第12話 襲来
「エリナ様!」
「え……? ニコラ様?」
私は寝ぼけ眼をこすりながら血相を変えてこられたニコラ様に質問する。
なんとも可愛らしいパジャマを着ていられますが、まだ早い時間なのか頭がぼんやりとしていて聞けませんでした。
それにしても、迎えに来るにしては早いような気がしますがどうしたのでしょうか?
「大変です! 帝国の上空にドラゴンが現れたんですよ!」
「ドラゴンが!?」
そういえばニコラ様が来る前から、鐘を鳴らす音が聞こえていましたけれど、どうやら帝国の上空に大型のドラゴンが飛翔しているらしく避難のために呼びに来られたらしいです。
そもそもドラゴンといえば、ここから遙か北にあると言われる孤島の山に住み着いているといわれ、こちらに来ることは本当に希でたまに上空を通り過ぎることはありますがここまで大事になるのは初めてです。
「とりあえず、市民の方々は各個人の地下に避難所がありますので! ボクたちは王城に来るよう言われているんです!」
「それはいいですが、ドラゴンが襲ってくるなんてなかったですよ? それがどうして急に?」
私たちは服装はそのままで王城へと向かいます。
屋敷を出ると武装した騎士が駐在しており、私たちの姿を見るや四人くらい側に来て護衛をしてくれるそうです。
馬車などを用意したいそうですが、生命の頂点ともいえるドラゴンに怯えてしまい動けない状態だと報告を受けました。
「あれがドラゴン……」
ニコラ様の言っていたとおり、帝国の遙か上空にて旋回している一匹のドラゴンが見えました。
私が王国の上空で見た以上に大きくその存在感を嫌と言うほど感じます。
それにしてもドラゴンは旋回しているだけで、こちらに降りてくるとか攻撃をしてくるわけではありません。
「母上の結界があるから入ってはこれないと思うのですが、どうにも怪しくて騎士団にも現状は待機命令を出しているんです」
「そうなんですね……」
私たちは護衛と共に城へと向かいながら動向を気にしていました。
どうやらドラゴンが入ってこれないのは、王女様の結界のお陰と言いますがそれにしてもさっきからうろうろと飛んでいますね。まるで、何かを探しているみたいな感じがしてとても気になります。
すると、ドラゴンが急に止まったかと思いきやこちらに向かってきました。
咄嗟のことなので、私たちはその場をすぐに動けず立ち尽くすだけでした。
目の前に降り立ったのは、あら鉄みたいに黒いたくましい体に、金色の目を輝かせ、生暖かい鼻息を浴びました。
護衛していた騎士は剣を抜き、私たちの前に立って臨戦態勢に入りました。
ニコラ様も持参された武器を持ち、私を背に隠していつもとは違う雰囲気を身にまとっておりとてもかっこよく見えます。いくら精鋭の騎士や『勇者』の加護を持つニコラ様いえど、相手は災厄とも称される怪物です。
どうか、ニコラ様も皆さんも死なないでほしいです……。
「ほう、人の身でありながら我に挑もうとする心意気は素晴らしいぞ」
ドラゴンが喋った!?
「は、話が通じるのですか?」
「ふむ。この国の王子か。以下にも貴様等の言葉は理解できておるぞ」
まさか、ドラゴンが言葉を話すとはだれも思ってもいなかったでしょう。
今まで接触する機会がなかったのもあり、これは予想外の展開といえます。だからといって、騎士やニコラ様も武器を納めるつもりはなくドラゴンの些細な動きに注視していました。
当然、相手が話せるとはいっても敵意がないわけでもありませんので警戒心を更に高めるのは間違った行動ではない。
「そう身構えるな。我がここにきた理由は攻撃ではない」
「ならば、どういった理由でここに来たんですか?」
「ああ、お前の後ろにいる娘に用があって来たのだ。しかし、この姿では警戒されるのも無理はない。少し待っていろ」
そう言ってドラゴンの身体がみるみると小さくなったかと思いきや、私たちと同じ姿になって佇んでおりました。
鱗と同じような色の撫でつけ髪をしていて、服装は僧衣を身にまとっている。
見た目はどうでもよく、ドラゴンが人になれること自体が驚きでしょうがなかった。
「違和感はないだろうか? ひさしぶりに人化したものだから勝手が分からなくてな」
「わざわざ人になってまで彼女に用があるんですか?」
「ああ、用があってきたのだ。して、娘よ。我のことを覚えておらぬか?」
「え?」
ドラゴンからそう問いかけられると、騎士やニコラ様が一斉に私のほうを見た。
覚えているかと言われても、私にはドラゴンの知り合いはいない。
わざわざ人になって頂いたけれど、誰かと勘違いされているかもしれません。
皆さんがじっと私を見てくるので、とりあえず質問を質問で返すのはまずいけれど、相手の名前や私とどこで会ったかを聞かなければなりません。
「その、あなたはどちら様でしょうか? 大変申し上げにくいんですけど覚えていなくて……」
「む? ああ、あのときはフードを付けていたからな。ほれ、これなら分かるだろう」
フードを被った途端に私はその姿を思い出しました。確か、“お姉様”と一緒に会いに来られた方にそっくりだったのです。
「ヴォルティスさん!?」
「ひさしぶりだな娘よ。その様子からして元気ではあったか」
「エリナ様? 知り合いなのですか?」
「一度、“お姉様”と共に来られた方です。お話するのは初めてなのですが」
ヴォルティスさんは、“お姉様”の付き添いで一度お見えになられた方で、そのときは一言も喋らずに佇んでいるだけでしたが覚えてくれていたとは思いませんでした。
確か、孤島で獣人族を束ねる王と聞いてはおりましたがそのような方が私に一体何の用でしょうか……。
「その、本日はどのようなご用件で来られたのですか?」
「そうだった。実はな、とある部族と交易をしてもらいたく来たのだ。お前が住んでいた王国にも行ったが魔力が感じられなくてな。仕方ないのでしらみつぶしに飛んでいたら痕跡を見つけたというわけだ」
「な、なるほど……」
けらけらと笑い声を上げられていますが、このような事態を引き起こした張本人と自覚して頂きたいと同時に私のせいでとんだご迷惑をおかけしたと謝りたいくらいです。
聞くのが怖くて無視しましたが、王国にまで行ったとなるとあっちはここ以上に大変なことになっていますね。
私のせいにされないのを祈るしかありませんが、とりあえずはご用件を確かめねばなりません。
「それでどなたと交易をすれば……?」
「引き受けてくれるのか。待っておれ」
パチン、と指を鳴らした途端、長い耳を頭に生やした女性が何もないところから現れました。肩までの白髪に蒼い瞳をしており、本人も何がどうなっているのか分からないのかあちこち見ています。服装は結構きわどく騎士やニコラ様は目を背けています。
「え? え? ここは? あれ? あ、ヴォルティス様!?」
「落ち着け。我の転移で連れてきただけだ。お前達の望んでいた少女はあっちだ」
「あちらにいる方が、エリナ・ノワード様というかたですか?」
「そうだ。あの娘に聞けばお前達の悩みを解決されるかもしれんぞ」
すみません。お二人だけでお話を進めずにこちらも巻き込んでください。
「えっと、貴女はだれでしょうか?」
もうこうなっては仕方がありません。私はニコラ様達から離れて、ヴォルティスさんが連れてきた女性に話しかけます。
「は、はじめまして! 私はニニと言います! ヴォルティス様が住まうオードスト島に住んでいるウサギ族です! 今回はエリナ・ノワード様にお願いがあってきました!」
「お願いですか……?」
「はい……交易と言うよりかは貴女が持つ『調律』で私たちを救ってほしいんです!」
「え? それはどういうことですか? とりあえず、私の屋敷がすぐ近くなのでそこでお聞きしますね」
帝国の危機はこれにて解決した。騎士やニコラ様は皇帝に事情を説明してくるということで、一旦別れて私はニニと言うウサギ族を屋敷に招き入れて詳しい説明をして頂くことにした。
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