【差別はどうして無くならないの?】

エテルナ(旧おむすびころりん丸)

【差別はどうして無くならないの?】

人種に性別、障碍に容姿、才能に財産と、この世にはたくさんの差別が存在します。

差別を完全に消し去るのは難しいですが、しかし黒人解放運動や女性参政権などなど、ここ数十年で目に見えて改善された差別もあります。

そこには偉人たちの活躍がありますが、しかしそういった活動家の行動だけが差別を打倒し得る唯一の方法なのでしょうか?

だとすれば差別を消すことは、活動家の能力次第ということなのでしょうか?


いえ、実はそうではないのです。


一般的に差別は対話や演説などにより理解を得たり、教育や法整備により消えると思いがちですが、そうした行動だけでは差別を根本的に無くすことはできません。

差別を無くす為の定義があり、無くなる差別と無くならない差別にはちゃんとした理由があるのです。


語弊のないよう述べておくと、訴えかけることも当然必要です。

しかし、その内容が人の倫理にのみ訴えかけるものだけでは、いつまで経っても差別は無くなりません。

倫理は人により感じ方が違う為、説得だけでは万人に認めさせる論理的な答えを示すことができないのです。


ではその定義とは何なのか。

答えは差別に妥当性がないと明らかになっている土壌であり、つまりは倫理観や神話を介さない科学的な見地です。


【黒人は野蛮で原始的であり、白人は知的で洗練されている】


このような思想は過去には本気で信じられており、そしてそれを覆す科学的な証明もできずにいました。

それどころか歴史背景を証拠に出されれば、白人が席巻してきた事実だけが連ねられ、逆説的に白人が優秀だと証明されてしまうのです。


過去には世界全土を支配したヨーロッパ諸国ですが、彼らはそれが優秀な白人の使命であり、野蛮な人間たちをまとめる責務まで感じていたというのですから、今の我々からすればなんとも恩着せがましい自惚れです。


女性も同様に、長らく不遇な境遇に立たされていました。

過去には女性は男性の所有物と見なされており、女性に対する暴行は同害同復法でなく罰金刑。

つまり加害者は、所有物の価値に相応する金銭を被害者である女性の所有者に支払えという、損害賠償がまかり通っていたのです。

他にも、同じ労働をしても男性の半分以下の賃金しかもらえず、要職に就くこともなければ参政権すらも得られない。


聖書によるアダムとイヴ、古事記のイザナギとイザナミから見ても分かるように、『男あっての女あり』という物語が、神話として脈々と受け継がれ、人々の間で正当化されていました。

科学より神学に重きを置いていた時代ですから、差別を訴えるどころか疑問を持つことすら許されないことだったでしょう。


しかし産業革命がはじまり、科学が途轍もない力を発揮することを、次第に人間たちは気付きはじめます。

蒸気機関の利用により、ぐんぐんと伸びていくイギリスを見て、周りの国々も慌てて科学を取り入れます。

腹の足しにもならぬ神学より、豊かにしてくれる科学に没頭します。

大戦になれば更にそのギアは上がり、剣を胸に神に勝利を祈るより、戦闘機や爆弾の威力を信奉するようになります。


経済と軍事、絶対の信頼が科学に置き換わることで、人々は科学を盲信するようになりました。

科学が言うなら正しい、科学が言うことは絶対だ。

そんな科学が白人と黒人の間には優劣の差が無いと、男性と女性に神話に見るような差はないと、時代を追うごとに次々と明らかにしていき、遂には証明してしまったものですから、もはやこれらの差別をする者は、社会的に悪だという常識にまで至っています。


つまりは科学の知見という土壌があるおかげで、活動家の行動に正当性が示され、遂には凝り固まった民意までをも動かすことができたのです。

このサイクルははじめのはじめ、科学の前置きがなければ次に進めません。

倫理や神話に見るような、『人の感じ方』に妨害されてしまうのです。


人種差別同様、身分差も科学により緩和されていきます。

人は神の部位から生まれた訳でもなく、魂の差異がある訳でもなく、普遍的共通祖先(Last Universal Common Ancestor)であるLUCA(ルカ)を基に進化したホモ・サピエンスの末裔であり、貴族と奴隷の違いになんら生物学的根拠がないことが確定しました。


逆に言うと、この性質ゆえに障碍者差別、LGBT問題はいまだに解決されていません。

障碍者は健常者と科学的に異なる部分があり、差別と言えば聞こえは悪いですが、障碍者雇用や障碍者年金、パラリンピックなどの障碍者を区別する方策やイベントは当たり前のように存在しています。

同性婚も子を残せないなど、異性婚との違いが生物学的に示されています。


これらはいくら訴えたところで事実は事実、根本的な解決は不可能です。

しかしやはりこれすらも、やはり科学の力が解決してしまうのです。


例えば四肢のない障碍者。意志で動く義手と義足を取り付けます。それらは100キログラムのものを楽々と持ち上げ、時速40キロメートルで走れます。

科学的な見地で見た場合、彼は手足は無いが強靭ですばしこく、健常者より優秀な運動を行える。


目の見えない障碍者が、ブレインマシーンインターフェースで繋げた視覚で物を見ます。視力計は驚異の10.0を指し、弾丸のスピードを捉える動体視力に、度を絞れば細胞の動きも観察できます。

科学的な見地で見た場合、彼は目は見えないが、健常者より優れた視覚を持っている。


女性の同性婚カップルが、IPS細胞を利用して己の精子を作り出し、体外受精で子を産んだ。科学的な見地で見れば、彼女らは女性同士だが、血の繋がった子孫を残す点では異性婚となんら変わりなく、近親相姦のような遺伝的問題はまるでない。


これらの土壌が確立された時、差別の理由は神話に頼るものしかなくなり弱体化します。

こうしてはじめて活動家の行動に正当性が生まれ、それらの差別が許しがたい悪にまで変貌するのです。

障碍者差別は既に悪と思われがちですが、先程も申し上げましたように、綺麗に見せた『区別』がハッキリと残っています。

上記技術が普及すれば、障碍者に対する憐れみや優しさ、イベントや施策すらも悪とする、健常者と障碍者の完全な統一が果たされます。


またいつかの未来、現状ではどうしようもない差別問題さえも科学は解決してしまいます。


年齢による差別は不老不死で解決するでしょう。

不老により老化を指摘されることはなくなり、不死により歳を問うことも無意味になります。

どうせ皆いつまでも生きるのだから、年長者を重んじることも大切にする必要性も薄まります。


エリート等の知的差別はブレインマシーンインターフェースの発達で解決します。

知識をインストールし、皆が優秀となれば、人間固有の知識や生まれ持った才能の差など、微々たる誤差に収まるでしょう。


富裕・貧困差別は全ての生産をロボットに任せた完全体社会主義体制で解決するでしょう。

ロボットならば社会主義の欠点、怠慢や努力の喪失がありません。

ロボット一人一人は己の賃金が上がらなくても最善を尽くしますし、学習能力により常に向上していきます。そして生み出した物品を平等に人間に分配するのです。


これらのように、技術の発展のみが覆し難い差別すらも無くす土壌を作ることができます。

逆に主義主張だけでは、上記の世界を生みだすことが到底不可能なことは理解に容易いかと思います。


SF作家のアーサー・C・クラークは、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という名言を残しました。

本来の意味合いとは多少ズレているかもしれませんが、十分に発達した科学はまるで魔法のように差別を消してくれます。


いえ、あるいは魔法以上に――

全ての人類の認知を変え得る科学は、神のお告げと見分けのつかない絶対性を帯びています。


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