第13話 恋人



人々が行き交う横浜の交差点の信号機…。


その信号機の上に彼女は座っていた…。


ヤキモチ、ジェラシー、嫉妬…。


人間どもの心の弱みにつけ込んで、欺き騙し、狂った世界に誘って、狂人達を弄ぶ…。


「あぁ…やっぱりあいつの男は、俺だけじゃないんだな…いや、俺はあいつの男じゃなく、ただの都合のいいだけのやつなんだろうな…」



信号機の上の彼女は、ニヤリと笑い、吐息を吐いた…。


フッと吐いた吐息は、茎と葉に小さな鋭いトゲを持つ、赤く暗いアザミの花に姿を変えた…。


アザミの花は、ゆらゆらと、男に近づき鋭いトゲで男に刺すと男の身体に融け込み消えた…。


信号機の彼女を見ると、アザミの花と一緒に消えた…。




男は、生活に嫌気がさしていた…。


仕事を生き甲斐と勘違いし、金は貯めたが、女性を愛する気持ちも持たず、ただ、性を吐き出す為のみに、色んな女を渡り歩く、寂しくそして、ろくでも無い人生を歩んでいた…。



そんな男が恋をした…。


最初はその女とも、身体の関係だけで接したのに、何故だかその女が忘れられ無くなった…。


その女も、男の自分にすぐに身を任せた女…。


男は自分以外にも、沢山の身体の関係を持つ男がいるのだろうと判っていても、男は女に惚れてしまった…。


女から女へと渡り歩き、プレイボーイを気取っていたが、まるで初恋の相手に心を奪われたみたいに、猛烈に女にアタックをした…。


男は、女に会う為に女の都合に合わせた時間を作り、女の喜ぶ贈り物を渡し、女を毎日口説いた…。



その結果、男は女と長い時を一緒に過ごせるようになったが、それでも女の都合に合わせて、今夜は帰ってと、さよならを言われると、家路を戻らなくてはならなかった…。


そして、翌日、また女に会う為に、女が喜ぶプレゼントを探し、女の指定した時間に女の部屋をノックする…。


ベッドで抱き合い、事が終えると、女は何気に話し始める…。


「夕べさぁ、いきなり友達が来てさ、一緒に食事に行ったんだけど、まぁまぁだったから今度食べに連れてって…」


「うん、いいよ…。ってその友達って男?」


「うん、そうだよ、昔からの友達だよ…」


「ふーん、そっか…ならさ、今度、約束無しで俺も誘いに来てもいい?」


「駄目だよ、あんたは約束守るから好きなんだから…」


「ふーん…」


「怒った?あんたが一番好きなんだから、機嫌直して…」


「怒ってないよ…」


男は惚れた弱みか、女に嫌われたくなくて、言いたい事も我慢した…。


「明日も会える?」


「明日は無理。友達と約束があるから…」



友達って便利な言葉だよな…。



帰り道、自分が一番と言われる事に疑問を感じていた…。


「あぁ…俺はあいつの都合のいい男で、あいつの都合に合わせなきゃ要らない男なんだ…」


男はひとり愚痴た時に、頭の中に話しかける声を感じた…。



その声には、何故頭の中にと思わせない未知の力があった…。



あんたさぁ、あの女に利用されてんの判っているでしょ?


高価なバッグもジュエリーもみんな売ってるの知ってるでしょ?


その価値の分だけあんたと一緒に女は過ごしてるんだよ!


「そんなの判ってるさ…それでも構わないんだ…ただ…」


ただ、なんなのさ…。


「あいつの男達がみな、俺みたいなら、何にも不満は無いんだ。ただ俺と違い、あいつの時間を自由に使える男がいるってこと…プレゼントも無しでね…」


あんたは一番じゃ無いからね…。


一番になりたきゃどうする?


「どうにも出来ないよ…」


あんた、バカ?


一番の男がいなくなりゃ、誰が一番になるんだよ?



男は、瞳が赤く染まり、狂った歪んだ笑いが張り付いた…。



翌日、ヘラヘラと狂った笑いを消す事も無く、男は金槌を手に持ち女の部屋の玄関扉を、瞬きもせずに見つめていた…。




ひとりの男がやって来る…。



「あいつかなぁ?ホントの一番はあいつかなぁ?違ったら他の奴も殺ればいいか…兎に角、あの男は殺しちゃお…」



やって来て女の部屋のチャイムを鳴らそうとした時に、男は話しかける…。


「あなた、あの女の彼氏?」


「あぁ、あんた知ってるよ…あれの金づるじゃん…いつもありがとうね。俺も金が増えたよ」


下卑た笑いをあげ、彼氏と認めた男は言った…。


「あれが言ってたぜ。そろそろあんたはおしまいになるってさ…」



「ふーん、あの女に貢いで貰っていたんだね」



狂った男はいきなり金槌で額を殴った…。


ゴンと鈍い音がした…。


「あんまり良い音がしないんだな…つまんないな…」


殴られた男は、そのまま、床に倒れ込む…。


額を抑えて仰向けで唸っている…。



狂った男は横たわる男の股間にしゃがみ込み、横たわる男の股間を金槌で殴り続ける…。



ボコッ…ボコッ…グシャ…グシャ…グシャ…。


横たわる男のズボンの上から、男根を叩くと濁ったボコッと音がした…。


ズボンの上から、睾丸を叩くとグシャリグシャリと音が聞こえる…。



「あ!チンチン潰れて立たなくなったね…大丈夫!俺が変わりにセックスするから…」


男は股間を金槌で、叩き続ける…。


「あ!タマタマも潰れて精子作れないね…大丈夫!俺が変わりにあそこにぶち撒けるから…」


グシャ…グシャ…ドン…ドン…。


殴られている男は瀕死で、呻き声も出せなくなった…。


ドン…。


男の股間は潰れてぺしゃんこになり、腹から千切れて、薄い肉片となる…。


「チンコ無くなった…」


男は瀕死の男の額を殴った…。


金槌でゴツゴツ殴り、頭蓋骨を叩き割った…。


殴られた男は、脳漿まみれであの世へ逝った…。


殺しても叩き続ける男の背後に異変に気づいた女が立った…。



女に気づかず、叩き続ける男の背後で、刃渡り28センチの包丁を両手で握って、女は男のうなじに力いっぱい刺し貫いた…。



「あたしの彼氏によくも…!!」



刺した包丁はうなじから喉まで貫き、包丁の柄と刃先を喉から生やした、ホラー映画のゾンビのようになり、男は狂ったまま、地の底に堕ちていった…。

 



あはは…嫉妬に狂った男をたぶらかすのは楽しいな…。


嫉妬に狂うとあることないこと考えるからな…。


大丈夫…女は捕まり、刑務所の中でお前のとこまで、堕としてやるから、安心しな…。


こんな女に恋をしなきゃ、狂わずに死ぬ事も、無かったかもだけどね…。



彼女はまた交差点の信号機に戻り、糧となる次の獲物を探し始めた…。

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