3章_届くことのない告白
3-1
●●中学には一つの噂があった。
「夕方18時になると少女の霊がでる」
ありきたりな怪談だ。だが、この怪談にはその前後に物語があった。
昔、「しずくちゃん」という女子生徒がいた。しずくちゃんは年上の先輩に恋心を抱いていたが、彼には付き合い始めたばかりの恋人がいた。
しずくちゃんはそのことを知ってはいたが諦めることはできなかった。
しずくちゃんは先輩に対してアプローチを続け、そして半年がたったころ……妊娠が発覚した。
そこからは様々なことがあった。しずくちゃんを孕ませた先輩はしずくちゃんの両親から堕胎費用と慰謝料を請求され、引っ越しと転校を余儀なくされた。
当然先輩とその恋人は別れたらしい。その後、先輩は引っ越し先の自宅で首つり自殺した。
一方、先輩と付き合っていた少女も不登校となり、数年後に自殺している。
しずくちゃんのことはクラスどころか学校中で噂となっていた。「先輩を寝取った上に妊娠した頭のおかしいやつがいる」「人気者だった先輩をたぶらかし、退学させたビッチ」などなど、デマも混ざってはいたが、ほとんど真実だった。しかし、数日後、しずくちゃんは何食わぬ顔で登校した。大勢の注目を浴びても一切気にすることなく普段通りにふるまったのだ。だが、それがかえって周囲を刺激してしまった。
翌日からしずくちゃんは壮絶ないじめにあう。
少し席を外すと、筆箱やノートをゴミ箱に捨てられた。
椅子に画びょうが仕掛けられていた。
机に卑猥な落書きがされた。
弁当を故意に捨てられた。
頭から牛乳をかけられた。
制服を着られた。
髪を切られた。
訳もなく殴られた。
レイプされた
誰の子かもわからない子供を妊娠した。
裸の写真が学校中にばらまかれた。
そして、しずくちゃんは学校に来なくなった。
学校側は当時の担任も含めて、いじめをなくそうと努力はしていた。しずくちゃんのために特別クラスを編成し、専属の担任も付けた。カウンセラーも呼んだし、いじめ加害者を取り締まろうとした。
だが、あまりにも数が多すぎた。学校中の生徒がしずくちゃんをサンドバッグと認識してしまっていた。それでもしずくちゃんは一回も、だだの一回も反撃も反論もしなかった。
沈黙を守った。
しずくちゃんの両親もしずくちゃんを守ろうと必死だった。しかしそのあまりの壮絶さに耐えきれず母親は自殺。
父は生活を維持することに必死で次第にしずくちゃんと向き合う時間が減っていった。
そして、信じられないことにしずくちゃんは再び登校を再開した。
普段通り登校する彼女を見て、周囲は驚愕し、そして恐怖した。一体どんな神経をしていればあそこまでされてまだ登校できるのだろう。考えられる限り、彼女の境遇は最悪だった。地獄と言っても過言ではない。それにもかかわらず、地獄を平気な顔をして歩いてくるのだ。
ほとんどの生徒は恐れおののき、彼女と接触しないようになった。
学校も、彼女の父親も安堵した。これで平穏な生活に戻れる。しずくちゃんはいじめに勝利したのだと。
だが、実際は違った。
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