2.5章_公式記録0531番_閻獄事件
2.5-1
報告書
本書は、当時現地にいた人物、実際に作業に当たった人員に対し、聞き込みと事情聴取を行った結果をまとめたのでご報告いたします。
記
事件名:閻獄事件
発生:一九■■年五月三十一日~同六月三日にかけて
場所:■■県■■■郡■■町■■■■付近
事象:■■県■■■郡■■町■■■■付近において突如局所的な災害が発生した。
・被害について
死者:住民七十五名/警察官五名/消防隊員六名
負傷者:十八名(今後も増える見込みあり)
内容:事件の詳細は以下の通り。
職人が手作りするそれはパズルのように複雑にパーツが組み合わさっており、特定の手順で側面をスライドさせたり押し込まなければ開けることができない。
世界的には十八世紀ごろから作られるようになり、日本においては江戸時代に初めて作成された。現在では主に箱根土産の寄木細工の工芸品として有名だが、その構造故秘密を隠す金庫のような目的で使われたり、封印を目的として製造されたものもある。
あるところに一つの絡繰箱があった。
それは手のひらに収まるほどの大きさだったが、表面には複雑に組み合わさった木目の模様があり、漆が塗られている。薄暗い忘れ去られた神社の小屋の中でも赤黒く鈍い輝きを放っていた。
後に判明するこの箱の名は
この箱を見つけたのは付近の村に住む10歳の少年だった。名を
彼は友人とともに付近の山に探検に入り、この神社を発見。神社は管理されなくなってから10年以上経過していた。
何か面白いものはないかと周囲を探索していた里吉が小屋を見つける。南京錠がかけられていたが木製の扉は風化しており、子供の腕力でもたやすく破壊できた。
内部は荒れてはいなかったが、物が多く物置として使われていたことが伺えた。
一見ガラクタの山だが、田舎で刺激に飢えていた子供たちには宝の山に見えたのだろう。
彼らは小屋の中を物色し、各々戦利品を一つ持ち帰ることにした。
古い巻物、木刀、今もなお美しさを保つ布地、古銭、一枚の奇妙な写真、そして閻獄。
何れの品もお祓いのため神社に預けられた曰くつきの呪物だったが、彼らが知る由はなかった。
そして、この小屋にあるすべての中で、最も危険である閻獄は里吉の手によって、村まで持ち帰られることとなった。
翌日_十三時四十四分ごろ
触って遊んでいた里吉の手によって閻獄が解放。
里吉の自室を中心として周囲およそ一キロが瞬時に消失した。
同、十四時五分には通報を受けた消防隊と警察が現場に到着するが展開された領域に足を踏み込んだだけで人が死んでいく。あまりの事態にその地域を管轄する知事は自衛隊の派遣を即時に決定。周辺を特別立ち入り禁止区域に設定した。
マスコミには地殻変動に伴う土砂災害と火山ガスの流失という内容で報道させ、真実については報道規制をかけた。
要請を受けた自衛隊は衛星写真や現地の警察や消防から提供された情報を元に被害状況を確認。原因の特定を試みたが失敗に終わる。
被害はあまりに局所的で、はっきりとしている。人為的に起こせる規模ではないが、自然現象や災害では説明がつかない。最も人々を恐怖させたのは消防の防毒マスクと酸素ボンベを装備しても、被害地域に立ち入ることができなかったことだ。放射線測定器も反応せず、よくわからないまま立ち入った人々が死んでいく。発生当時は規制線もなく情報もなかったため、数名の警察官や消防隊員が犠牲となった。
奇跡的に生還した隊員は錯乱状態となり、現在もまともに会話ができなくなっている。
ただの災害ではないことは明らかだった。
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