1.5-2
お金は無くなる一方だし、葛葉は徐々におかしくなっていく。葛葉の家出問題の原因となったお母様の一件も解決ではなく棚上げしただけだった。
「一先ず必要なのは仕事かな」
そう思っていると、事務所インターホンが鳴った。
「はい!ちょっとお待ちください」
慌てて玄関ドアの覗き窓で外を確認する。ドアの外には一人の青年が立っていた。
「
玉藻がそう言いながらドアを開けると、青年は少し引いていた。
「いや、アポってねーけど……」
彼は
「まあまあ、入って入って!ソファーにどうぞ!」
玉藻のテンションに面食らい、夢見月は入口で固まっていた。
「……紺右衛門さん、大丈夫っすかこの人」
思わず座っていた紺右衛門に尋ねる。
「暇すぎて困っておったのだ。相手してやってくれぬか?」
「…押忍」
夢見月は少し困った表情で頷いた。彼は紺右衛門を特にリスペクトしている。
夢見月がソファーに座ると玉藻は彼の前にブラックコーヒーのペットボトルを置いた。
「さあさあ、今日はどんな案件持ってきてくれたの!?」
「あ、いや、今日は姐さんが退院したって聞いたから。お見舞いみたいなもんす」
彼が差し出した紙袋には洋菓子の箱が入っているようだ。
「でも、なんか元気そうで安心しましたよ」
玉藻は倒れるように夢見月の向かいのソファーに座った。
「今元気なくなっちゃったけど……お菓子ありがとうね……」
ぐったりと座る玉藻を見て夢見月は怪訝な顔をする。
「そんなにヤバいんすか?あれだけテレビで報道されてたから、逆に大忙しかと思ってましたよ」
玉藻は先日事件に巻き込まれ大怪我を負いそれが全国ニュースとして報道されていた。
「確かに名は売れたんじゃが、探偵や術師としてではなく被害者としてじゃったからなぁ」
紺右衛門は今日は抹茶ラテを飲んでいる。最近のお気に入りらしい。最近玉藻は、白狐は糖尿病にはならないのかと少し心配している。
夢見月もコーヒーを一口飲んで少し考えた。
「……まあ、そういう事であればお話しできることも無くはないっすけど」
「本当!?」
「ただ、結構ハードすよ」
「教えて!」
玉藻は財布から二千円を取り出した。情報料だ。
「あざっす」
夢見月はそれを受け取るとポケットにねじ込む。
「じゃあ説明しますね。俺が聞いたのはとあるマンションの話っす」
それから夢見月の語る内容は不気味な話だった。地方にあるとあるマンションで自殺が多発しているのだという。その数、三年間で十件。異常な数値だ。警察も怪しんで調査などを行ったが、建物や住人に変わった点は無かったという。しかし、不幸は止まらなかった。
亡くなり方も様々だった。ベランダで首を吊ったり、屋上から飛び降りたり、手首を切ったり、練炭自殺もあった。そのたびに特殊清掃を行い、部屋は一時的に開くが、駅から徒歩一分という立地もあり部屋はすぐに埋まってしまうらしい。
同じ部屋で複数の死者が出たケースもあるが、場所は一見バラバラで、法則性は良くわからないらしい。ちなみに、うち一件は共用のエレベータ内で首つりをしていたとのこと。酷い話だ。
大家はお祓いや除霊も行っているらしいが、効果は見られないようだ。もう建て替えるか更地にした方が良いという意見もあるのだが、立てて四年しか経過していないらしく色々難しいらしい。
何度住人を入れ替えても別の住人が自殺する。部屋を清掃しても今度は別の場所で自殺が起きる。まるで終わりがない。
「それで、そのマンションを私が祓えばいいの?」
玉藻がそう聞くと、夢見月は言い淀んだ。
「えーと、それがそういう話でもなくてっすね」
「というと?」
「どうやら、そのマンション、人為的にそうなってるらしいんすよ」
「は?何らかの術式ってこと?」
「ええ、だから祓ってもすぐに汚染される」
「なんだってそんな邪悪な事を……」
「それで依頼としては、その犯人を見つけて殺してほしいって……」
「……うーん、なるほど。そりゃ無理だわ」
キュービック・ルーブは比較的どんな依頼も受けるが、殺し屋ではない。その真逆の探偵だ。
「しかも、そのレベルの術式を使う犯人は恐らく只者じゃない。関わるとこっちが危ない可能性もある」
夢見月は玉藻を見据えた。
「姐さんも紺右衛門さんも強いのは知ってますけど、この件はちょっと二人じゃキツイと思いますよ。ゆえにハードと忠告しました。」
玉藻は頷く。
「そうだね。ちょっと闇が深すぎる。その規模なら組織的な気もするし……」
全員が沈黙する。
「…まあ、無理はしない方が良いね。ちなみにそのマンションの住所だけ聞いてもいい?」
「え、まさか行くんすか?まあ、さっき報酬は頂いたんで教えますけど……」
夢見月はカバンからメモ帳を取り出し、住所を走り書きして玉藻に渡した。
「話しといてなんですが、辞めといた方がいいっすよ。流石に」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと色々あって首はあまりツッコまないようにしてるんだ。どのへんなのかなーって思っただけだよ」
「ああ、そうだ。それ聞きたかったんすよ。その色々って何があったんすか。姐さん刺されたって本当なんすか?」
夢見月は興味深々という様子で訊ねた。
玉藻は腕組みして考えるしぐさをした。それから少し意地悪そうに笑いながら人差し指を口元に当てた。
「……うーん、話してあげてもいいけど、これはオフレコね」
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