第18話 略奪

人間どもが行き交う、横浜の交差点…。


交差点の信号機の上で、彼女は腰掛け待っていた…。


妬み、嫉妬、欲望の卑しい人間どもの、捻れた感情を…。



「何で私じゃ駄目なの?あの女はそんなに魅力的なの?私はそうは思わない…」 



信号機の上で、女の気持ちを感じると、彼女はニヤリと下卑た笑いを浮かべながら、フッと吐息をひとつ吐いた…。


吐いた吐息は、花に変わる…。


茎と葉に鋭いトゲの持つ、赤く暗いアザミの花に…。


アザミの花はゆらゆらと、女に近づき鋭いトゲが女に触れると、ずっーと消えた…。


まるで女の身体に融け込むように…。


そして、アザミの花が消えると、交差点の彼女も消えた…。




女は会社の同期の男と、結婚の前提でつき合っていた…。


来春には、互いの両親へ挨拶に行き、正式に婚約をする予定だった…。


「ねぇ、ご両親のご挨拶、このスーツでいいかしら?」


「服なんか普段着で大丈夫だよ。君ならきっとうちの親達も気にいるよ」


女は幸せを感じていた…。


そんな折に、あいつが横槍を入れてきた…。


あいつは一年先輩社員…。


彼氏と同じ歳で隣のオフィスにいる…。



彼氏が残業の時に、あいつは彼に言い寄った…。


そして、彼は誘惑に負け、あいつと関係を持った…。


彼は一夜のあやまちと、あいつから離れ様としたが、あいつは妊娠したと嘘をつく…。


女と違い、あいつは情熱的に彼に接し、揺れ動く彼の気持ちを更に揺さぶる…。


「ねぇ、あの女とは別れて…」


彼は女に別れを告げる…。



女は失恋の痛みで苦しんでいると、頭の中に誰かの囁やきが聞こえてくる…。



あんたが何で、彼を略奪されなきゃならないの?

 

あんたは何も悪いことはしていない…。


彼だってあんたを嫌っている訳じゃ無い。


あいつはただ、あんたをやっかんでいるだけだよ…。


妊娠も嘘…カッコいい男と付き合いたかっただけだよ…。


このままでいいの?


奪われたなら、奪い返しなよ…。


あいつみたいなクソ野郎は、消しちゃいな…。


殺しちゃえばいいんだよ…。



女の瞳が、赤く染まり、女はケラケラと笑い始めた…。


女は狂った…。


狂って狂って、笑い続けた…。



女はあいつの退社を待った…。


彼氏との事で話がしたいと、女は自宅アパートまであいつを連れ込んだ…。


女は睡眠薬を溶かした紅茶をテーブルに置いて言った…。


「彼を…返して…」


あいつは紅茶を飲み干すと、タバコに火を着け、女に言った…。


「あの人は返さないわよ!あんたは惨めに振られたんだから」


あいつは女を蔑み笑った…。


「お前が幸せそうだったから、ムカついたんだよ!」


あいつは女を嘲笑う…。



女の瞳が赤く燃えた…。


大量の睡眠薬が効いて、あいつは床に倒れ込む…。


女は用意した五寸釘で、あいつの両手と両足を床板に打ち付けた…。


ロープで手足を広げて、身動きを封じ、金槌を使い、手のひらと足首に一本づつ、床板に打ち付けた…。


コン…コン…コン…コン…。


痛みで目を覚まし、叫び声をあげるも、口にタオルを巻いた猿ぐつわにより、叫びはくもって押し殺された…。


女は手足に釘を打つと、あいつの首にロープを回し、少し開いた入口のドアノブに端を結んだ…。



女はケラケラと狂った笑いを隠しもせずに、入口の扉を蹴って閉める…。



ピンと張ったロープがあいつの首を少し延ばす…。


扉を開き、ドアノブにロープをもう一巻きする…。


女はまた、扉を蹴って扉を閉める…。


短くなったロープはあいつの首を更に延ばす…。


二度、三度と繰り返すと、釘で打ちつけられてる手足の肉が少しづつ削られる…。


「うううー!!」


構わず女は、少しづつロープを短くし、扉を蹴り続けた…。


あいつの首は、20センチほど延びて、白目を剝いて鼻からは血が流れている…。


狂った女は、横たわるあいつの身体に灯油を浴びせ、火を着け、ケラケラケラケラ笑いながら燃えるあいつを眺めていた…。


あいつを燃やす炎が床に天井に燃え移り、部屋中が炎に包まれても、女の狂った笑いは消えなかった…。



あはは…燃えた燃えた…。


みんな燃えた!


男を取り合う馬鹿な女をそそのかすのは楽しいね!


きゃはははは…。



彼女は下卑た笑いのまま、次の獲物を探す為、また、あの交差点へ戻って行った…。


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