第11話 雑談

「と、言うわけでこれからよろしくね!」


「ええ、ミシェルよろしくね」


 色々と大変なことはありましたが、トレーフル様とのお話も無事に終わり、新たな地区に住むハイエルフ第一号はミシェルになりました。


 理由に関しては、『孫娘は将来族長を継ぐのだが、このように世間知らずもいいところなので勉強と称して置かせてもらいたい』と希望があったからだ。


 当の本人は森で暮らす生活にも飽き飽きしていたそうで、タイミングとしてはバッチリと語っていた。


「それにしても、エリナの元婚約者がムカつく」


「まあまあ、私もこうして無事にいられているから」


「そうだけどさ~。だけれど、ムカつくのには変わらないわ」


 ニコラ様は王女様に呼び出されたので、現在は城に召喚されており、私たちは屋敷にて今後の打ち合わせをしていながら王国内の事件を振り返っていました。


 ミシェルも相当頭にきているのか、口を開けばローベル殿下の悪口ばかり。


 言いたい気持ちはすごくわかりますが、こうして二人で話をするのもひさしぶりなのでミシェルの話を聞きたかった。


「ミシェルは今までどうしてたの?」


「どうもこうもないわ。お爺ちゃんにこき使われるし、結婚する気もないのに変な見合い相手連れてくるとかで大変だったよ」


「え? お見合い?」


「そうよ。私より弱いくせに一丁前にお爺ちゃんに直談判してきてさ、私は結婚する気なんてさらさらなかったから返り討ちにしてやったわ」


 用意したお菓子をかじりながらだらだらと愚痴っぽい小言を言う。


 彼女は次期族長を継ぐ予定であり、彼女に気に入られようと多くの男性が挑みにくるそうだ。


 お互い好意があればそのまま結婚となるが、もし相手が拒否をした場合は決闘になる。


 しかし、天才的な魔法の素質を兼ね備えた彼女に勝てる者はおらず無策に戦いを挑んでも勝ち目はないのだ。


「相変わらずね」


「そう? 私はしばらくは自由に過ごしたいの。伴侶がいたら邪魔になるんだもん。それよりも、エリナはあの変わった王子様と婚約するの?」


「え……?」


「いや、あの可愛い子がずっとあんたを見ていたからさ」


 ミシェルに言われて思わずドキッとしていまいました。


 ニコラ様からも返事はしばらく良いとされていますが、こうして改めて聞かれると返答に迷います。


 まだお会いしたばかりではありますが、ローベル殿下と比べたら失礼ですけどとてもお優しい方と思われますよ。


 だからと言って、すぐに結婚するのかと聞かれてもまだ正しい答えをいえる状態ではありません。


「まだ、それは決めてませんね。良い方とは思いますが、それでもあんなことがあったばかりなので……」


「それもそっか。良いのよ、真剣に考えなくてもさ。私は友人としてあんたが心配なだけ。それだけを分かってくれれば良いからさ」


 彼女は今ぽっと生まれたかのように美しく微笑む。


 王国では上辺だけの関係ばかりでしたが、こうやって自分のことを考えてくれる人がいるのはどれだけ心強いのか実感します。


 最初のころは、私に対して高圧的な態度で接してきましたが、徐々に彼女の悩みとかを聞いていたら親近感が湧き、いつの間にかこんな風に言い合える仲になりました。


「しかし、まさかここの区画を私たちが住みやすい環境に変えるなんて、エリナの加護はやっぱりすごいものじゃない!」


「そうですか? まだ微調整は必要ですけど、ミシェルが太鼓判を押してくれるのは心強いよ」


「私たちは基本は魔力マナが濃いところに住んでいるから余計によ。私も初めて王国に行った時なんて、『人間ってこんな薄いところで生活しているけど大丈夫なの!?』って驚いたし」


「私たちはどちらかというとあれが普通なんだよ」


 帝国の騎士団に協力を要請し、区画の角に私が魔力を込めた鉱石を設置してもらうことにした。


 流石にこれだけの広範囲に『調律』は難しいと相談したら王女様から提案された内容でした。


 設置した鉱石は魔力を込めると依り代になってくれる特殊なものらしく、私が加護を発動させたら依り代を柱としてここ一帯を最適化するできるという仕組みである。


「あの鉱石ってミシェルは見覚えある?」


「ええ、あれはドワーフが採掘したっていう変わったものらしいわ。私たちの森にあれと似たような木があって、それを柱として結界を張ってるとお爺ちゃんが言っていたかな」


「そうなんだ。私たちの国はそんな結界とか張っていなかったし」


「この国の壁にも同じようなものが組み込まれているわよ。多分、それを応用して王女様が特殊な結界を張っているんだとおもう」


 空を見つめるミシェルにはおそらく何か見えているのだと思います。


 結界を探知するには魔力に触れている人ほど感じやすいですが、そうでない者は『少し居心地が良い』と感じるくらいの程度です。


 私もはっきりと見えているわけではないけれど、入国時に柔らかい何かに入り込んだような感覚はありました。


「ま、流石聖女様ではあるわね。おそらく悪しき者は入れないようになっているわ。それでも、魔族を治める魔王や強大な力を持つ者には数分持つか程度に過ぎないけど」


「そうなんですか。アイラ王女様で数分って……私の妹だと一瞬……」


「何、あのいけ好かない女が聖女なの? すごいイメージからかけ離れているんだけど」


 ミシェルはひきつるような微笑を片頬に浮かばせていました。


 それもそのはず、妹のミレーヌは正直言うと聖女にふさわしくない人だと思います。


 しかし、女神様が彼女にそれを授けた以上はあの子は聖女であるのは間違いないのですから。


 どのような基準で選定しているかははっきりしてませんが、ミシェルが微妙な反応を見せるのも分からなくありません。


「はぁ、女神様も中々良い趣味しているわね。あんな馬鹿を聖女にするとかとち狂っているんじゃないの?」


「こら。女神様の悪口を言ったらいけませんよ」


「だって事実じゃない。あんたが『聖女』と言われた方が納得できるわよ。それにしても、お爺ちゃんですら知らない力って……『調律』って何で授けたのかしら?」


「私が知りたいですよ。帝国の保管書にも記載されていませんでしたし」


 王女様の計らいで、ニコラ様と共に帝国の禁書庫にて『調律』について書かれている文献はないかを捜していました。


 帝国には数多くの文献やまた、加護についての書物など様々なものが保管されており、全部読もうとしたら何年かかるか分からないくらい魅力的でした。


 特に重点的に調べたのが物珍しい加護が書かれた文献です。


 そこには大昔に現存した加護が記されていましたが、それでも『調律』については何一つ書かれていないなど収穫はありませんでした。


「うーん、エリナが初めて授けられたのなら記録にないのは分かるけれど、私のお爺ちゃんが知らないのは不思議ね」


「加護も巡り回っていると言われていますから、私の加護も過去に誰かが使っていてもおかしくないと思うんですけど……」


「私の方でも調べてみようかな」


「良いの?」


「うん、友達が困っている挙げ句そんな意味の分からない加護を持っているのも嫌でしょ?」


 得たいのしれない加護を持っているのは確かに良い気分がしない。


 自分に授けられた力ならばきちんと知っておきたいのが本音だった。


 こうして、ミシェルは一旦森に戻ることになった。


 そんな時間はかからないと言っており、私はご厚意に甘えることにした。ちなみにどうやって森へ帰るのかと尋ねたら、『転移魔法を使えば一瞬よ』と簡単に言われたのが一番の驚きでした。

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