこっちのペースに引き摺り込むんだ!


「店で売っているが、そのためにはたくさんのお金がいる」

{お金? ギギお金ない、お金、どこに落ちている?}


私は「最後の賭け』に出ることにした。右手をエイリアンに伸ばし、

「落ちてない。働かないとだめだ……なあ、お前お金が必要なら………………私と一緒にアイドルにならないか?」



だがエイリアンは私の右手を、右手で乱暴に叩くと、

{それがなんなのか、わからないが、そんなものに、興味ない}


――そりゃそうか……こいつが客寄せパンダになれば、と思ったが……ダメか……


{おしゃべり、もうたくさん、お腹すいて仕方ない! 我慢ない! お前、人間、僕の餌!}

エイリアンは、頭を四つに割り、中から剥き出しの食道を広げた。

――私を頭から食う気だ!


その時だった、私はエイリアンの腹部を指差して、

「お前怪我をしているのか?」

そこからは、金属が刺さり緑色と白色の液体が溢れていた。甲殻の隙間から黒い肉と黒い骨が露わになっている。

{だったら、どうした?}


「痛いだろ? 私の家に来い。そこで治してやる! その後で私を食えばいい」


=====




私はバイトを早退し、家についた。

エイリアンは、荷台に乗せ上からシートを被せて運んだ。

幸い安全帽を被って作業員の格好。怪しまれることはなかった。

私はエイリアンの腹から金属を引き抜くと、布で縛ってあげた。

「ひとまずこれでいいか」

{終わった、か?}


「ああ」

{なら、人間、食う!}


エイリアンは再び口を大きく開いて、私に襲いかかってきた。

「ギギギギギギギィィィィィー!」

「だめだ! まだ治療は終わってない! 私を食ったら誰が続きをやるんだ? ほら、寝るとこ用意してやるから」


六畳ほどの狭い部屋、ベッドが一つとソファーが一つ。それと、ライブ映像を見るために、なけなしの金で買った大型テレビ一台。

部屋のど真ん中で存在感を放っている。

私は、タオルケットを床に引くと、

「ほら、ここで、あ! おい! そこは私のベッドだ!」


エイリアンにベッドを占拠されてしまった。

{疲れた……もう寝る}

傷口から緑の体液が私のベッドにこぼれた。

「……はあ」


それからエイリアンとの同居生活が始まった。


エイリアンは、私の目を見ながら

「ゴギャアアアアア!」

「おい! 吠えるな! 包帯を変えるだけだ! 暴れるなって!」

だがエイリアンは、私のことを信用していないらしく、私の手を振り払う。


エイリアンの尻尾や背中には、たくさんの鋭い棘が生えている。

おかげで手はズタズタ。

「虐めたりしない! ほら、じっとしていろ!」

だがエイリアンは、力一杯私の腕に噛み付いた。

「いてえええええっ! こら! 離せっ!」




「お前には名前があるのか?」

エイリアンは、敵意を剥き出しにしながら、

{当たり前だ! 僕を、馬鹿にしているのか!?}

「そんなつもりはない。なんていう名前だ?」

次の瞬間、脳内に激しい金属音が響いた。

{ギギギギギ・グギャギャギャギャ・キィィィィィン・ギギラララララ――}

「うわあああっ! 止めろ! 今すぐ止めてくれっ!」


{今のが、僕の名前! わかったか、人間?}

――なんだ今のは? 頭の中を不協和音のミキサーでかき混ぜられたみたいだ。

「わかった。だけど、私には発音できないから別の名前をつけよう。鳴き声からギギちゃんとかでいいか」


{人間、お前の名前は?}






腹が減ったのか今日もエイリアンは、私を食おうとしてきた。

{お腹、空いた、我慢ない! 我慢ないない! 何か、食わせろ!}

「やめろ! 噛み付くな! ギギは、雑食か? ほら、これ食ってみろ!」


{何、これ、?}


「りんごだ! アイドルたるもの肌艶やスタイルには人一倍気をつかわないといけない! アイドルになりたければ、野菜とフルーツを食え!」

エイリアンは、恐る恐るりんごを齧った。そして、そのままボリボリと食い始めた。

{アイドルにはならないが、美味い、もっと、もっとくれ!}

ギギは、尻尾をフリフリとふりながら機嫌よくりんごを平らげた。




ある夜、ソファーで怖い映画を見ていると、

尻尾を丸めて、ギギがベッドに潜り込んでいることに気づいた。

「お、おい! どうした? 怖いのか? 大丈夫だ、これはテレビだ。実際に起きていることじゃない。ほらこっちへ来い! 犬か、お前は……」


ギギは恐る恐る布団から顔を覗かせると、映画の中の怪物が、

【ゴギャアアアアアアアアアーー!】

轟くような咆哮を放った。すると、ギギはサッと布団に入ると、再び尻尾を丸めて怯え始めた。

「ギギ! お前本物のエイリアンのくせにこれが怖いのか? 大丈夫だ。最後にはリプリーが勝つって!」

私が布団を引き剥がそうとするが、力強く掴んで離れない。

「わかった。わかった。悪かったって、そんなに怖いなら消すよ!」

――どう考えても、お前の方が怖いんだけどな……


私は代わりに、アイドルのライブ映像をつけた。

そこに映るのは、私の憧れのアイドル。

もうとっくに引退してしまったが、彼女の姿を見て私はアイドルを目指した。

太っていて虐められてばかりいた私に勇気をくれた。


暗い人生の中で、同じような境遇でも努力する彼女の姿が眩しかった。

彼女も私と同じで親を早くに亡くしていた。

一人ぼっちで生きる私にとって彼女は――


私は決意を胸に抱くように、

「ママ……見ていてね……私、必ずトップアイドルになるから」

――必ず成り上がってやる!




=====

親が死んだのは、私が五歳の頃。

家に侵入してきたヒグマに食い殺されたのだ。

ヒグマによる獣害は、多くはないが、田舎では起こる。


人間が彼らの住処を奪いすぎたのだ。自業自得と言われればそれまで。


私は恐る恐る苦しい過去を思い出すと、

そこには、ベッドの下で息を潜める私がいた。

ゴリゴリ……クチャクチャ……ゴキッ!


床一面に美しい血が広がり、カーペットにおしゃれな模様を描く。

パパは、心臓が体外に引き摺り出され、顔がなくなっていた。


ママは、腹に穴が開き、そこから臓器の大半を食われている最中だ。

【夢叶……ママは、あなたの夢を応援しているからね……】

もう助からないことを悟ったのだろう。

【あなたならきっと、何にでもなれる……わ……約束して……絶対に諦めないって……】

それがママの最後の言葉だった。今でも脳裏に焼き付いて、離れない。



両親を失った私は親戚の家をたらい回しにされた。

私は心を閉ざし、暗い部屋で、テレビばかり見る日々を過ごした。

そんな中――

【大丈夫よ! あなたは一人じゃない!】


それは絶望した子供にとって、大きな出来事だった。

独りぼっちになっても、この世の終わりではないと、肩に手を置いてくれたのだ。

私を救い出してくれたのは、テレビの中の会ったこともないアイドルだった。


=====



「必ずトップアイドルになってやる……!」

その時だった――

すぐ隣に気配を感じた。横目で見ると、ギギがいつの間にか私の隣に座っていた。

布団から顔を出して、ライブ映像に見入っている。

{これ、何、している?}

「これはアイドルのライブ映像。この人たちがやっているのは、ダンスだ」

{ダンス?}

「ああ。やってみるか?」


私はギギの目の前で基本のステップを見せる。

「1……2……ここでターンだ! ほらやってみろ!」

ギギは見よう見まねで、ぎこちないターンをした。

「そうだ! 上手いじゃないか!」

すると、喉を鳴らしながら

「ギギギギッギギギ!」


「楽しいだろ! これがアイドルの仕事だ!」


{夢叶、なんで、アイドル、なりたい? 楽しいから、か?}


「いや、きっと親が殺されたからだ。

……ママは、目の前でヒグマに食い殺された。

今でもまだゴリゴリと骨を齧る音が頭に響く。


ママは食われながら、私の名前を呼んだ。

夢を叶えると書いて、夢叶。それが私の名前。

そして、あなたなら夢を叶えられると言ってくれた。

だからだ……」


その日の夜、私がソファーで寝ていると、ギギがそばに寄ってきた。

「寂しいのか?」

私が、手を伸ばし背中をさすってあげると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。


そして、夜空の月を眺めながら、

{――ママ}


――こいつまだ子供なんだ。てっきり成体だと思っていたが、まだ幼いんだ。



「なあ、ギギ……お前はママに会いたいか?」

{……うん}

「なら、私と一緒にアイドルになろう。

私は金はいらない。名声が欲しい。

お前は名声はいらない。宇宙船を直すための金が欲しい」


{僕を、利用するのか?}


私は右手をギギに差し出しながら、

「ああ! だからお前も私を利用しろ! ビジネスでいうウィンウィンの関係だ! お互いの力を合わせるんだ!

二人で一緒なら、絶対にうまくいく!」

だがギギは、私の右手をパシんと冷たく振り払った。


「だめか……」


そして、尻尾の先端を私に突き出してきた。

{夢叶、尻尾を出せ、お互いの尻尾を交わすのが、僕らの、やり方だ}

「私には尻尾がないから、手でいいか?」


私たちは、右手と黒くしなる尻尾で握手をした。


――さあ、特訓開始だ!


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