3-15
それから、玉藻は指と箱を回収して葛葉のところまで戻った。葛葉が確認した結果、ため込まれていた呪詛はすべて消え効果を失ったことが分かった。箱の浄化は完了したということだ。
これで、おそらくしずくちゃんはもう学校には現れないだろう。
玉藻は職員室に向かい、教頭を呼び出した。
「これはこれは、連日ご苦労様です。何かわかりましたか?」
にこやかに尋ねる教頭に玉藻は拳を握りしめる。だが、静かにこう答えた。
「……ええ、彼女はもう現れません」
「そうですか!除霊が成功したのですね。いや、良かった!」
「………よかった?」
玉藻は思わずそう聞き返してしまう。
「…?ええ、もう怪奇現象はご免ですからねぇ。生徒たちもこれで安心して学校生活を楽しめますよ」
それを聞いて玉藻はうつむく。
「…………そうですか。あなたには彼女の想いは届かなかったんですね」
「………何の話ですか?」
教頭は怪訝な顔をした。
「いえ、何でもありません。それでは一か月後、報酬のお支払いをお願いします。請求書は後日郵送するので」
そういうころには、玉藻はいつもの営業スマイルに戻っていた。
「承知しました。ありがとうございました」
教頭も少々怪訝な顔のまま、頭を下げた。
◆◇◆
学校を出ると、玉藻と葛葉はそのまましずくちゃんの家に向かった。
「おや、何か忘れ物かな」
チャイムを鳴らすとマサトが出迎えた。
「お渡ししたいものがあります。あとお借りしたいものも」
「……まあ、とりあえず入って」
リビングまで案内され、着席すると玉藻はティッシュの塊に見えるものを差し出した。
「なんだいこれは?」
「しずくさんは、生前指を切断されたそうですが、その時指は見つかりましたか?」
「いや……あの子に何度聞いても教えてくれなくて、警察にも言わなくていいからと………まさか………」
マサトは少し震える指でそれを掴んだ。
「これが………?」
玉藻は頷く。
「そちらは学校のプールの下で発見しました。おそらくしずくさんは……ご自分で指を切断されたのだと思います」
それを聞いてマサトは思わず立ち上がる。
「なんだって! どうしてそんな……」
「先ほど見たまじないの手順に[自分の一番大切なものをささげよ]とでも書いてあったのでしょう」
「そんな……」
「驚かせてしまいすみません。でも、これはあなたに渡すべきだと思ったので……」
マサトは少し考えていたが、頷いた。
「いや、戻していただいたことは本当にうれしい。探してくれてありがとう。でも、何が何だか……」
「置いておきたいところでしょうが、その指はしかるべき場所で焼き、骨は骨壺に一緒に収めてください。そのままにすると新たな穢れを生む可能性があります」
「わ、わかりました……」
マサトは困惑しながらも頷いた。
「それと、あと一つお願いがあります」
玉藻がそう言うと、マサトは顔を上げた。
「なんでしょうか」
「先ほどお渡ししたしずくさんの手紙をしばらくお借りしたいのです」
「それは……ちょっと……なぜです?」
マサトが困惑した表情で聞いた。
「理由は1か月後、すべてお話します。それまで預けていただけないでしょうか。お願いします」
いつもより赤い目で玉藻はマサトを見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます