第13話 成長


「――という一件が今回の全貌です」


 ドラゴンが襲来事件が無事解決した後、エリナがウサギ族とドラゴンを屋敷に招き入れてお話をきいている間、ニコラは両親に今回の件を報告していた。


 いくら死傷者が出なかったとはいえ、圧倒的存在であるドラゴンの襲来はだれも予

想ができるわけではなかった。


「はぁ、相変わらずエリナさんの交友関係には驚かれますね」


 アイラ王女がそう言うと皇帝も言葉には出さないが頷く。


 彼女が亜人族に好かれているとはいえ、あのドラゴンまで仲が良いのは異常としか言い様がない。


 魔族を統べる魔王に匹敵するほどの力を有しているといわれる黒竜ヴォルティス。


 古い文献にはその名がしるされているが、実在するとはこの日が来るまでだれも信じてはいなかった。


「まあ、エリナ様は……ボクよりすごい方だと思いますよ」


 ニコラは自分の無力さに苦笑を漏らす。


 彼女を守らないといけないと頑張っていたが、自身より遙かに強い人たちと仲が良かったら意味がないと感じていた。


エリナのことが好きだからこそ、王国の一件を知った時は怒りを隠せなかったし、もう二度と同じ目に遭わせたくないと誓っていた。


「ニコラ、あなたはそれで諦めるのですか?」


 アイラ王女は母親として問うた。自分が生んだ子供が故、何を悩んでいるかなんてお見通しだった。


「諦めたくありません。ボクはエリナ様が本当に好きなんですから!」


 彼がエリナを好きになった理由は至極単純ではあるが一応あった。


 それを知っている二人は、自分の息子が悩みながらも成長していることに喜んでいた。


 ニコラは元々引っ込み思案で、他人と会話をするのが苦手な人間であった。


 そのため、他の同年代の子供からは表では崇められるも裏では陰口を叩かれているのも知っていたのだ。


 しかし、それを咎める勇気がないくらい他人に優しいが、アイラ王女からしてみれば嫌われることを何よりも恐れていると指摘されている。


 そんな彼がエリナが追放されると聞いた時は、人が変わったかのように保護を進言にくるなどの成長が見られた。


 父親に説明を求められた際も、いつものように小さな声ではなく、はっきりとした声で理由を説明するだけではなく視線も前を見据えていた。


 とは言っても息子が進言するくらい前から、エリナの保護は決定しており、丁度ニコラにも伝えようとしていたタイミングで来たので手間が省けただけだった。


「それならば、貴方はエリナの傍にいないといけませんね。ね? あなた」


「そうだな。好きになった以上、その気持ちを貫き通せ! 早く行くが良い!」


「はい!」


 王の間を後にする息子の後ろ姿は、昔以上に大きく成長していると同時に自分たちの元を飛び立つ準備をしているようにも感じられ、嬉しくもあり寂しくもあると両親は温かく見送っていた。

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