3-8
「例えばだけど、女子中学生でも作れる?」
葛葉は目を丸くした。
「本気で言っているの?」
それから少し考え込む。
「うーん、まあ製法さえ知っていれば年齢は関係ないだろうけど。どうやって禁術にたどり着いたのかは気になるわね」
「うん、今日はその辺を聞き込みに行こうと思って。ただ製法とか道具とか見ても私はそんなにわからないから。お姉ちゃんにご協力いただきたいというわけです」
玉藻がそういうと葛葉は頷いた。
「なるほど。まあ、どうせ暇だしかまわないわ」
「やったー、お姉ちゃんすきすきー」
玉藻が葛葉の腕に抱きつく。
「ただし、後でスタバの抹茶フラペチーノを奢りなさい。トッピングマシマシでね」
その言葉を聞くと玉藻は静かに葛葉の腕から離れた。
「…………はい」
少しうなだれる玉藻と葛葉を乗せて電車は走り、やがて●●駅に到着した。
ここは●●中学からも一番近い駅となる。
駅を出てしばらく住宅街を歩くと、その家はあった。ごく普通の一戸建て。小さい庭があるがそこは特に手入れされた様子はない。
玉藻がインターホンを鳴らすと、男性の声で応答があった。
「……はい」
「あ、私、キュービックルーブの仙狐玉藻と申します」
「はあ、どのようなご用件ですか?」
「20年前の●●中学での出来事についてお話を聞きたいんです」
玉藻がそう切り出した瞬間、インターフォン越しでも空気が変わったことが分かった。
「…………何者なんだ?どうして今?」
「お見せしたいものがあります。少々お時間をいただけないでしょうか」
「……………」
しばらく悩んだ後、男性は答えた。
「少しお待ちください。片付けますので」
◆◇◆
玉藻と葛葉を出迎えたのは白髪の老人だった。
「おや、こんな若いお嬢さんとは。まあ汚い家ですが、それでも良ければお入りください」
玉藻も葛葉も丁寧に頭を下げる。
「いえいえ、突然ご連絡もなしに押しかけてしまいすみません。それでは失礼いたします」
家の中は多少散らかっている印象はあるが、時々掃除はしているのだろう。不潔な印象はない。ただ少し物が多い。男の一人暮らしという感じがする。
男性はリビングに二人を案内した。玉藻と葛葉は促されるままソファーに腰かける。
「さて、もう一度お名前をお聞きしても良いですか?歳のせいか少々忘れっぽくてね」
「はい。私、キュービックルーブという探偵事務所に所属しております、仙狐玉藻と申します。こちらは姉の葛葉です」
玉藻は名刺を差し出し、葛葉も紹介した。
「ほう、探偵、姉妹で、ふうむ」
男性は二人を交互に見比べ、うなずく。
「私はマサトと申します。ご存じの通りしずくの父です」
玉藻はうなずく。
「本日お伺いしたのはしずくさんについてお聞きしたいことがあったので、直接お邪魔してしまいました」
「ああ、その件だが、探偵が捜査しているということは誰かが依頼されたのですか?」
マサトが玉藻に尋ねる。
「●●中学から依頼を受けました」
玉藻がそう答えると、マサトは頷いた。
「まあ、そうでしょうね。以前、あの学校の教頭からも話を聞かれたことがありましたから。何も答えられることはないとお断りしましたが」
そう言って俯き、マサトはため息を吐く。
「……しずくのことは忘れたことがありません。今でもこの現実を正直受け入れられない。私の中ではあの子はまだ生きているんです。だから、その………居なくなったという前提の話は、できません」
玉藻はマサトが手を強く握りしめていることに気づいた。
「承知しました。では、我々からは質問はいたしません。ただ、少しお願いがあります」
玉藻がそう言うとマサトは顔を上げた。
「なんでしょうか」
「まず一つ。こちらに見覚えはありますか?」
玉藻は学校で見つけた封筒を机の上に置いた。
「見せていただきます」
マサトはそれを手に取り慎重に確認する。
「中を見ても?」
「ええ、もちろん」
封筒の中から手紙を取り出し、文面を確認するとマサトの表情がこわばった。
「…………これは、おそらく、しずくの字です。どこでこれを?」
「●●中学で発見しました。我々もしずくさんの物ではないかと思い、本日お届けに上がりました」
「ああ、ありがとう。ありがとう」
マサトはしわだらけの手で、そっと手紙をたたみ両手で拝むように挟み込んだ。
しばらく目をつむり祈るような様子だったが、やがて眼を開いた時には、目元は充血していた。少し泣いていたのかもしれない。
「久々にしずくに触れた気がする。ありがとう」
「いえ、あるべき場所に戻しただけなので」
玉藻がそう答える。
「それで、実はもう一つお願いがあります」
「なんだろう。できることなら答えよう」
マサトがうなずく。
「しずくさんの私物やお部屋はありますか?少し見せていただけないでしょうか」
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