第5話 嘘つき
人々の行き交う横浜の交差点…。
その交差点の信号機の上に彼女は腰掛け座っていた…。
信号機を見上げても、彼女の姿は見えないが確かに彼女はそこに居た…。
歳の頃は17くらい…ミニスカートにパーカーを着て美しい顔は天使の様…。
しかし、瞳は妖しく光り、獲物を狙う悪魔だった…。
歓び、幸せ、未来を信じ希望に満ちた人間どもまで、欺き騙して狂わせる…。
そして破滅に貶しめる…それがまるで彼女の糧となるかの如く…。
彼女は交差点の信号機の上で腰掛け座って狙っていた…。
「エイちゃん、大好き大好き大好き!」
交差点の信号機の上の彼女が、ニヤリと笑った…。
若い女を見つけて笑った…。
彼女はふっと吐息を吐いた…。
吐いた吐息は葉と茎に小さな鋭いトゲ持つ、赤く小さな花に変わった…。
暗く赤い小さな花は、人を欺くアザミの花…。
ゆらゆらフラフラ風に乗り、女の身体にトゲを刺すと、女の身体に融け込んで、アザミの花は見えなくなった…。
それと同時に彼女も消えた…。
「エイちゃん大好き…ハグして…」
「ダーメ…アユからしてよ」
アユはエイタと同棲し始めて半年過ぎた。
共働きながら、アユはエイタの為にに料理や洗濯と家事もひとりでこなす。
一途に思うエイタの笑顔が大好きである。
「エイちゃんとハグすると癒やされるー」
「うん…」
「ねぇ、エイちゃん…信じてるよ…あたしにはどんな小さな嘘でもつかないでね」
「うん…アユには俺、何でも話しているだろ?」
「うん、信じてるよ」
アユは、エイタの胸に顔を埋め、エイタの匂いを深く吸った…。
ふたりは若く、共働きとはいえ薄給を理由にエイタは週に三ヶ日は残業をしてくると言い、夜遅く帰ってきた。
遅い夕食を食べると、すぐに寝てしまい、アユを抱く事も無く、残業の日はアユは少し寂しかった…。
しかし、残業が無く、早く帰って来た時は、必ずアユを抱いて喜ばせる…。
休日にはふたりで出掛け、デートを楽しむ…。
夕刻にふたりで戻り四階の自部屋へ戻る前にハグをしながら非常階段で夕日を眺めるのが好きだった…。
「エイちゃん、大好き大好き大好き!」
アユの口癖になり、アユは幸せを感じていた…。
「エイちゃん…今日は残業だよね?」
「うん…」
「待ってるね、早く帰って来てね」
「うん…」
夕方になり、残業のエイタの為に少しでも美味しい物をと献立を考えていた時、エイタからラインが入る…。
いつものコーヒー屋で待ってて、少し遅れる。すぐにホテルへ行こ!
何これ?誰にラインしてるの?
エイタに返信する…。
エイタは慌てた…。
今日会う女と間違えてアユに送ったからだ…。
エイタは苦し紛れにまた、アユへラインを送る…。
サプライズだよ…ビックリした?今日、残業が急に無くなったから、たまにはアユとホテルでエッチしたいなって思ってね
見え見えのエイタの嘘にアユは腹がたった…。
エイちゃんの嘘つき!!
アユからのラインで急いでエイタは自宅へ向かった…。
アユの頭の中に声が聞こえる…。
しかし、頭の中に聞こえてくる声に違和感は無かった…。
あんた、騙されたね…またあの時の様に騙されていたね…。
「エイちゃんは違うって信じていたもん…」
でも騙された…馬鹿だな、あんたは…。
言い訳をしにエイタは帰って来るよ…
エイタを許すの?
許したって、エイタはまた繰り返すよ、あの日の男と同じだよ…。
素直に浮気を認めたら、許してあげる?
「うん」
でも、言い訳したら終わりだね…。
あんたは馬鹿だよ…許したら死ぬまで嘘をつかれるんだ…。
嘘が嫌なら、嘘つきは消そう…。
嘘つきは死ぬべきなんだ…。
アユはエイタを待った…。
頭の中の狂気と戦いながら…。
エイタは戻り、しどろもどろで言い訳をする…。
「ホントなんだって、浮気なんかする訳ないだろ?」
エイタのスマホに時間になっても来ないと、待ち合わせの女からラインが入る…。
「エイちゃん、ライン来てるよ…見ないの?」
「イヤ、見なくていい」
「なら、あたしに見せてよ!!」
「人のスマホ、勝手に見るな!!」
頭の中で囁やきがまた聞こえる…。
ほらね…言い訳ばかり…教えてあげるよ…残業だって言ってた日は、必ず女を抱いていたよ…馬鹿だな…嘘つきは嘘をつくんだよ…。
「もう終わりだね」
アユは飛び出し、非常階段の上で泣き出した…。
エイタが追って来る…。
エイタがアユにハグをしようと近づき両手を広げた…。
アユの瞳の色が変わった…。
「エイちゃん、死んで…」
アユはついに狂気に支配されて、エイタを強く突き飛ばす…。
驚きエイタはアユの服を両手で掴んだ…。
ふたりはもつれて、四階の踊り場から一気にコンクリートの地面に叩きつけられる…。
エイタは、首がボキリと折れて、脳漿が散らばった…。
アユは顔がコンクリートに削られて、目、鼻、口がポッカリ空いた何処かの島の爛れたお面の様になった…。
あはは…今回は、少し難しかったな…。
彼のラインの送り間違いは笑えた…。
でも楽しかった…。
横浜の人の行き交う交差点の信号機に、彼女はまた、戻り人間どもへ舌舐めずりをした…。
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