第20話 企み

人間どもが行き交う交差点で、彼女が今日も獲物を探しているのは知ってる。


ケイタは未だ己の力を蓄えている。


交差点の彼女のペットとして、彼女の従順な使い魔として、ケイタは生かされ、彼女の魔の力で邪悪に育まれ、ケイタは、悪魔に等しい力を手に入れた。


ケイタは彼女への思念の断ち方を学んだ。


そして、思念を力に変える事も出来る様になった。


彼女の邪悪で強大なパワーは吸収した。


もう少し…もう少し…。


ケイタが彼女に代わり、魔を束ねるものとして君臨する為にまだ力が必要だ。


彼女はケイタを疑って無いのか、ケイタを自由にさせている。


それとも、人間であるケイタを侮っているのか?


その隙を伺い、ケイタは彼女の弱点を探っていた。



彼女の名は「アザミ」…。


それが本当の名かどうかは誰も知らない…。


しかし、他の悪魔や使い魔はそう呼んでいる。


「アザミ」は、彼女の使い魔としてケイタを生かすにあたり、「アザミ」の事は、ケイタには何も教えない。  


当然である。


使い魔は…ペットは飼い主の存在さえ判ればいい。


ケイタは彼女の言う事だけを、しっぽを振って従っていればいいのだからだ。


ケイタは彼女を感じて、観察をした。


彼女の能力を見極める為に…。


ケイタの持つ「力」は彼女から受け継いだものだ。


思念を断ち切る事は出来ても、数百年と生きている彼女の「力」には、及ばないだろう。


ここ、横浜には魔を産み出す谷があると言う。


産み出された魔は、悪魔として、使い魔として、はたまた、怨念と交わり人々に隠れ、秘かに人間どもを貶める事に精を出す。


互いに魔は無関心である故に、互いの存在は知ろうともしない。


だが、数百年、存在している「アザミ」だけは別だった。


何故なら、彼女は魔らを統べるものだからだ。


街に漂う魔物らは、魔達を統べるアザミの事が、我等を気分ひとつで消さしさる者とし、怖れ慄くも疎ましく思っていた…。



ケイタは「魔」を産み出すという谷に降り、吐き出される「魔」を吸収した。


街へ繰り出し、暗躍している「魔」をそそのかし、彼女へ挑むように焚きつけた。


「みなでかかればアザミは滅ぶぞ…お前は足を、お前は腕を、お前は腹を食いちぎり、お前は首を切り離せ!擦ればお前達はひとつに合わさり、アザミに変わって王となれ!!」

 


ケイタの予想通り、「魔」はアザミには敵わなかった。


しかし、すぐには回復するものの、アザミの身体にも、傷をつけることは可能だと判った。



ケイタ…なんの悪ふざけだ?


彼女から思念が飛んできた…。


「いやー、お姉さん…暇つぶしになるかなって思って…流石はお姉さん…凄いですねぇ」



まぁいい…戯れもたまには良い…ただ、ほどほどにしとけよ…それより、私をもっと楽しませよ…人間どもを誑かせろ…。


「判ったよ。お姉さん…待っててね…」



ケイタは勤めていた広告代理店を退社し、ある代議士の秘書に潜り込んだ…。


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