第15話 双子


僻み、妬み、嫉み…。


人間どもが行き交う横浜の交差点…。


交差点の信号機の上に、邪悪な笑みを浮かべる女が腰を掛け、人間どもを欺き騙し、狂わせ堕とす快楽を糧とするのか、今日も獲物を待っていた…。



「エリを見習えだって?パパとママはわかってない!!」



信号機に腰を掛けていた彼女は、ニヤリと笑い、美少女と呼ぶにふさわしい、女子高生に向けて吐息をふたつ、フッフッと吐いた…。



吐息は赤く小さなアザミの花、茎と葉に鋭いトゲを持つ二輪の花に変わる…。


二輪のアザミはゆらゆらフラフラ、風に揺らいで少女へ近づき、鋭いトゲを少女に刺すと、少女の身体に融け込み消えた…。


交差点の彼女を見上げると、彼女もアザミの花と消えた…。



マリは一卵性双生児のエリを姉に持つ、女子高生である…。


小中高と一貫の学校へエリと共に通っている…。


マリとエリは両親でさえ見間違える程、瓜二つである…。


ほくろなどで見分けが出来れば良いのだろうが、それも見当たらず、幼年の頃は色違いのリボンで、最近では、マリは右耳、エリは左耳へ小さなピアスをつけ、親しい人には、それで見分けて貰っていた…。


マリはヤンチャで頭に血が登り安いが、人をすぐに信じてしまうお人好しな面もある…。


エリは、大人しく真面目な優等生で通っているが、ずる賢い所があるのは否めなかった…。


性格の真逆な双子のふたりの仲は、決して良くは無く、互いに反撥しあっていた…。


何故なら、両親、教師らの周りの大人達が事々く、マリとエリを比べるからであった…。


マリは、カンニングさえ厭わないエリの優等生ぶりと、小狡く(こずるく)大人達に立ち回り、大人達に称賛されるエリと比べられる事に、幼年期よりウンザリしていた…。


エリは、人気者で友達も多く、男子生徒にも連日告白されるマリを妬み嫌う様になっていた…。


「マリ!私の下着、穿くなって何度もいってるよね?」


「エリだって、あたしの服、着てるじゃん」


「マリ!また、転んだでしょ?あんたは落着きがなく、よく転ぶんだから、気をつけてよね!あんたが怪我すると私まで同じとこ怪我するんだからね!」


「エリだって、下手な癖に、いい顔して料理の手伝いとか言ってマヌケに指を切っちゃうのどうなの?いきなり、指が切れて痛いしびっくりするでしょ!」


小さい事で、いさかいは絶えない…。


それは、双子だからなのか、ひとりが傷を負うともうひとりも同じように傷を作ると言う不思議な現象も、いさかいの原因となっていた…。



そんな折、連日告白を受けるマリが、隣街の高校へ通う男子高校生に恋をした…。


勇気を振るい、マリは告白し、その彼と付き合うことになり、エリの嫌味も気にならなくなった…。




幸せそうなマリ…。


ムカつく…。


マリなんか、居なくなればいいのに…。



エリは彼氏が出来たマリを妬み、ある晩、こっそりマリのスマホから、彼氏の写真を盗み見た…。


マリになりすまし、彼氏に嫌われる様にさせる為だ…。



しかし、彼氏の写真を見ると、マリと同様に彼に恋心を抱いてしまった…。


エリは、隣の駅で彼を待ち伏せし、マリと偽り、彼と肉体関係を結んでしまう…。


自分は、マリでは無く、エリだと告げ、マリを捨て、私と付き合えと迫った…。


始めてセックスをし、のぼせ上がった彼は、エリを受け入れ、マリと別れた…。



エリのせいだ…。


マリはエリを呪う…。


エリなんか死ねばいい…。




始めて恋した男を、たぶらかし奪ったエリを殺したいとさえ、マリは思った…。



すると、マリからアザミの花が、一輪現れ、花はマリから飛んで行き、エリに取り付き身体に解けた…。



マリとエリの頭の中に、誰かが囁やく声が聞こえた…。



あんた達はふたりでひとり…。


元々ひとりがふたりに分かれただけ…。


どちらかが消えたら、ホントの自分だけが残るんだ…。


それはマリか?


それはエリか?



「それは私だ!!」


囁やく声にふたり同時に答える…。


ならば、あいつを消せ!


あいつを殺せ!


お前だけが残り、誰にも比べられる事は、無くなり、幸せを勝ちとれ!!


 

マリとエリの瞳が燃え、黒く深く狂気の世界へ堕ちていく…。



マリとエリはヘラヘラ笑い、互いに殺すことに執念を抱いた…。



放課後…誰もいなくなった教室でマリとエリは対峙していた…。


手には互いにカッターナイフ…。


ケタケタ笑うマリが、いきなりエリに切りつける…。


マリのカッターナイフはエリの頬に傷をつけた…。


ヘラヘラ笑うエリは、頬の痛みを感じずに、マリの頬をカッターナイフで切りつけた…。


互いに同じ、頬から一筋血を流し、互いにナイフで刺しあった…。


制服は血でまみれ、太腿はパックリと割れ、肉片が現れ、ふたり同時に、倒れ込む…。


ケタケタ笑うマリは這い、ヘラヘラ笑うエリに近づく…。


捲り上がるスカートの中から、血で汚れたエリのパンツにマリは手を掛け、づり下げると、薄っすらと生えた陰毛の陰に、エリの性器を見定める…。


そして、エリの性器へ人差し指と中指の二本同時に突っ込むんだ…。


「お前は処女じゃなかった事ぐらい知ってるぞ!そんなあそこで彼を奪いやがって!」



エリはマリを押し退け、マリの下着を剥ぎ取った…。


「お前、また、私のパンツじゃねぇか!私が彼にやらしてた時、お前も濡れていただろ?気持ち良かったか?」


エリはマリの性器へ二本の指を突っ込んだ…。


そして、指をくの字に折り曲げて、マリの膣を引っ掻いた…。



マリは、エリの顔を蹴飛ばし、エリの身体に馬のりになり、カッターナイフでエリの顔をバッテンに、何度も何度も切り付けた…。


まぶたの上から眼球と小さな可愛い鼻から頬にかけ、何本も何本も肉を裂く細い切り筋が、太さを増して、まるで赤色の太字のマジックペンで、顔に大きくバツを書いた様に見えた…。


顔を斬り裂かれながらも、ヘラヘラ笑うエリは、カッターナイフを逆手に持って、馬のりのマリの首横からカッターナイフを突き刺した…。


動脈を切断し、噴水の様に噴き出す血を浴び、マリはそのまま横に倒れた…。


エリもそのまま命が消えた…。



死んだマリの顔にはバッテン傷が、死んだエリの首からは、やはり血が噴き出していた…。



あははははは…。


あんだけそっくりな双子って、おんなじ所が怪我するし、おんなじ時に死ぬんだね…。


いや〜不思議だね…あはは…。



女子高生の殺し合いも楽しいね…。


やつらは単純だから、すぐに狂うしね…。




彼女は笑い続け、交差点へ戻った…。


そして、信号機に腰掛けた…。


しかし、邪悪な笑いは消えなかった…。

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