第4話 小学生


人間どもの願望、欲望が渦巻く横浜の交差点の信号機の上、彼女は行き交う人間どもの愚かな声を聞いていた。


今度の獲物を待っていた…。



「学校なんて行きたくないなぁ…転生して勇者になって冒険がしたいなぁ…」



彼女はニヤリと笑うと吐息を吐いた。

 

吐息は赤く小さな花に変わる…。


葉と茎に小さな鋭いトゲがある、アザミの花に吐息は変わった…。


赤く小さなアザミの花は、ゆらゆらフラフラ幼い少年に近づくと、少年の身体に小さな鋭いトゲを触れさし刺すと、花は身体に融け込んだ…。


信号機を見上げると彼女は霧の様に消えていた…。



少年は学校へ着くと、4年4組の教室へ入った…。


自分の席の前まで来ると、ランドセルを降ろして机のフックへぶら下げた…。


クラスメイトの児童達は、皆、お行儀良く席についている…。


少年の身体からアザミの花が現れると、赤く小さな花は綿毛に変わって、ゆらゆらフラフラ飛び散って、クラスの児童達の身体に触れると身体の中へ入って行った…。


チャイムが鳴り、担任のキョウコ先生が教室へ入って来た。


独身の綺麗な先生だ…。


おはようございます!

おはようございます!


ホームルームの時間である。


「今日は皆さんに大切な話があります」


担任のキョウコ先生の話は、父兄参観日の連絡、話だったが、各児童に取り憑いたアザミの花は、先生の話す言葉を偽り変えて、生徒児童を欺いた…。



今日の給食の後、このクラス皆が、異世界へ転生される事が政府の話し合いで決まりました。

教室の中にいる生徒は、一度死ぬと光に包まれ、転生出来ます。

勇者や魔法使い…他の職業になって、修行をし、冒険をしましょう…。


アザミの花がキョウコ先生の声で皆に伝えた転生は、児童達は誰ひとりとして疑う事なく、目を輝かせた…。


午前中の授業は、アザミの花の囁やきで、狂気の世界の扉を開き、児童皆が狂っていった…。



ねぇ、君達…異世界へ行けるなんて素敵だね…。


君は誰になりたいの?


癒しを与える僧侶かな?


全てを焼き尽くす魔法使いかな?


世界を救う勇者かな…?


そうだ!子供だけだと心配だね?


キョウコ先生も連れて行こうよ…。


最後の給食を食べた後、皆で遊びながら皆で死のうか?


やり方は私が後で教えるからね…。


児童生徒は皆頷いた…。



いただきます!

いただきます!


児童達は急いで給食を食べた…。


この後の「遊び」を早く楽しみたいから…。


食べ終えた児童のひとりが、習字で使う棒状の文鎮で、背後に立ってキョウコ先生の頭部を殴った…。


先生は気絶する…。


4人で引き摺り教壇の前に寝かせ、手足を抑えると、教壇の上によじ上がった児童達が次々と順番に笑いながらキョウコ先生の上に飛び降りる…。


腹へ、胸へ、喉へ…列を作り途切れ無く、順番に飛び降りる…。


児童が8人、手足と頭を抑え込み、キョウコ先生は身動きできず、うめき声をあげるだけ…。


飛び降りる児童の順番が三廻、四廻りと過ぎて行くと、うめき声さえ無くなって、キョウコ先生は骨と内臓を潰されて、血を吐き息を引き取った…。



さぁ、みんな、シャーペンは持ってる?

ハンカチは持ってる?


児童達は狂った瞳で片手を挙げた…。


じゃぁ、出席番号1番から5番の男子にシャーペン渡して…。


次は仰向けに寝て、ハンカチ丸めて口の中に押し込んだら目を閉じて待っててね…。


シャーペン持ってる男子は目を閉じた子の首の真ん中にシャーペン刺して、その後踏んづけて奥まで刺してあげてねー。



死を待つ児童達にアザミは囁やく…。


早く死んだ人から、好きな職業になれるからね…あなたは魔法使いかな?  


児童は次々死んで行く…。


日直、まだいる?


ひとりの少年が手を挙げる。


先生の筆箱から、カッターを出して、残った4人の首を切って…。


首の前と首の横を切るとうまく行くからね…。


4人の児童はワクワクしながら首を切られるのを待つ…。  


切られると血飛沫を吹き出しながら、恍惚の瞳で息を引き取る…。



君ひとりになっちゃったね…。

でも、大丈夫…君は勇者になるからね…。


縄跳びの綱を出して、窓と窓の間にしっかり結いて、残りは首に巻きつけて、窓から外に飛び降りて…。


こうして担任ひとりと児童19名は狂ったままに旅立った…。



あはははははー。


ガキは素直で良いね…。


皆が素直に狂って死んだ…。


転生できると信じて逝った…。


あぁ…楽しかった…。  



横浜の交差点の信号機に、彼女はまた座って唇を甜めた…。

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