第四十七話 ダンジョン突貫

「なんですかここ!?」


デュオは初めて入るダンジョンに驚いている。


「…深いわね」


正直私もこんなにダンジョンが育つものだと知って驚いていた。


「もう…!完全に異界を顕現しているじゃありませんこと!」


「久しぶりに入ったけどこれは随分壮観な事になってるねぇ…」


まるで高い山から見下ろすような光景。一応洞窟だからなのか遠くは暗くて視認出来ない。そして眼下に広がる雲、その切れ間から覗く遠く最深層には都市の光が瞬いていた。麓までは二十キロ以上あるのではないだろうか?

それがこのクンヤンダンジョンだった。


入り口近く浅層は巨大な火口のようになっており、探索者お嬢様の欲望による全力採掘によってカルデラ彫りとなっていた。更に所々横道を掘り進めスポンジ状のダンジョンになっているようだった。此処は彼女らの底なしの欲望によって元の形とは全く別のカオスなダンジョンが生成されていた。


そして私達はカルデラ内部ではなく外側の山の傾斜を巨大ロボで滑り降りていた。

三倍お嬢様シャーロットはダンジョンに入ってすぐ巨大ロボを『取り出した』

全高二十メートルはあるのあろう巨大なロボットにシャーロットは搭乗した。


「なんなんですの!なんなんですのこれは!!」


サンディは怒っているのか喜んでいるのか分からないが随分ハイテンションだ。

私がサンディのあたおかさに戸惑いを覚えるのはいつもの事だが、コイツが同様の驚きをするのは初めてな気がする。


「ACなんですの!?ACなんですのこれは!?」


広告機構?サンディは相変わらず意味不明な単語を口に出す…彼女は明確に私とは違う異世界から来たのだろうと感じる。これはロボットだからガンダムだ。そして肩には「⑨」というエンブレムが刻印されていた。「⑨」とはバカの隠語だ。なるほど流星のシャーロットもエンブレムの通りバカなのだろう。わかる。


「おーっほっほっほ!ダンジョンにはダンジョンのルールがございましてよ~!」


相変わらずよく響く美しいソプラノ声で声高に叫ぶ三倍お嬢様。

ロボットの片手に私たちを乗せ、相対的に小粒に見えるモンスター共を相手に正確にマシンガンを当てていく。瞬きの間に血煙と化す友軍を見てモンスター共の戦意は一瞬で萎え逃げ惑う。そして逃げるモンスターにも確実に弾丸を当てて粉砕していった。

そんな中、前方に比較的巨大なモンスターを視認する。とはいえこのロボットの半分位の大きさの象のようなモンスターだ。大きな咆哮を上げたようだが巨大な光輝くビームサーベルを顕現させ一刀の下に薙ぎ払われる。真っ二つになり爆裂四散する巨大モンスターに一瞥もくれる事もなく、シャーロットは大地を蹴りバーニアを吹かせ山体を滑空していく。視線が高くて分かりづらいが時速二百キロくらいは出ているだろう。そして滑空してる間も的確にマシンガンをばら撒き血しぶきを量産していった。


「…なにこのロボット?」


「ACですわ!!ACですわよ!!!!」


サンディがうるさい。


「異界の技術の塊です。ダンジョンを顕現させ固定化している力を流用し異界の技術をそのまま使用しているんです」


ティーラ姫が説明してくれた。


「ダンジョン外…「ボクらの世界」でも使用自体は出来ると聞いていますが、ダンジョン外ではこちらの世界のルールに縛られてしまい、動きや出力、弾薬等に大きく制約を受けてしまうと聞いています」


なるほど、ようするにダンジョン内だけで百パーセント使えるロボットなのか。

正直この殺戮機械キリングマシーンの性能を見たらダンジョン最強というのも頷ける。ただの巨乳痴おっぱいミサイル女かと思っていたが、これは認識を改めないといけない。

麓まで皆で歩いたら相応に時間がかかると思っていたが、このロボットのスピードなら驚くほど速く到着出来るだろう。


暫くバーニアを吹かし滑空した後、いよいよ深層に到達したのか辺りの雰囲気が文明的な物に変わる。道は舗装され遠くには人工物…前哨基地のような明かりが見えてきた。

だが何らかの警戒網に引っかかったのか空間にアラートが鳴り響く。アラートは断続的に鳴り続けるがそれには警告の音声が混じっているようだ。それは明確にこちらの言語ではく彼ら「ティンダー」の言葉だと思われる。


そうして今までのモンスターとは毛色の違うロボットの形状をした敵が戦線を形作っている。こちらは全高二十メートルの大きさのロボットの掌の上なので相対的に小さく見えるが、それは全高五メートル程の四つ足の獣型のロボットだった。


「敵MT確認ですわ!!」


サンディが相変わらずなんか言ってる。ゾイドでしょ…

そしてその戦線の手前でシャーロットはバーニアを逆噴射させロボットを停止させた。辺りに土埃が舞い、そして優しく着地した。同時に私達の体にかかっていた独特の浮遊感が無くなった。


「姫様、話し合いをされるならここで留まるのがよろしくてよ」


「ありがとう、クワッドさん!」


ティーラ姫はそう言って掌から降りる。掌は二十メートル近い高さだが彼女は水球を身に纏ってそれを動かしてゆっくりと降下していった。


周りには五メートル程の四足ロボット十機がガンダムを遠巻きに囲んでいる。そうして鳥っぽいドローンのような小型飛行ロボットが数機ガンダムの上空を舞い、空から警告の言葉を発した。


「熊女に告ぐ!熊女に告ぐ!両手を挙げて大人しく投降せよ!ここは我々ティンダーの領域である、抵抗は無意味である!繰り返す!両手を挙げて大人しく投降せよ!」


多分私の事だ。ダンジョンは独立していて繋がりは無いとティーラ姫は言っていたが、やはり何か繋がりがあったようだ。


「待ってください!ティンダーの皆さん!ボクらに敵意はありません!」


私としても事を荒げるつもりはない。なのでおもむろにロボットの掌の上で立ち上がり、大きく両手を挙げて交戦の意思が無い事を示した。ティーラ姫も私の行動を見て安堵の息を漏らしているようだ。

大人しく両手を挙げた私に対して鳥っぽいドローンは何かを確認しているのか、それとも何かの相談しているのか、暫く無言で旋回を続けていた。


そんな平和裏に事を収める可能性を全てご破算にするべく光が迸る。


「天よ」「神霊よ」「光を」「力を」「我が手に」「顕現せよ」「我が敵を挫け」「迸れ」「収束せよ」「穿て」「貫け」「神の槍よ」

射し穿て栄光の七つ星プレアデス・ストリーム!!」


サンディの光条魔法が鳥型ドローン七機を的確に捕え、一瞬で撃ち落とした。

落下した鳥型ドローンが地面に激突、爆発し大気を震わせる轟音が響く。

突然の蛮行にその場にいる者全て…敵味方、そして私を含む全ての者が唖然としているのが分かる。

私は場を混沌に叩き落とす事に定評のあるサンディバカの存在をすっかり忘れていた。どうして撃ち落とした…。


「私様は味方を見捨てたりなどしません事よ!!!!」


彼女は最悪の場面で女を魅せやがった。


「しっかり捕まって」


私はひとこと言い放つとデュオの細腕が私の腰をしっかりと掴むのを感じた。一瞬ここで待たせた方が良いのではないかと思ったが既にその身を中空に舞い上がらせた後だった。

そうして一瞬前まで私達が居たロボットの掌は四脚ロボから発射された電気を纏った網が四方八方からかけられていた。その場に残っていたサンディは焦げているように見えるだけだった。


(サンディちゃんは半分ギャグみたいな生き物だから大丈夫よ…たぶん)


妖精さんのサンディに対する強い信頼を感じる。うん、大丈夫だ…たぶん。

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