第15話
(……とは言ったものの、野菜を調達するアテはあるのか? まさか無策じゃあるまいな)
俺が疑問に思っていると、黒髪ギャルが得意そうに鼻を鳴らした。
「アテもなく提案しないわ。近くに農家があるらしいから、そこで分けて貰うのよ」
「もともとそっちに向かってたんだよね~」
金髪ギャルがのほほんと相づちを打つ。そういえば道に迷ったとか言ってたっけ。
「野菜だけじゃなくて、ニワトリとかも育ててるらしいよ~」
「やきとり……親子丼……じゅるり」
「あくまで目的は野菜だからね。ほら、アイ。ヨダレ垂らしてないで地図出して」
「へぇ~い☆」
黒髪ギャルの指示を受けて、未練たらたらの赤髪ギャルが懐からスマートフォンを取り出した。踊るような指捌きの狭間、ちらりと見えた画面の上で地図アプリが起動する。
(……カップメンの作り方は忘れてたくせに、電子デバイスは扱えるんだな)
おそらく生前の習慣が成せる技だろう。滅亡前の人類は平均八時間──日の三分の一をスマホの操作に割いていたというデータを見たことがある。恐ろしい話だが、そこまでくればもはや人体の一部と言っても過言ではない。記憶を失くしたからといって、呼吸を忘れる生き物はいないのだから。
(しっかし、スマホなんてどこで手に入れ──)
よく見ると、赤髪ギャルが使っているのは、俺がラボに置き忘れてきた改造スマホだった。
(……なぁ赤髪ギャル。そのスマホ、どこで拾ったんだ?)
「これ? てんてーの研究所に落ちてたんだよね♪ ロックも掛かってなかったし、ちょうどいいから持ってきちった☆」
(ふ、ふぅぅぅぅん……)
マズい。非常にマズい。あのスマホには俺が
「あ! これてんてーのスマホか☆ いっぱいあったモル写真の謎が解けたわ♪」
──神よ、なぜこのような恥辱をモルモットに課すのです。
男の浪漫を暴かれた俺は、金髪ギャルの胸に埋まり消え入るようにむせび泣いた。
「マウスくんも男の子だねぇ~」
「まぁまぁ☆ 〝旅の恥はかき揚げ〟って言うじゃん? てんぷら食べればハズいことも忘れるって♪」
(いろいろと間違っとる!)
「……どうでもいいけど、さっさと地図を見せてくれない?」
「あ。アイちゃんに任せるとまた迷っちゃうから、マウスくんも手伝ってね~」
踏み躙られた男心を癒す暇もなく、俺は黒髪ギャルと地図を読み解き道先案内する羽目になった。
旅を始めて一刻足らず。もう研究所に帰って寝たい。
(……そういえば。地図アプリが使えるってことは、データセンターが生きているのか?)
研究所でスマホを使っていた頃は深く考えなかったが、いまの世界の通信インフラはどうなっているのだろう。
もしかして、SF映画のようにAIが自立行動でもしているのだろうか。もしそうなら少しワクワクする。
そんなことを考えながら、俺たちは新緑の丘を後にした。
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